30年待たされた異世界転移

明之 想

文字の大きさ
437 / 1,640
第6章 移ろう魂編

急転 5

<セレスティーヌ視点>



 しばらく沈黙が続いた後。

「あっ、申し訳ありません。大変なのはセレス様なのに、わたしが取り乱してしまって」

「いえ……」

 それはいいのだけど。
 今はそれより、わたしのことを聞かないと。

「セレス様?」

「ごめんなさい、シアさん。本当に何も思い出せないんです」

「……」

「あの、わたしに色々教えてくださいませんか?」

 悲しそうな、それでいて難しい顔になるシアさん。

「記憶喪失……。でしょうか?」

「多分……」

 そうだと思う。
 というか、記憶喪失以外考えられない。

「……分かりました」


 その後。
 シアさんとわたし、共に詳しい事情は分からないながらも、お互いの認識をすり合わせるようにして話を進め……。


「……そうだったのですね」

 最低限のことは把握できたと思う。

「はい。セレス様はワディンの神娘でございます」

「神娘……」

 わたしはセレスという名の辺境伯爵令嬢。
 その上、ただの令嬢ではないらしい。

「……」

 身上は分かった。
 理解した。

 ただ……。
 頭で理解はしても、心がついてこない。

 だって!
 わたしが神の娘と呼ばれているなんて!

 そんなこと、すぐには信じられないから。


 と、そこで。

「シア殿、話し声が聞こえたのだが……」

 扉の外から声が聞こえ。
 直後、扉が開いた。

「シア、誰と話してたんだ……っ!? セレスさん?」

「セレスティーヌ様!?」

「セレス様!!」

「……!!」

 顔を出したのは20歳くらいの男性。
 さらに、その後ろから3人の人たちが部屋に入って来る。

 その4人の姿を見た瞬間。

「アル……ディアナ……ユーフィリア。ヴァーンさん……」

 見覚えがないはずなのに、名前が頭に浮かんでくる。
 そして。

「痛っ!」

 さっき感じた以上の頭痛と目眩が……。

「えっ、セレス様? 大丈夫ですか? セレス様!」

 頭が痛い!
 重い!

「あっ!」

 目の前が暗くなり……。

「セレス様、セレス様!?」
「セレスさん!」
「セレス様」

 シアさんと皆さんの声が響く中。
 また……。
 意識を手放してしまった。





「うぅぅ……」

 ここは、寝台の上?
 わたしは?

「セレスティーヌ様!」

「……」

「セレス様!」

「……」

「セレス様!」

 そうだ、わたしは……。

「シアさん?」

「あぁ! セレス様! また意識が戻らなかったら、どうしようかと……」

 わたしの周りには、シアさんたち。
 心配そうにこちらを見つめている。

「……心配かけて、ごめんなさい。でも、大丈夫ですから」

 頭痛は少し残っているけれど、これくらいなら平気。

「本当ですか? 本当に、大丈夫なのですか?」

「はい」

「……」

 二度も意識を失ったのだから、シアさんが心配するのも当然かな。

「よかった、セレスさん。良かったですよ!」

「えっと、ヴァーンさん? ご心配をおかけしました」

「そんなことはいいんです。あなたが目を覚まされたことが一番なんですから」

「……」

「セレス様、ほんとに良かった」
「セレスティーヌ様……」
「よかった……」

 こちらを覗き込む皆さんの様子を見ていると、わたしのことを心から気遣ってくれているのがよく分かる。

 わたしのために、こんなに!


「シアさん、わたしはどれくらい眠っていましたか?」

「今回は……四半刻も眠っておりません」

 四半刻というのは……30分。

 意識を失っていたのはそれだけ。
 でも、その間にわたしは……。

「セレス様、まだ横になっていてください」

 寝台の上に座ろうとするわたしを見つめるシアさんの瞳は不安に揺れている。

「平気ですよ。今意識を失った理由も何となく分かってますから。ヴァーンさん、アルさん、ディアナさん、ユーフィリアさんも、わたしはもう大丈夫ですので」

「おれたちのこと分かるんですか?」

「はい」

「セレス様が記憶をなくしていると、姉さんから聞いたんですが?」

「そうなんですけど……」

 断片的に記憶が戻ってきたみたい。
 特に、今意識を失っている間に。
 だから、あんなに頭が痛かったんだ。

「少し思い出せたみたいです」

「えっ! 思い出した?」

「はい、まだ少しですが」

 それでも、ここにいる4人のことは認識できる。

「セレスティーヌ様、わたくしのこともお分かりになるのですよね?」

「もちろんです。ディアナさん」

「……」

「本当、これで一安心だぜ。けど、セレスさん、その話し方は?」

「そうですよ、記憶が戻ったんなら?」

「それが、今回は記憶が戻ったというより……。知識として頭の中に戻ってきたような感じなのです」

 この部屋にいるのはシアさんアルさん姉弟、冒険者のヴァーンさん、護衛騎士のディアナさんにユーフィリアさん。

 それは理解できるのだけれど、実感のようなものが持てない。
 本で知識だけを身に付けたような、そんな感じがする。

感想 11

あなたにおすすめの小説

ひだまりのFランク冒険者

みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。 そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。 そんな中 冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。 その名は、リルド。 彼は、特に何もない感じに毎日 「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。 この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。