30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

ベニワスレ 4

「はは……ホントにいねえぞ」

「……」

「全く見あたらねえ。もぬけの殻じゃねえか」

「……」

「王軍が撤退したってのは本当だったのかよ?」

「……」

「コーキ、おい、コーキ!」

「ん? ああ……撤退は間違いなさそうだな」

「おめえ、やっぱりおかしいぞ」

「いや……」

 幸奈のことで頭がいっぱいになっていた。
 気配感知でほぼ把握していたとはいえ、任務中に呆けるなんてもっての外だ。

「早く帰って休んだ方がいいんじゃねえのか?」

「悪い。もう大丈夫だ」

「ほんとかよ?」

「ああ」

 今は目の前のことに集中して、幸奈については……また後で考えればいい。

「それで、この状況は先遣の情報通りか」

 昨日まで存在していたはずのレザンジュの大軍は完全に姿を消し、野営の痕跡が残っているだけ。

「ちっと信じがてえが、いねえもんはいねえからなぁ」

「実際、麓に姿は見えないし、ここまでの道中でも見あたらなかった。付近に気配も感じられない。ということは、撤退と考えてまず間違いない」

「コーキが感知できないんじゃ、確定だろ」

 王軍の撤退が確定となれば。

「トゥレイズ城塞か領都に戻ったと?」

「ああ」

 トゥレイズも領都もテポレンからは距離がある。

「これで、しばらくはゆっくり眠れるぜ」

「まあ、数日で再進攻は考えがたいか」

 すぐに攻勢をしかけるつもりなら、拠点を完全に引き払う必要はない。
 全軍が麓を去ったということは、そういうことなんだろう。

 ただし、王軍が今回の敗戦だけで諦めるとは思えない。
 1月後か半年後か1年後か時期は分からないものの、再進攻に踏み切るはず。ならば、こちらは再戦に備える必要がある。

「時間がありゃ、たっぷり準備もできるってもんだ」

 準備期間数日で迎えた昨日の戦いよりはまし、か。

「しっかし、数千の兵を残しながらさっさと逃げ帰るたぁ、よっぽど懲りたってことかよ?」

「おそらくな」

 指揮官が捕えられたのも大きな理由だと思うが、やはり昨日の損害がこたえたのだろう。

「大敗に嫌気がさして、進攻を諦めるってのはどうだ?」

「そう甘くはないんじゃないか」

「まあなぁ……ちっ、幕引きがどこになるか分かったもんじゃねえ」

 王軍の狙いがどこにあるのか?
 すべてはそれ次第。
 狙いが神娘ということなら、簡単に諦めることもないはず。

「厄介過ぎるぜ」

「ああ」


 そんなことを話しながら、テポレン山を登ること1刻。
 昨日の戦場跡地に到着した。

「おっ、セレスさんとシアがいるぞ」

 坂下から見上げた先には、シアとワディン騎士の姿。
 少し離れた位置に幸奈がひとりで立っている。

「……」

 幸奈がいるのはベニワスレの大木の下。
 昨日の戦闘時と同じ場所。
 俺が助けた場所だ。

「先生、どうしたんです? ヴァーンも?」

 俺たちを見つけたシアが坂を下りてくる。

「麓の偵察から戻って跡地の様子を見に来たんだが……」

「おう、今戻ったところだぜ。で、シアとセレスさんは何してんだ?」

「それが……セレス様、ひとりになりたいって」

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