30年待たされた異世界転移

明之 想

文字の大きさ
113 / 1,578
第2章 エンノア編

フラッシュバック 2

しおりを挟む

『エンノアの食事はいかがでしょう? お口に合いますか?』

 エンノアの夜の宴。
 ゼミアさんとその家族、スペリスさん、ミレンさん、ゲオさん、サキュルスさんが参加しているのだが、フォルディさんの姿がない。

『ええ、とても美味しいです』

 美味しいのは間違いないが、どうにも料理に集中できない。

『それは嬉しいお言葉です。なにか気に入られた料理はございましたか?』

『そうですね……。この肉なんかは濃厚な味わいなのに食べやすくて、とても美味しかったです』

 集中できないが、味は確かだ。

『ああ、それはブラッドウルフの背肉ですね』

『それは、さきほどの』

『はい、コーキ殿からいただいたブラッドウルフです。コーキ殿の歓迎の宴にコーキ殿からいただいた食材を使うというのも失礼かと思いましたが、ブラッドウルフの肉は非常に珍しい食材でとても美味なものですから。新鮮なうちに是非味味わっていただきたいと思いまして』

 そうなのか。
 そんな食材をエンノアの皆さんに提供できて良かった。
 美味しいものを食べて、元気になってもらいたい。

『いえ、提供した食材を使っていただいて私も嬉しいです。しかし、ブラッドウルフの肉は初めて食べるのですが、美味しいんですね』

『お気に召されたようで、こちらとしても安心しました。まあ、その背肉もコーキ殿のおかげなのですが』

 こんな気持ちで食べていても、本当に美味しく感じる。
 フォルディさんにも食べさせてあげたいな。

 ……。

 そんな気分じゃないか。

 ……。

 大丈夫だ。
 そう、大丈夫。
 俺が何とかするから。

 リセットしてやり直すから。



――――――



 俺が何とかする?
 リセットする?

 ……。

 なぜ、そんな?

 ……。

 ……。

 滴る汗が頬を伝ったまま地面へと落ちていく。
 背中も冷たくなってきた。

 噛みしめた唇に血がにじむ。
 汗と血が混ざり合う。
 気持ち悪い。

 頭が痛い。

 うっ!
 吐きそうだ。

 そして、また光が……。



――――――



『コーキ殿、今夜は病人まで診ていただき、本当にありがとうございました』

 ゼミアさんとスペリスさんが、頭を下げて感謝の意を表してくれる。

『いえ、今後もお力になれれば嬉しいのですが……』

『その気持ちだけで十分です』

『コーキ殿も随分とお疲れでは?』

『私は、まあ……大丈夫です』

『そうは見えませんが』

『顔色が優れぬようで』

『いえ、本当に平気です』

『そうですか。ですが、あまり思いつめず、肩の力を抜いてくだされ。コーキ殿には何の責任もございませんから』

『今夜はゆっくりお休みください』

『……はい。では、休ませていただきます』

 本当はなるべく早くリセットするつもりだった。
 遅くとも今夜のうちにはと思っていたのだが、この状況を知ってしまった後では。

 ……。

 もうしばらく様子を見た後に、リセットしようと思う。

『それが好いです。でも、その前にこちらをお飲みください。疲労回復効果のある薬酒です』

 薬酒?
 そんな貴重なものを俺なんかに。
 ありがたいことだ。

『ありがとうございます』

 ゆっくりと口に含む。
 ほのかに苦味があるが、悪くない。

『これでゆっくり眠れますよ』

『そうで、す……ね』

 疲れのせいなのか薬酒の影響か、急に眠気が襲ってきた。
 言葉を返しながらも眠気に抗うことができない。

『コーキ殿、おやすみなさい』

『……は、い』

『明日になれば頭の中から悩みは消えていますよ。フォルディの力のことも……』

『……』



――――――



 ……。

 リセット前に経験したと思っていたものとは異なっているが。

 これは……。

 やはり、これは俺の記憶なのか?

 ……。

 断定はできない。
 が、そうなのかもしれない。

 どうして記憶にこんな齟齬が……。

 うっ!

 頭が痛い。

 けれど、そんな痛みより……。

 あの薬酒に何かあったのか?
 薬酒を飲んだ後の急激な眠気は確かに普通じゃなかったが……。

 分からない。

 分からないまま、もう何度目か分からない光が溢れ……。



――――――



『うそ? ブラッドウルフをひとりで倒すなんて!』

『す、すごい』

 右前方にいる女性は腰を抜かしているようだが、目立った傷は見当たらない。
 後方にいる男性は明らかに傷を負っている。

 手当てをしないとな。

 ひとまず、男性のもとに近づき。

『傷を見せてもらえますか?』

『えっ、は、はい』

『脚だけですか?』

『はい、他は擦り傷くらいで問題ないです』

『服の下も見せてもらいますよ』

 切り裂かれた服の下、かなり出血している。

『右脚をやられまして……出血していますが深手ではありません、大丈夫です』

『そうですか……』

 確認してみるが、確かに見た目ほど深い傷ではなさそうだ。
 これなら、俺の治癒魔法の応急処置でもいけそうだな。

 ということで、さっそく治癒魔法を行使。

『ところで、あなたは?』

 まだ治癒中だが、聞かずにはいられないという感じで尋ねてくる。

『通りすがりの者です』

『通りすがりって、こんな場所に?』

『そうです』

 実際、薬草採取のついでに散策していただけだから。

『そんなことが……って、えっ!?』

 突然、男性の眼が驚愕に染まる。
 何だ?

『ブラッド……』

 男性の視線の先、俺の背後には女性がいるだけだが。

『ユーリア!』

『きゃあぁぁぁ!!!』

 前からは男性の叫び声。
 背後からは耳をつんざくような悲鳴。

 治癒魔法を中断し振り返る、と。

 なっ!?

 ……。

 ……。

 女性が地面に倒れ伏していた。

 血だまりの中、ひとりの女性が浮かんでいる……。

『ユーリア、ユーリアァ!!』

『グルルル』

 何が?
 一瞬、思考が停止する。

『ユーリア!』

 脚を引きずりながら、必死に女性のもとへ向かおうとする男性。

『!?』

 その男性の勢いに思考が戻る。

 俺の傍らには息絶えたブラッドウルフ。
 男性の向かう先には倒れ伏す女性。

 そして……。

 腕を爪を真っ赤に染め上げた魔物。
 もう1頭のブラッドウルフ……。

 あいつ。
 あいつがやったのか!



しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生チートは家族のために ユニークスキル『複合』で、快適な異世界生活を送りたい!

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

異世界で目が覚めたら目の前で俺が死んでました。この世界でオリジナルの俺はとっくに死んでたみたいです

青山喜太
ファンタジー
主人公桜間トオル17歳は家族との旅行中、車の中ではなく突然なんの脈絡もなく遺跡の中で目が覚めてしまう。 混乱する桜間トオルの目の前にいたのは自分と瓜二つ、服装さえ一緒のもう一人の桜間トオルだった。 もう一人の桜間トオルは全身から出血し血を吐きながら、乞う。 「父さんと、母さん……妹をアカリを頼む……!!」 思わず、頷いた桜間トオルはもう一人の自分の最後を看取った。 その時、見知らぬ声が響く。 「私のことがわかるか? 13人の桜間トオル?」 これはただの高校生である桜間トオルが英雄たちとの戦争に巻き込まれていく物語

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...