30年待たされた異世界転移

明之 想

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第5章 王都編

手合わせ 5

 逸らしきれなかったヴァルターさんの剣先が胸に迫る!

「くっ!!」

 左半身を後方に退き。
 半身はんみの状態で、なんとか避けようとする。
 が、剣先の軌道が微妙に変化!

 胸の前に!
 もう完璧に避けるのは無理だ!

 が、直撃は避けてやる。
 筋力だけで半身になった上半身を反らし、強引に後ろに倒す!

 ヴァルターさんの剣先は俺の胸上を掠め。
 通り過ぎた!

 よし!

 上半身を後ろに反らすと同時に、前に伸ばしていた右腕。
 そこから、無理やり上に木剣を振り上げてやる。
 剣身をヴァルターさんの首へ。
 首へ!

 首元で停止!
 決まった!

 寸止めだ!

「……」

「……」

 反らした俺の胸の上には、通り過ぎたヴァルターさんの木剣。
 こちらの剣身はヴァルターさんの首元。

「……オレの負けだな」

「いえ」

 今の体勢を見ると、こちらの勝ちに見えるが。

「これですから」

 右手に握った木剣を軽く振るうと。

 ボトッ!

 剣身の中程から折れ、地面に落下。

「……」

 ヴァルターさんとの剣戟、さらに最後の芯を外した一撃。
 これで限界を迎えたのだろう。

「私の負けです」

「いや、その折れた木剣でも首を打たれたんだ。勝敗に変わりはない」

「……」

「それに、これが真剣だったら完全にやられている」

 最後の一撃はそうだろう。
 ただ、これまでの戦いがどうなったかは分からない。

 そもそも、この手合わせは木剣前提なのだから。

「オレの負けだ」

「では、今回は引き分けということで、どうでしょう」

「……いいのか?」

「もちろんです」

「ふっ、分かった。今回は引き分け、そういうことにしておこう」


 引き分けにしよう。
 その言葉がヴァルターさんの口から出ると同時に。

「「「「「「「「「うおおぉぉぉ!!!」」」」」」」」」

 勝負の行方を固唾をのんで見守っていた冒険者たちの静寂が破られ、割れんばかりの歓声が響き渡る。

 凄い声量だ!
 これは、さっきとは桁が違うぞ。


「すげぇ!!」
「ああ、凄い試合だった」
「いいもの見たぜ」

「あいつ何者だよ」
「オルドウの新人冒険者らしいぞ」
「とんでもねえな」

「幻影もあいつも、恐ろしいぜ」
「信じられねえ腕だ」


 歓声と叫び声に、手合わせの興奮が冷めていく。
 すると、待っているのは現実。

「……」

 ちょっと、目立ってるよな。
 勝負が楽しくて、つい熱くなってしまったから……。 


「俺もあいつと戦ってみたいぜ」
「お前なんて無理、無理。幻影と引き分けたんだぞ」

「上級のやつらがこの試合を知ったら、あいつに手合わせ申し込むんじゃないか」
「それは、あり得るな」

「剣姫と戦うかもよ」
「おっ、それは観てみたい」


 歓声が響く中、冒険者の口から溢れる感想がはっきりと耳に入ってくる。
 少し目立つどころじゃない。
 注目を集め過ぎだ。

 ただ……。

「オルドウの冒険者アリマか」
「茶髪の凄腕新人だな」

 茶髪の冒険者アリマ。

 あらかじめ手を打っておいて良かった。
 大正解だ。

 今回は数日で王都を去る予定。
 それに、この認識。
 大きな問題はないだろう。
 そう思いたいな。

 とはいえ、この場は早めに退散した方が良さそうだ。




************

<キュベリッツ王国王太子視点>



「とんでもないぞ、あの青年」

 興奮を抑えきれない。

「実質、アリマ青年の勝ちだ」

「……」

「幻影に勝ったんだぞ!」

 あんな冒険者がオルドウにいたなんて、驚きしかない。

「真剣だったら、どうなっていたか分からないわね」

「真剣なら折れてないだろ。間違いなくアリマ青年の勝ちじゃないのかな?」

「そう単純な話ではないのよ」

 そうなのか?
 まあ、剣姫さんが言うのだから間違いないのだろうけど。

「ともあれ、彼が素晴らしい腕の持ち主であることに変わりはない」

「……そうね」

「素晴らしい冒険者だ」

 欲しいな。
 冒険者を辞めて僕の下に来てほしい。
 いや、冒険者のままでもいいから、僕の下で働いてもらえないだろうか?

 あとで調べる必要がありそうだ。

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