30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

ベニワスレ 2

<和見幸奈視点(姿はセレスティーヌ)>



「……」

 ここに存在するのは、わたしとベニワスレ。
 薄紅とわたしだけ。

 依然、「こうばい」の意味は分からない。
 溢れ出る感情も、やっぱり理解できない。

 ただ、頬を伝う温かな思いは絶えることを知らず。
 わたしを優しくいざなってくれる。

 その先に見えるのは……。
 浮かんでくるのは……。

 ひとつの情景。
 木々と花の光景。

 これはベニワスレじゃない。
 テポレン山でもない。

 何?

「……」

 若木に老樹、あたり一面に鮮やかに咲き誇る薄紅の花弁たち。
 たゆたう胡蝶のように舞う淡紅の中……。

 若いふたり……?

 少年と少女が歩いている?

 身に着けているのは制服のような服装。
 そんな姿のふたりが少し距離を置いて、ぎこちなく歩いている。

 ふたりが会話して。
 少女が笑って。
 少年ははにかんで。

「……」

 優しい空気、幸せな空気が伝わってくる。

 いったいこれは?
 何なの?

「……」

 あっ!
 少年が若木の枝を折り、少女に手渡した。
 薄紅の花弁を纏った枝だ。

 それは……。

 まるで、昨日わたしが手にした枝のよう。
 ベニワスレの枝にそっくり……。

 少女は枝を受け取りながら怒ったような顔をしている。
 ほんとは怒っていないのに。
 ただ嬉しいだけなのに。

「……」

 なぜだか、少女の気持ちが理解できてしまう。不思議……。

 一方、少年は少女の思いに気付けない。
 後ろを向いて拗ねた表情。

 そんな少年に向け少女の口から一言、二言。溢れる思いがこぼれ出ていく。

 耳にした少年は戸惑う様子を見せ。

 少女は……っ!?

 嬉しい。
 楽しい。

 嬉しい!
 幸せ!

 嬉しい!!
 嬉しい!!!

 溢れ出てくる!
 多幸感で満たされていく!

 その様子を見ているわたしにも、想いが込み上げて……。

 喜び?
 高鳴り?
 歓喜?
 
 表現しがたいほどの感情に包まれ。
 心が身体が、ふわふわと浮かんでいく。
 幸せに抱かれて、どこまでも高く、高く……。

 ……。

 ……。

 ……。



 これは夢?
 白昼夢なの?
 それとも、まさか……予知?
 神娘の力?

 分からない。
 けど……。

 予知ではないと思う。

 だったら、やっぱり夢?
 ただの夢?

「……」

 いい、それでいい。

 だから、もう少し。
 あと少し感じさせてほしい。
 夢なら夢でいいから、醒めないで。

 この思いをもっと感じていたい。
 少しでも長く……。

 ……。

 ……。

 少女の言葉に、少年が言葉を返している。
 その言葉……。

「っ!?」

 聞こえる!?
 声が聞こえる!!




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