30年待たされた異世界転移

明之 想

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第2章 エンノア編

エンノア 13



 ブラッドウルフが現れるであろうその場所に歩を進める。

 まだ、姿が見えない。
 が、おそらく……。

 この茂みの奥から襲ってくるんだろう。

 ……。

 間違いない。
 気配を感じる。

 ……。

 ああ、来たな。
 茂みをかき分ける音が聞こえると思った次の瞬間。
 予定通り2頭目のブラッドウルフが現れた。

 茂みから跳び出した勢いのまま、俺に襲いかかろうとする。
 望むところだ。
 かかってこい!

 俺に向かって跳躍したブラッドウルフに。

「雷撃!」

「ギャァァ」

 雷撃をまともに食らった衝撃で着地に失敗し、俺の前に無防備な頭をさらしている。

 これで終わりだ。

 剣を一閃!

 ……。

 ドオォォン。

 2頭目のブラッドウルフの頭が身体を離れ、その巨体が地に落ちた。


「また一撃で?」

「すごい……」

 終わったな。
 これで、ようやく終了だ。

 ここまで長かったような短かったような……。
 でも、ふたりとも無事で本当に良かった。

「ひとりでブラッドウルフを2頭も倒すなんて」

「信じられない!」



 ブラッドウルフとの決着はあっさりしたものだった。
 けれど、その後が想像以上にこってりとしていたと言うか何と言うか……。

「命を救っていただき、ありがとうございました」

「あなたの助けがなければどうなっていたことか」

「本当にありがとうございました」

「あなたは私たちの命の恩人です」

「なんとお礼を言ったらいいか」

「どうして2頭目のブラッドウルフが襲ってくるのが分かったのですか? 凄いです。ありがとうございました」

「素晴らしい剣捌きでした。ありがとうございました」

「見たこともない魔法です。ありがとうございました」

「すごい動きでした。ありがとうございました」

「ありがとうございました。ありがとうございました」

「……」

 このふたり、ありがとうと言わなければならない呪いにでもかかっているんじゃないのか。
 そう思ってしまうほど、とにかく感謝の言葉ばかり。

 まいってしまう。

 最初は返事を返していたけど。
 途中からはただ聞くだけになってしまった。

 こちらがもういいと言っても聞かないのだから……。

 ここまで感謝の言葉を繰り返されると、返答に窮してしまう。

 とまあ、しばらくはそんな感じで時間が過ぎ。
 その後、落ち着いたフォルディさんとユーリアさんを、なんとか上手く言いくるめて地下に入ることを許してもらった。




「コーキさん、こちらです。どうぞ」

 また訪れることになったエンノアの地下都市。
 今回は犠牲者を出すことなく、無事に入ることができた。

 ここまでは上手くいっている。

 けれど、今日という1日はまだ終わっていない。
 これからだ。

 失っていた記憶を取り戻し、気持ちを整理する前に状況に急かされるようにしてフォルディさんとユーリアさんを助け、そして今。

 安堵と弛緩に疑心と焦り。

 ……。

 自分でもよく分からないくらい、心の中には多くの感情が入り乱れている。

 ゆっくりと心を落ち着かせる時間が欲しい。

 でも、今はまだそんな余裕はない。
 ここに来た当初の目的を達成していないのだから。

 本当に色々あって忘れそうになるが、俺の今の目的はエンノアの病人を救うこと。
 これを忘れちゃいけない。

 他のことは、ひとまず保留だ。

 記憶改竄について考えだしたら、治療に集中なんてできないからな。
 それは後回しにして。

 今は患者を救うこと!
 そこだけに注力したい。

 だから、一刻も早く病人のもとに駆けつけたいんだ。




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