30年待たされた異世界転移

明之 想

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第9章 推理編

大切なモノ 1

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<シア視点>



「水桶を外に運んでもらえないか?」

「新しい水と交換してもらえると助かる」

 ディアナさんの言葉に先生が頷き、水浴び用の水桶を持って寝室の外に出て行く。
 ヴァーン、アル、ユーフィリアさんと一緒に。

 ディアナさんとわたしは先生が戻るまで護衛としてセレス様の傍で待機。

「……」

 あの水桶はわたしが両手を広げてやっと持てるくらいの大きさで、重量もかなりのものだ。当然持ち運びが大変なため、先生がいる時はいつも手伝ってもらっている。

 だから、おかしなことなんてない。
 何もない。
 それなのに、この感じは?
 何かいつもと違うような……。

「……」

 こういう状況では感覚を信じるべき。
 そう、自分の感覚を信じよう。

 人の感覚は時として知識や思考を越えていくと。
 常識では測れないほどの情報量を感覚が捉えることがあると。
 先生に教えてもらったから。
 実際、それに近い経験もしているから。

 教え通りに気を緩めず、こんな時こそ周囲に意識を……。


「……セレスティーヌ様、彼を信じているのですね?」

「いつも言っているように、信じています。信頼に値することをコーキさんは沢山してくれましたので」

「実績でしょうか?」

「ええ」

「それだけではありませんよね?」

「……」

 ディアナさん?
 どうしたのだろう?
 予知の件でセレス様が先生を優先したからといって、こんな厳しい表情で話しかけるのは……。

「大事なのですか?」

「……」

「コーキ殿が、そんなに大事なのですか?」

「……大切な人です」

「ワディンよりも?」

「それは……比べるものではありません」

「では、ユーナス様よりも?」

 えっ?
 ディアナさん、その名前は?

「っ!?」

 セレス様が驚いている。
 もちろん、わたしもだ。

 だって……。

 幼い日のセレス様が誰よりも慕っていた人。
 あにさまと呼び、誰よりも信頼していた人。

 そして、セレス様から笑顔を奪ったあの事件……。

 あの事件で命を落とした騎士。
 セレス様の元側仕え兼護衛騎士、ユーナス様の名前なのだから。


「ユーナス様よりも大切なのですか!」

「……」

「大切なのですか!!」

「……」

「お答えください! セレスティーヌ様!」

「……そう、かもしれません」

「なっ!?」

 ディアナさんの顔から色が抜けていく。

「そんな!?」

「……」

「あの、あのユーナス様よりも……」

 見たこともない表情を浮かべている。
 どうしたの?
 どうしたら?

「ううぅぅ」

 ディアナさん?

「ああぁぁぁ!」

 喉を締めつけられたように漏れ出してきたのは悲痛の声。

「ああぁぁぁぁ!!」

 決して大きな声ではないけれど、こちらの心に迫って離れない。

「ディアナ、どうしたのです? ディアナ!」

「ぁぁぁぁ……」

 嗚咽を漏らしながら、頭をかきむしっている。
 今にも胸が張り裂け潰れそうな様子に、ディアナさんに向けていたわたしの足が止まってしまう。

「ぁぁぁぁ……」

「……」

「……」

 セレス様とディアナさんとわたしの間で時間が止まってしまう。






*************************

※ ユーナスは「第129話セレスティーヌ 8」に登場しています。


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