30年待たされた異世界転移

明之 想

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第6章 移ろう魂編

エビルズピーク 6

<ヴァーンベック視点>



 ブラッドウルフ。
 強力な魔物だ。
 この辺りで遭遇する類の魔物じゃねえ。

「ヤバイ相手だよな?」

「ああ、ヤバイ魔物だ」

「くっ! そんな魔物が2頭も!」

「アル、焦る必要はねえ」

 この状況で焦ると、ろくなことがないんだ。
 冷静になれよ。

「けど、ヴァーンさん!」

「ヤバイつってもなぁ、ダブルヘッドに比べりゃあマシなんだぜ」

「ダブルヘッドより?」

「そう、やつより数段落ちる」

「……」

「だから、大丈夫だ。何と言っても、俺たちはダブルヘッド2頭と戦った経験がある。そうだろ、アル!」

「……ああ」

 ブラッドウルフは簡単な相手じゃない。
 それでも、あん時に比べりゃあ。
 今は、そう思わねえとな!

「……分かった。ありがと、ヴァーンさん」

 ちっとは落ち着いたか。

「……」

 アルも落ち着いて、 前方広場の状況も予想通り。
 戦闘はまだ始まっていない。
 魔物に対する騎士たちの動きも悪くねえ。

 これなら!
 ブラッドウルフ2頭を相手にしても、慎重に戦えば何とかなるはず。
 倒しきることもできるはず。

 ただし、問題がひとつ。

 テポレン側から武装兵がこちらに向かって来ることだ。
 とはいえ、それもやりようか。
 上手くいけば……。


「ヴァーンさん、広場に入ったぞ」

「予定通り、アルはセレスさんのもとだ!」

「おう!」

「グルルゥゥ」

「グルゥゥ」

 広場に現れた俺たちにブラッドウルフの注意が向いている。
 動きは止まったまま。

「「「ヴァーン、アル!」」」
「「「ヴァーンさん」」」

 よーし!
 俺もアルも上手く合流できた。


「隊長、状況は?」

「見ての通り、これからです」

「なら、陣形は?」

「Bでいきましょうか」

「ああ、賛成だ」

 ワディンの騎士と俺たちが一緒に訓練し考えた対魔物陣形のひとつ。
 まだ訓練不足だが、一応形にはなっている。
 それは、ここまでの戦闘でも実証済み。

「ひとつ悪い報告がある」

「何です?」

「テポレンから兵士がこっちに向かってる。レザンジュ王軍だ」

「っ!?」

 驚くのも当然。
 けどなぁ、物は考えようだ。
 この状況、上手く利用してやればいい。

「奴らが現れたら巻き込んでやろうぜ」

「……面白いですね」

「だろ」

「では、それまでは無難に戦いましょうか」

「ああ」

 さすが隊長。
 話が早い。

「皆、よく聞け。テポレン側からレザンジュ軍がやって来ているようだ」

「「「「「「なっ!?」」」」」」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

「だから、奴らもこの戦いに参加させてやる。そのつもりで動くように」

「おお!」
「それは面白い」
「なるほど」
「いいですねぇ」

 皆が方針を理解したところで。

「始めようぜ!」

 戦闘開始だ。

 こっちは俺とアル、シア、ディアナ、ユーフィリア、そこに4人の騎士が加わり9人でセレスさんを守りながら態勢を整える。

「よし、放てぇ!」

「ファイヤーボール!」
「ファイヤーボール!」
「ファイヤーアロー!」
「アイスアロー!」
「ストーンバレット!」

 魔法による一斉攻撃。

「グルォ!」
「グゥゥ!」

 ほとんどは避けられ、当たった魔法も効果は薄い。
 それでも、牽制には充分。

 まあ。

「ゆっくりいこうぜ」




*********************




 卵から孵化して数日。
 地中を彷徨っていたそれ・・は遂に辿り着いた。

 暗く狭い地中から抜け出せた喜びに身を躍らせたそれだったが、次の瞬間……。

「!?」

 初めて目に入る陽光に、驚きと痛みを覚え。
 その場に蹲ってしまう。

「ウゥゥ……」

 泥にまみれ地上に蹲っているその様を目にした者は、それをただの小岩と勘違いしてしまうのではないだろうか。

 そう思われるほど長い時間動くこともなく留まっていたそれ。
 ようやく光にも慣れたのであろう、ゆっくりと身を起こし辺りを窺う。

 すると……。

 それをここまで突き動かした衝動。
 貪婪どんらんなまでの渇きが再びそれを激しく動かし始める。

 地を這うように山中を進み水場に到着。

「オオォォォ」

 これまた生まれて初めての水に歓喜の声を上げ、ただひたすらに喉の渇きを潤し始めた。

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