30年待たされた異世界転移

明之 想

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第4章 異能編

和見幸奈 6

※ 今話もセンシティブな内容となっております。
※ 後書きに、前話、今話の内容を簡単に記しておきますので、
※ 苦手な方は、後書きを読んで先に進んでください。






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<和見幸奈視点>



 それは、様々な……。

 様々な爬虫類の死骸だった。

 ……。

 ……。

 虫だけでも、どうしようもなく気持ちが悪かったのに。
 辛かったのに。
 
 爬虫類の死骸だなんて!


 ……あの時。

 実際にそれを見たあの時。
 目に入ったあの瞬間。

 頭が真っ白になって。
 何も考えられなくなってしまった。

 気を失っていたのかもしれない。

 ……。

 ……。

 でも、父は……そんなわたしの様子など気にする素振りもなかった。
 養女が恐ろしい液体の中、真っ青な顔で震えているのに、何も……。


 液体の中に追加されたそれら。
 虫とは違い、確かな質量をもってわたしに迫ってくる異物。

 耐えがたい不快感と絶え間ない嘔吐感。
 そんなものにさいなまれながらも、わたしは逃げ出すことができなかった。
 父の言葉を拒絶することはできなかった。

 それでも……。

 やはり、慣れとは恐ろしい。
 人とは恐ろしい。

 何度もそれに浸かっているうちに、麻痺したように嘔吐感は消えていったのだから。
 もちろん、不快であることに変わりはなかったのだけれど……。



 3度目の変化。
 それは浴槽内での変化ではなかった。

「はじめまして幸奈さん」

 あの不気味な液体に身体を預けるようになって4か月が経過した頃。
 父がある女性を連れて地下室にやって来た。

「こちらの素晴らしい異能の使い手が、異能発現の手助けをしてくれる」

 父の傍らにいたのはわたしと同年代に見える細身の女性。
 夏だというのに、全身を黒一色で覆っている。
 黒のロングスカート、黒のシャツ、手にも黒い手袋。
 素肌を見せているのは顔だけ。

 まるでわたしを葬送にやってきた死神のような姿……。

 対するわたしは、いつものように下着を身に着けているだけ……。

「では、さっそく始めますわ」

「よろしく頼む」

 浴槽の前で呆然と佇む私の前に歩み寄って来る彼女。
 顔にかかる長く綺麗な黒髪を払いのけた手が私に向けられ。

「憂波!」

 彼女のその言葉とともに現れたのは……。

 音?

 とても小さいけれど……。
 耳の中を、頭の中を直接触られているような、そんな音が響き渡る。

「……」

 最初はちょっと不快なだけだった。
 それなのに。

「痛い!?」

 次第にその音が頭の中で動き回り、耐え難い痛みが頭を襲ってきた。
 例えるなら……そう、火箸で頭の中をかき回されているような激痛。

「うぅぅ」

 立っていることもできず、床に手をつき倒れてしまう。
 あぶら汗があふれ出てくる。

「や、やめて」

「……」

「お願い、やめて!」

「……どうします?」

「もう少しだけ続けてくれるかな」

「ええ、分かりましたわ」

 そんな!

「お父様」

 お願い!
 やめさせて!

 お願いします!

 お願いだから。

 ああぁ……。

「……」

「……」

 意識が消えてしまった。




 異能をその身に浴びることで異能発現につながる。
 異能の世界で囁かれているそんな話を信じた父。

 その後も、わたしは何度となく異能にさらされることになってしまった。
 その大半は、音波を使うこの女性。
 あとひとり、20歳くらいの若い男性の異能者がやって来ることもあった。

 そんな生活が半年間。
 父がわたしの異能発現を諦めるまで続いた。

 ……。

 ……。

 ……。

 液体に死骸に異能。
 あの15歳の6か月。

 もう思い出したくもなかったのに……。

 また、父に呼び出されてしまった。
 地下室に来るように言われてしまった。

 あれを再開!

 いや!!

 いやだ!!!

 あんな事されたくない。
 もう、耐えられない。

 それなのに……。

 それなのに、この身体はいまだに反応してしまう。
 父に命令されたら……。

 ……。

 ……。

 ……。

 助けて。

 助けて!

 わたしを助けて、功己!!

 ……。

 ……。

 でも……。

 そんな姿、見られたくない。

 知られたくない。

 だから……。

 だから、せめて。

 わたしを見捨てないで!
 わたしを嫌わないで!

 お願い!!

 こんな汚れたわたしだけど……。

 こんなわたし……。

 ……。

 ……。

 ……。







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<『和見幸奈 5、6』の概略>

異能発現のため、父親から様々な苦行を強いられる幸奈。
15歳時、半年の間その苦行に耐えた幸奈だったが、結局異能が発現することはなかった。

そして、20歳になった今。
また父親に呼び出され……。


※ 最後の40行は比較的読みやすい内容です。
※ 気になる方は、そちらを読んでから先にお進みください。
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