30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

資格

<セレスティーヌ視点(姿は和見幸奈)>



 日本とは異なる世界で、コーキさんは頑張ってくれています。
 今もきっと必死で。

 それが分かっているのに……。
 口に出せない。

「……」

「しっかし、あいつ幼馴染をほったらかしにしてよぉ」

「有馬君にも事情があるの。分かってるでしょ」

「……まあな」

「なら、もう黙りなさい」

 私が困った顔をしたから、古野白さんが。

「あの、私は平気なので……」

「いいのよ、武上君がしつこいだけだから」

「違うだろ、有馬がおかしいんだって。普通はよ、こんな可愛い恋人をいつまでも人任せにしねえぞ」

「えっ!?」

 可愛い恋人!
 私がコーキさんの恋人!?

 そんな!
 顔が熱い!

「ほんと……あなた粗忽者ね」

「……粗忽じゃねえ」

「そうかしら」

「ああ、オレは慎重で気の利くヒーローなんだぜ」

「……」

 ふたりとも、私の赤面した顔を見ないようにしてくれる。
 ……優しいな。

 この世界でこんな人たちに護ってもらって、私は幸せだ。


「……和見さん、携帯電話に着信じゃない?」

 えっ?
 私の携帯、振動している?

「気にせず、出ていいわよ」

「すみません」

 電話を取り出し、耳に当てると。

「……コーキさ、功己!」

 またふたりと一緒にいる状況で、コーキさんから電話が。

「……はい。今は珈紅茶館にいます。古野白さんと武上君も一緒に。……はい、はい、分かりました」

「有馬君なのね?」

「はい。こちらに戻って来たそうです」




********************




「申し訳ありません。私の責任です」

「コーキさん……」

「私がもっと警戒していれば、あんなことには……」

 俺の目の前にいるのはセレス様。
 涙を堪えるように俯いている。

 ずっと話すことができなかったトゥレイズ防衛戦の結末。
 辺境伯の最期を、今伝えたからだ。

「……」

「……」

 これまで話すタイミングがなかったというのは、言い訳に過ぎない。
 全てはこちらの事情。
 勝手な都合で黙っていた。

 申し訳ない。

 辺境伯を救えなかったことも、セレス様に伝えていなかったことも。
 本当に申し訳ない。

「……」

「……」



 つい数時間前。
 エンノアで異世界間移動を使い日本に戻ると、時刻は朝の5時だった。
 まだセレス様に会える時間ではなく、連絡を取れる時間でもなかったため、ひとまずシャワーを浴び仮眠を取ることに。その後、珈紅茶館でセレス様と待ち合わせ、俺の部屋にふたりで戻り、そしてこれまで話せなかったことを伝えて、今。

「父のことは、コーキさんのせいではありません」

「ですが……」

「仕方のないことだと思っています」

「……」

「厳しい状況は理解してましたし、それに、覚悟もできてましたから」

 覚悟を?
 そんな素振りは微塵も見せていなかったのに?

「本当です。でも、ごめんなさい。今は抑えることができなくて……」

「セレス様……」

 感情を抑えられない。
 そんなの当然のことだ。
 いきなり父親の訃報を知らされたのだから。

 大切な父を亡くし、最期に立ち会うこともできなかった。
 そんな思いを、俺は彼女に。

「少しだけ……。少しだけ待ってください」

「……はい」

「……」

「……」

 ただ涙を堪えるセレス様を前にして。
 言葉なんて1つも浮かんでこない。

 言い訳、慰め、励まし。
 今この場で口にできるわけがない。
 そんな資格もない。


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