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第6章 移ろう魂編
急転 9
しおりを挟む「コーキさん、どうしたの?」
「幸奈?」
どうした?
それを聞きたいのはこっちだぞ。
「……ユキナ? ゆきな??」
「大丈夫か? まだ、完全に覚醒できてないんじゃ?」
「私は大丈夫です。それより、ゆきなって?」
「自分の名前が分からないのか?」
「名前?」
「……」
俺のことは認識できているのに、自分のことが分からないと?
明らかにおかしい。
普通じゃない。
「とにかく、一度休もう。ほら、ベッドに戻って横になるんだ」
「……はい」
頷く様子に、異常は見えない。
当たり前のことながら、目の前にいるのは幸奈。
俺のよく知る幸奈そのもの。
とすると、これは……。
記憶の障害?
覚醒直後の混乱?
「……」
何か問題があることは確かだろう。
それでも、こうして目を覚ましてくれたんだ。
少し休めば大丈夫。
そのはず!
ベッドに戻った幸奈。
俺はいつも通り傍らの椅子に腰掛ける。
とりあえず、落ち着こう。
「……コーキさん」
功己ではなくコーキ、か。
「教えてください」
「……」
「ゆきなという名が私の名前って、どういうことですか?」
どうもこうもない。
それが、おまえの名前なんだ。
ただ。
「一時的に自分の名前を忘れているんだろうな」
「……コーキさん、大丈夫?」
「こっちは何の問題もない。大丈夫じゃないのは、おまえの方だぞ」
「おまえ? コーキさんが私をおまえって?」
「……」
「それに、話し方もいつもと違う……」
自分の名前を忘れているだけじゃない?
覚醒直後で混乱しているとはいえ、この返答は?
「……」
やはり、今はゆっくりと休んだ方がいい。
あとはそう、担当の医師に話をすれば、この症状について何か分かるかもしれないな。
「幸奈はまだ本調子じゃないんだ。少し休もうか」
「あの……」
「うん?」
「私……私の名前はゆきなではないです」
それは、思い出せないだけなんだよ。
「分からないのですか! コーキさん!」
「いや、だから……」
「……そんな。コーキさんが私のことを分からないなんて!」
「……」
だからな、お前は幸奈なんだよ。
ああ、こっちも混乱しそうだ。
「どうして!」
「どうして!!」
っ!?
涙!?
幸奈が、ここで涙を?
「……忘れて、しまったの?」
忘れて?
「コーキさん!」
涙をたたえながらも、必死に言葉を紡ぐ幸奈。
そこには真実しか見えない。
ただ?
「……」
どうなってる?
意味が分からない。
ほんと、まったく分からない。
それでも。
「忘れたんじゃない。忘れてるのは幸奈の方だ。長い間眠っていたから、記憶が曖昧になっているんだよ。けど、心配しなくても大丈夫。すぐに思い出せるはずだからさ」
「……」
「思い出すためにも、今はゆっくり休んだ方がいい」
「コーキさん、そんな嘘ばかり言って!」
「嘘じゃない。幸奈はずっと眠っていたんだ。その影響で……」
「違う! 私はセレスです!」
えっ!?
「私の名前はセレスです!」
「??」
何を言ってる?
「私は、セレスティーヌ・キルメニア・エル・ワディン」
「……」
「ワディンのセレスです。あなたに助けてもらったセレスなんですよ!」
いったい何を言いだすんだ、幸奈!
でも……。
どうしてその名前を知ってる?
幸奈がセレス様の名を知っているわけないのに?
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