30年待たされた異世界転移

明之 想

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第10章 位相編

専門家


「それで、東京には異能の専門家が?」

「ああ」

 5年前の東京なら、あのビルに異能専門の組織が存在している。
 そこでは鷹郷さんも働いているはず。

「功己さんは異能者じゃないのに、どうしてそんなこと知ってるんですか?」

「……」

「あっ、ごめんなさい。未来の話はあまり聞いちゃいけないんですよね」

「答えられないことは答えないから、気にせず話したらいい」

「ほんとにいいんですか?」

「もちろん」

「功己さん、ありがとうございます」

「敬語も必要ないぞ」

「それは、でも……」

 逆に話しづらいか?
 なら。

「敬語を使う方が楽なら使ってくれ。とにかく、気楽にしてくれたらいいんだ」

「……分かりました」

 頷き微笑みを返してくる幸奈。
 その顔に警戒心は見えない。
 今はもう20歳の俺を心から信じているように見える。

「ところで、5年後の功己さんはその専門家と親しいのですか?」

「知り合い程度かな」

「そうなんですね。すごいなぁ」

 鷹郷さんたちとは偶然知り合っただけ。
 すごいことなんてない。

「今の功己からは想像できないですよ」

「……」

「これからの5年に何があるんだろ?」

「……」

「でも、異能の専門家がいるなら安心できますね」

「ああ。彼らに任せれば大丈夫だ」
 
 仮に鷹郷さんがこの時代の能力開発研究所で働いていなかったとしても、研究所には多くの異能専門家が働いている。彼らならきっと幸奈の力になってくれるだろう。

「……」

 本音を言うと、幸奈のことは俺が護りたい。
 俺1人の力で助けたい。
 けど、事はそう簡単じゃないからな。

 社会的に力を持ち異能界とのつながりも強い和見家。
 20歳の俺が今すぐどうこうするには手強すぎる。
 それに俺はこの時間世界の異分子にすぎない。15歳の幸奈の傍にずっと留まれるわけじゃない。

 となると、頼れるものには頼るべきだろ。
 5年前の世界で俺が頼れる存在は鷹郷さんと研究所だ。

「専門家がいる東京かぁ」

「……」

「分かりました。わたし東京に行きます! でも、その前にシャワーを浴びてもいいですか?」

「シャワーを?」

「……ちょっと気持ち悪いから」

「……」

 そうか。
 幸奈はあのおぞましい浴槽を出て身体を拭いただけだった。その状態で会話を続けてたんだな。

「悪い。気が回らなかった」

「そんなのいいですよ、気にしないでください」

「……」

「では、シャワー借りますね」

 そう言って笑顔で浴室に入っていく。
 どう見ても、15歳の屈託ない後ろ姿だ。

 ただ、事情を知った今は……。

 その笑顔の下にとんでもない悩みを抱えていたんだな。
 俺の知らない、知ろうともしなかった悩みを。

「……」

「……」

「……」

 って、違う。
 今は後悔している時間なんてない。
 後悔するのも悩むのも、全て解決してからだ。

 まずは現状を整理して、先に進むべき。
 となると、問題になるのは……。

 
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