30年待たされた異世界転移

明之 想

文字の大きさ
980 / 1,640
第9章 推理編

一撃

 こいつには、さっさと眠ってもらおう。
 で、臭い位相空間から皆を連れて脱出だ。

「……The force is sense」

 ん?
 吾妻に向け一歩を踏み出そうとした俺の耳に聞こえてきたのは、英語?

「The sense dominates Life……」

 詠唱?
 英語で詠唱を?
 なんて恥ずかしいやつ。

 いや、吾妻は日本人じゃないのか?
 それなら、英語でも……。

「The sennse presides over Death……」

 生を支配し、死を司る。
 って、どうでもいいな。

 もう終わりにしよう。

 身体強化した足で地を蹴り、跳躍するように駆ける。
 それを見て後退する吾妻。

 詠唱しながらにしては悪くない動きだよ。
 けどまあ、無理ってもんだ。

「!?」

 逃げようとする吾妻の懐に入り一撃。
 掌底を胸に叩き込む。

「ぐっ!」

 苦悶の表情を浮かべる吾妻。

「うぅぅ」

 空を掴むように前に伸ばした両手が力を失い。
 目から色が消え。

 ドサッ!

 たった一撃。
 その一撃に耐えることができず、位相の地に沈み落ちてしまった。

「……」

 少し浅かったが、まったく問題なかったみたいだ。



「功己!」

「兄さん!」

「あいつ、やりやがったぜ!」

「やったわね!」

「ああ、一撃だ」

「……」

「しっかし、どうなってんだ! 有馬はバケモンかよ」

「……おかげで助かったんじゃない」

「……まあな」

「幸奈さんの見立て通りってことでしょ」

「……」

「……」



「伊織君、どうしましょう? 吾妻さんがやられましたよ!」

「だ、か、ら、ぼくは手を出さないって」

「そんなぁ! 吾妻さん、もう戦えそうもないのに……」

「火傷に蹴りに、今の掌底だもんね。1日は休まないと厳しいかも」

「でしょ。なので、ねっ、伊織君!」

「……観戦以外は何もしない。これ、約束だしさ」

「そんなこと言わずに、お願いしますよぉ」

「はぁ~。ぼく以外にも動ける異能者はいるでしょ」

「……」



 やはり、壬生少年は動かない。
 なら、話は早い。
 ここから脱出するだけだ。

 まずは、あの空間異能者を捕まえて……っと、そっちから近づいて来たな。


「あのぅ……見逃してもらえないでしょうか?」

 おいおい、何を?

「吾妻にはよく言い聞かせますし、もう手も出しませんから。ですから、ねっ! 今回だけ見逃してください」

 見逃せるわけないだろ。
 それに、その判断を下すのは俺じゃない。

「……とりあえず、ここを出てからだな」

「……ですよねぇ」

 わざとらしい笑みを浮かべる空間異能者。
 彼の表情には敵意も害意も映っていない。
 ただ、胡散臭さはこの上ないものがある。

「……」

 しかし、こいつの顔……どこかで見たような……。

「では、まず」

 右手を俺の前に?

「……どういうつもりだ?」

「えっ、和解の握手ですよ」

「……」

 空間異能者の手など、むやみに取るものじゃない。
 分かっててやってるのか?

「やだなぁ、何もしませんって」

「……」

 あやしい。
 屈託のない笑顔が、かえってその思いを刻んでくる。

 と!?

 足が?
 掴まれた!?

「っ!」

 吾妻だ!
 もう意識が戻ったのか?

「やれぇ!」

「りょーかい!」

 足に気を取られた僅かな隙に、俺の腕に空間異能者の手が伸びて……。

「移相!」

「!?」

 刹那に暗転する世界!
 浮遊する身体!

 やられた!!

 ……。

 ……。

 ……。

 さっき位相空間に移動した時とは違う感覚。
 その感覚が消えると。

「ここは……?」

 地下室?

 数分前までいた和見家の地下室か?
 そこに戻されたと?

 だとしたら……。

 なぜだ?

 あの位相空間を見ることができない。
 俺の目に幸奈たちの姿が入ってこない。

 その代わりに俺の目に入ってきたのは……!?

「功己!?」

「……幸奈?」

 地下室の浴槽の中。
 醜悪な液体に満たされたその中に横たわる幸奈の姿。

 そんなあり得ない光景だった。







 第9章  完

感想 11

あなたにおすすめの小説

ひだまりのFランク冒険者

みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。 そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。 そんな中 冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。 その名は、リルド。 彼は、特に何もない感じに毎日 「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。 この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。 王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。 なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。 自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。 11月14日にHOT男性向け1位になりました。 応援、ありがとうございます!