30年待たされた異世界転移

明之 想

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第7章 南部編

崩壊

 鉄錆の大地が揺れている。
 この異界に来て初めての事態。
 何が起ころうとしているんだ?

 とりあえず。

「イリサヴィア様、こちらへ!」

「うむ」

 ふたり背中合わせで、不測の事態に備える体勢に!

「アリマ、どう思う?」

「……ただ事ではないでしょうね」

「ああ、地震など存在せぬ異界が揺れているのだからな」

 ここには地震が存在しない?

「では、この揺れは?」

「……」

「イリサヴィア様の読まれた文献に、記述はありませんでしたか?」

「揺れについての記述は目にしたことがないのだ」

 剣姫の異界についての知識は、王都の図書館所蔵の文献から得たものらしい。
 その文献にも、異界の揺れについての記述はなかったと。

「残念ながらな」

「記述がないのなら、仕方ないですよ」

「うむ。ただ、今回の揺れ……」

「……」」

「異界の創造主を倒した直後という状況を考えると」

「異界が、崩壊している?」

「その可能性が高いだろ」

「崩壊したら、中にいる私たちはどうなるのでしょう?」

 脱出できるのか?

「……分からぬ」

 脱出できなかった場合。
 崩壊に巻き込まれ……。

「……」

「……」

 ゴゴゴッ!
 ズズッ、ズシンッ!!

 不吉な想像を吹き飛ばすような一際激しい揺れ!
 そんな揺れが連続で!

 ズッシーーン!!

 立っているのも難しい!

「っ!」

 傍らの剣姫が凝視しているのは何もない空間。
 何もないはずの赤銅色の空が!?

「あれは!」

 崩れている!?
 空が崩れるという信じられない現象が、目の前で起こっている!

「アリマ、身体強化だ!」

「ええ!」

 崩壊に耐え抜くには身体強化しかない。

 ゴゴッ、ゴゴゴォォ!!

「地面も!」

 空に続いて、大地にも無数の亀裂が走りはじめた!

「くっ!」

 揺れる。
 崩れる。

 赤の空が崩れ、大地が崩壊していく!
 異界が崩れ落ちていく!!




********************

<ヴァーンベック視点>



 野営地の空に日が昇りつつある。

「ああ……」

 今日という日を無事に迎えることができた。
 シアもアルも、セレスさんも、ディアナもユーフィリアも。
 それが、何よりありがたい。

「……」

 レザンジュ王軍との遭遇、剣姫との戦い、魔物の襲来。
 そして竜の怪物……。

 昨日はとんでもない一日だった。
 今日を迎えることなんてできないと、何度思ったことか。

 すべては……。

 コーキのおかげ。
 あいつが来てくれたから、俺たちはこうして無事でいられるんだ。

 それなのに!
 俺はコーキを残して逃げちまった!
 あいつと剣姫に怪物の相手を任せて……。

「くっ!」

 大丈夫だよな、コーキ!
 やられることなんて、ねえよな!

 おまえは、いつも颯爽と現れ。
 どんな難敵も蹴散らしてきた。

 ダブルヘッドも、そして剣姫さえも。

 だから、今回もやれるはず。
 竜の怪物も倒せるはず。

 そう信じてる!
 けど、あの怪物は……。

「……」


 コーキと別れて、一夜が過ぎ。
 今は翌早朝。

 ここはエビルズピークとテポレンの境界にある野営地。
 戦闘地である坂道からは、それほど離れていない。

 俺ひとりで走れば。
 現場へは1刻から1刻半で到着できるはず。

 なら……。


「ヴァーン、どうしたの?」

 一緒に不寝番をしているシア。
 心配そうに、声をかけてくれる。

「……」

 こういう相手がそばにいるって、ありがたいことだよな。
 心からそう思う。

「昨日……あなたが無事でよかった」

「俺もだぜ、シア。おまえが無事でどんだけ安心したことか」

「わたしは茂みに隠れていたから……」

 逃げろって言ったのに、逃げなかったよな。

「……あの時」

「……」

「ヴァーンが倒れた時」

 剣姫に酷くやられた時か。

「わたし、どうにかなってしまいそうだった」

「……」

「心配で、心配で! 自分を抑えることができないと思ったの」

 シア……。

「セレス様を護らなきゃいけないのに、セレス様を優先すべきなのに」

 おまえ、そこまで。

「セレス様を護ろうという心が2つになって、心が分かれて。わたし……」

「シア」

「……」

「おまえは、最後までセレスさんの傍にいただろ。つまり、役目を全うしたってことだ。心に何があろうと、その事実は変わらねえよ」

「でも……」

「人の心ってのは複雑なんだぜ。いつも一心ってわけにはいかねえ」

「……」

「昨日のシアは立派に責任を果たした。事実はそれだけだろ」



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