30年待たされた異世界転移

明之 想

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第4章 異能編

能力開発研究所 5

 橘と武志がこの研究所に!

「有馬くん?」

「ああ」

 里村を手で制し、後ろに下がらせる。

 しかし、これは……。
 事務所に襲撃などするものなのか?
 ここまでの強硬手段に出るはずはないのでは?
 しかも、たった3人で。

 それに……。

 なぜ物音に気付けなかったんだ?

 鷹郷さんとの会話に集中していたからか。
 特別な防音室の中だから、気配を感じ取ることができなかったのか。
 俺の耳でも?

「有馬君、里村君をお願い」

「分かりました」

 一歩前に出て、鷹郷さんの横に並び立つ古野白さん。

「一般職員を手にかけるとは、どういうつもりだ!」

「どうもこうもない。前回の借りを返そうと思ってな」

 怒りを滲ませる鷹郷さんに対し、橘の顔には不敵な笑み。
 傍らの武志は真剣な表情を浮かべている。
 もう1人の女性は……やはり初めて見る顔だ。

「……」

 3人しかいないのに、橘のあの余裕。
 何をするつもりだ?
 どう仕掛けてくる?

「彼らは無事なんだろうな?」

「命までは取っていないさ」

 意識を失っているだけ、か。

「……最低限の信義は守っているようだな」

「当り前だろ。そっちとは違い、私は紳士なのだから」

「どの口が言う!」

「失敬だなぁ」

「……警備の者たちも無事なのか?」

「ああ……下にいた奴らか。そうだな、命は奪っていない」

「……」

「納得したか?」

「……まあ、いいだろう。探す手間が省けたというものだ」

 橘たち3人とこちらの3人が睨み合っている中で、俺はこっそりと鑑定を試してみる。

「……」

 やはり、あの女性は異能者。
 持つ異能は古野白さんと同じ炎系。

「橘さん?」

「ああ!」

 頷き合う武志と橘。
 この2人のステータスにも変わりは?
 一応確認だな。


「橘、ここで捕らえてやる」

「残念ながら、それは無理じゃないかな」

「試してやろう」

「できればいいな」

「……」

「ふふ、まだ分からないのか?」

「何をだ?」

「ふふ、ははは……。お前たちは既に捕まっているんだよ」

「なっ!? まずい、みんなここから離れろ」

「えっ?」

「はい?」

 何だ?

 鷹郷さんの怒声に鑑定をしていた俺の集中が切れる。
 何が起こって?

「しまった、遅かったか」

「うそっ、結界が! こんな短時間に?」

 結界?
 また結界に閉じ込められた?

 でも、どうしてだ?
 結界発動には時間がかかるはず。
 こっちは奥の部屋から出てきたばかりなのに。

 こんな短い時間で結界を構築できるなんて……。

「鷹郷さん、どういうことです?」

「おそらく、我々がここに戻ってくる前に結界を固定し、発動の準備を終えていたんだろう」

「発動を待つだけ、だったのね」

 そんなことができるのなら、あらかじめこの通路に結界を仕掛けて……。

「……」

「その通り。結界の展開には時間がかかるという常識に捉われたお前たちの負けだ」

「くっ!」

「橘ぁ!」

 やられた。
 完全にやられてしまった。

「えっ、えっ、有馬くん、ボクたち閉じ込められたの?」

「そうみたいだな」

「どうしよう」

「里村君、ごめんなさい。でも……大丈夫よ。私たちが何とかするから」

「古野白さん……」

「ふっ、何ともならないぞ」

「……」

「ということで、今回はさっさと眠ってもらおうか」

 その言葉が終わるやいなや、煙が結界内に立ち込め始める。

「これは、催眠ガス?」

「ゆっくり眠るといい。まっ、起きた後は拘束されているんだがな」

「鷹郷さん!」

「ああ、ガスが効く前に結界を破壊するぞ」

「はい!」

 鷹郷さんが、異能で作り出した風で結界の破壊を開始。
 何度も風を結界にぶつけているが、変化は見えない。

 あの屋上でも結界破壊までには結構な時間がかかったようだし。
 やはり、風の異能では短時間で破壊するのは難しいか。

 となると、他に何か手段は?
 前回を教訓に、今回は結界破壊の準備があるとか?

「……」

 あるとは思えない。

 まいったぞ。
 ここは、どうしたらいい?
 どうすべきなんだ?

「……」

 鑑定で煙を調べてみたところ、橘の言葉通り単なる催眠ガスだった。
 ということは、命の危険はない。

 命の危険はないが……。

 やはり、俺が力を貸すべきか?
 結界に手を触れた感じでは、簡単に破壊できそうだったし。

 しかし、前回の件で露見の点滅が増えている状況で……。

「くっ、まずい!」

「だめ、意識が……」

「ううぅ……」

 早い、もうガスの効果が?

 鷹郷さん、古野白さん、里村と全員が膝をつき、そして……。
 床に身体を横たえてしまった。

 こんなに早く催眠ガスの効果が表れるなんて!
 いくらなんでも早すぎる。

 鑑定では分からなったが、特殊なガスなのか?
 けど、俺は全く眠くないぞ。

「……」

 まあ、いいだろう。
 3人とも命に別条はないんだ。
 大きな問題じゃない。

 いや、むしろ好都合か。
 この3人は、しばらく何も見えないのだから。

 ならば、俺がこの結界を破壊するだけ。

 アイテム収納から短剣を取り出す……必要もないな。
 素手で充分だ。


「どうしてあいつには効かない?」

「分かりません。でも、あいつ……」

「効きが遅いだけじゃ?」

「普通人なんだろ?」

「はい。あんな異能者は確認できてませんので、普通人だと思います」

「普通人が?」

「問題はないですよね」

「……ああ、問題はない」

 橘は俺があの時の追跡者だと気づいていない?

 そうか。
 今日は帽子もサングラスも無いからだな。

「あなた、普通人が素手で結界を破壊するつもり?」

「無駄だ、無駄。あの鷹郷でも破壊できないんだからな」

「……」

 そうか?
 破壊できると思うぞ。

 少しばかり魔力を拳に集めてと……。

「ガスが効かない程鈍いようだな。頭の方も」

 うるさい奴だ。

「武志、結界は大丈夫なのよね?」

「それは大丈夫です。強化した僕の結界ですよ。でも……」

 さあ、これで十分。

「無駄なことを。愚かな奴だ」

 まあ、そこで見てろ。
 自慢の結界が破壊されるところをな。

 よし!

 ゆっくりとしたモーションから正拳突きを一発、結界表面に。

 ドガン!

 鈍い音と衝撃。
 そして。

 パリーーーン!

 高音が響き渡った。

「な、な……!?」

「えっ、何?」

「僕の結界が! そんな馬鹿な……」

 呆然とする3人。
 こちらの3人は眠ったまま。

 悪くない状況だ。
 とはいえ、良い状況でもない。

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