30年待たされた異世界転移

明之 想

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第7章 南部編

15分 1


 剣は?
 エビルズマリスを貫いたか?

 っ、届いてない!

 貫通手前で止まってる。
 これでも足りないなんて。

 なら!
 ならば、もう一度!

「!?」

 駄目だ。
 もう動かない。

 剣身が筋肉と真皮で固定されてしまった。
 魔力の付与も消えて……。

 剣姫の一撃目と同じ。
 真横に突き刺さるドゥエリンガーとまったく同じ状態に。

「……」

 俺の剣はドゥエリンガーより深く刺さっている。
 首元に半ば以上埋まっている。
 だが、貫通には至ってない。
 これじゃあ、倒せない。


「アリマ、貫けぬのか?」

「……」

 さっき悲鳴を上げたエビルズマリス。
 雷撃の効果か、今は動きを止めている。

 が、その眼には生気が。
 確かな気力が。

「グルゥゥ」

 雷撃で身体は痺れ、首元には二振りの剣が深々と突き刺さったまま。
 青い鮮血も溢れ出ている。
 なのに、あいつの眼は終わっていない。

「グギャ……」

 ただ、この苦悶の表情。
 もう一歩だ。
 あと一押しがあれば倒せるはず。

「アリマ!」

「……続けます」

「……うむ」

 剣身が首元に埋まっている状態では、剣に魔力を通すことはできない。
 引き抜くのも容易じゃない。
 いや、不可能に近い。
 剣姫が試したことで、それは理解している。

 じゃあ、何をすればいい?
 どう続ければ?

 続けるといった言葉が虚しく彷徨ってしまう。
 と、その時。

「グゥオォ!」

 あいつの周りの空間が歪み始めた。

「空間が? あいつ、逃げる気だぞ!」

 そうだった。
 半刻は過ぎてたんだ。
 となると、いつ逃げられてもおかしくない。

 このまま異界から去られたら……。

 また、やり直し。
 その上、次はエビルズマリスが進化してる可能性も。

「……」

 防ぐ術は?
 今できることは?
 さっき握りしめていたあれ・・はどうだ?

 溜まって……?
 間違いない、魔力の充填が完了してる!

 なら、使える!

 あの怪物に効果があるかどうかは分からない。
 それでも、もうこれしかない。
 賭けるしか!

「……エリルエイル」

「アリマ?」

「ベアサマ」

「どうした?」

「メニケアイニシャ」

「何を唱えて?」

「リゼンタ」

「まさか、宝具!?」

 その通り。
 マリスダリスの刻宝。

「リネムソウ!」

 発動だ!

「グルゥ?」

 唱え終わった呪言が、エビルズマリスを捕らえる。
 呪言が実体化したかのように、歪んだ空間に喰らいつく。

「……」

「……」

 空気が変わる。
 エビルズマリスの周りが閉ざされ。
 歪みがミシミシと音を立て、圧迫されていく。

 呪言が幽鬼の息遣いをもって、エビルズマリスを喰らい尽くそうとしている。

 そして。

 キィィィン!

 弾けた!
 エビルズマリスの周りの歪みが弾け飛んだ!


「アリマ?」

「……上手くいったようです」

 刻宝発動の結果。
 俺たちの眼前では……。

 異界脱出のための歪みが跡形もなく消失。
 エビルズマリスも完全に動きを止めてしまった。

「宝具があいつを捕らえたんだな」

「ええ」

 正直、成功確率が高いとは思っていなかった。
 これしか手段がなかっただけなんだ。
 けど、上手く発動してくれた。
 逃亡を防ぐことができたんだ。

「……刻宝か?」

「はい、マリスダリスの刻宝です」

「なぜ君がそんな宝具を?」

「それは……」

 オルセーから奪って……。
 説明している時間はないな。

「今は急ぎましょう。刻宝の効果時間は長くないですから」

 刻宝が効果を発揮するのは15分程度。
 相手がエビルズマリスとなると、10分や5分の可能性もある。

「……うむ」

 この限られた時間で、剣を貫通させることができなければ。
 もう、あいつの脱出を防ぐ手立てはない。

 15分が勝負。
 正真正銘、最後の勝負だ。

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