30年待たされた異世界転移

明之 想

文字の大きさ
135 / 1,640
第2章 エンノア編

モデル美女 1

「その……その焼酎は美味しいのかしら」

「蕎麦焼酎は飲んだことないですか。美味しいですよ」

「いえ、そうじゃなくて、その飲み方が……」

 ああ、なるほど。

 この店では刺身についてくる山葵が市販の練り山葵などではなく新鮮な生山葵で、さらに自分ですりおろす形式だったため、おろしたての山葵を蕎麦焼酎に入れて飲んでいたんだ。

「蕎麦焼酎に生山葵は合いますよ」

 これは本当にうまい。
 他の焼酎にも合うが、俺としては蕎麦焼酎が最も合うと思っている。
 すっきりした味わいに山葵が好いアクセントをつけてくれるからな。

「辛くはないの」

「焼酎に入れると辛さは和らぎますので、気にならないですよ」

「そう……。私も試そうかしら」

「それなら、蕎麦の方が合いますよ。芋でもいけますけどね」

 女性の飲んでいる芋焼酎もグラスに少ししか残っていない。
 それなら、蕎麦がおすすめだ。

「では、あなたと同じもの頼むわ」

「それがいいですね」

 俺と同じ蕎麦焼酎を注文する。

「ホント、辛くない。飲みやすいし、きりっと引き締まった感じもいいわね」

「それは良かった」

 思わぬところでこのモデル女性と話が弾んだが……。
 弾んだのか?

 とにかく、少し会話をしたものの、その後は話を続けることもなかった。
 焼酎好き同士、話も合うかと思ったが、そもそも話をする気がないみたいだったな。




「では、今夜はこれで解散。ではなく、二次会に行きましょう!」

 居酒屋の入っていた駅ビルを出たところで、武上が挨拶をしている。

「参加希望は、え~、俺を入れて7人。じゃあ、移動しようか」

「は~い」
「了解」
「行きましょう!」

 武上を先頭に、歩き出す7人。

「有馬、気をつけて帰れよ。それと、古野白を送ってやれ」

 振り返って大声で伝えてくる。

「武上も飲み過ぎるなよ」

「おう、リベンジが大事だしな」

 そう言って、去っていった。
 しかし、まだあんなこと言ってるんだな。

 さて……。

「このしろさん?」

 俺の横には例のモデル女性。

「何?」

「帰りは電車ですか?」

「徒歩よ」

「そうなんですね。では、家の近くまで送りますよ」

「結構よ、と言いたいところだけど、少しいいかしら」

 俺の返事も聞かず歩き出している。
 マイペースだな。

 時間もまだ早い、それに送るつもりだったから、まあ付き合うけど。

「……」

「……」

 ふたりきりなのに、無言で歩くのも居心地が悪い。

「今さらですが、このしろって、どういう漢字なんですか?」

「古い野原の白色よ」

「なるほど、古野白ですね」

「ありまは、有に馬かしら」

「そうです」

「そう」

「……」

「……」

 積極的に話す気はないらしい。

 ……。

 歩くこと10分。
 街から少し外れた場所にある公園の前で、古野白さんが振り返って一言。

「中に入るわよ」

 また返事も聞かずに入っていく。

 夜の公園で何があるんだ?

「ここなら問題なさそうね」

 立ち止まる古野白さん。
 公園の中の少し入ったところにある街灯の下。
 確かに、ここならお互いの姿が良く見える。
 と言ってもだ。

「こんな所で何か」

 正直、何がしたいのかさっぱり分からない。

「……あなた、それ本気で言っているの?」

「はあ、そうですが」

 不真面目にこんなこと言うのか。

「はぁ~」

 大きなため息をつかれた。
 なぜ?

「分かっていないようね」

「……」

 何を?
 疑問は出てくるが、口に出すのは憚られる。
 どうも、雰囲気的に怒っているようだからな。
 理不尽な話だけど。

「これで、どうかしら」

 そう言って、帽子と眼鏡を取り外す。
 街灯の光を反射して長く美しい黒髪が溢れ出てきた。

「……」

 で、何?

「どう?」

 どうと言われても、美人さんだなという感想しかない。

 ホント申し訳ないけど、何のことだかサッパリだ。
 まあ、前回の人生で会っているかもしれないけどさ、記憶にないんだよ。

「呆れた、まだ分からないの」

 と言われても、20年以上前の記憶だから。

「それなら」

 今度は髪を後ろでまとめ、腰に手を当て背筋を伸ばし、こっちを見つめてくる。

 ……。

 うん、まあ、あれだ。

 長い髪を後ろでまとめたモデル美女が夜の公園で颯爽と立っている姿は絵になる、ということは良く理解できた。

「分かった?」

 ……ん?

 さっきまで帽子と黒髪に隠れて分からなかったが、顔にうっすらと傷跡がある。
 見覚えがあるような。

 ……。

「どう?」

 細身のパンツルックに後ろにまとめた髪。

 あっ!?

 これは、もしかして。
 今の彼女は化粧っ気がないので少し雰囲気が違うが、あれか。

「もしかして、あの公園の」

「やっと、分かったようね」

 あの魔法使い!?
 魔法美女か。


 古野白さんに連れられてやって来た夜の公園。
 全く理解不能な状況だったのだが……。
 なるほど、古野白さんはあの魔法使いの美人さんだったのかと納得。

 いや、いや、納得できない!

 だから、何なのだという話だ。

 今後この人とは関わりを持つつもりはなかった、彼女もそのつもりだったのでは。
 というか、そういう風に話をしたよな。

 露見のこともある。
 ここは、さっさと退散するべきだな。

「それで、私に何か用ですか?」

「それでって、あんなことの後だから普通話しかけるでしょ」

「あの時、私はあそこにいなかった。だから、あなたとも会っていない。そういうことじゃありませんでしたか?」

「っ……。それは、そうかもしれないけど」

「でしたら、話は特にないですよね」

「……」

「では、これで失礼……。ああ、家の近くまで送りますよ」

「えっ、あっ、そうよ。飲み会で知り合った者同士、お話しするのはおかしくないでしょ」

 そうきたか。


感想 11

あなたにおすすめの小説

ひだまりのFランク冒険者

みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。 そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。 そんな中 冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。 その名は、リルド。 彼は、特に何もない感じに毎日 「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。 この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)