30年待たされた異世界転移

明之 想

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第10章 位相編

神秘

 夕連亭か……。

「……」

 20歳の俺がこの世界で最初に深く関わりを持ったのが夕連亭。
 良い思い出と苦い思い出が、今もしっかりと心に残っている。

 セーブとリセットでやり直した、あの時。
 一歩間違えば、全てがあの時点で終わっていた。
 本当に運が良かった。

「……」

 不思議なものだな。
 リセットと時間遡行を通して感じ始めた時間、空間の神秘だけでも尋常じゃないのに。今はそれに加え、位相世界というものまで……。

 位相、異界、神域。
 時も空間も、世界は超常の謎に溢れている。
 自分は何も知らなかったんだと痛感してしまう。

 ほんと……。

 俺は恵まれているよ。
 あり得ない程の幸運だと思う。
 こんなことを身をもって体験でき、さらには助言を与えてくださる方までいるのだから。

 トトメリウス様。
 今回も、いつも、感謝しかありません。
 心の底から、本当に。

「……」

 これまでも自分なりに色々と考えることがあった時間と空間の謎。
 さっきのトトメリウス様のお言葉で、なんとなく見えてきたものがある。

 トトメリウス様の言葉は決して多くはない。
 詳細を語ってくださるわけでもない。
 今回も数言、暗示的な助言をくださっただけ。
 それでも含蓄に満ちたその言の葉は、俺の目を大きく開かせてくれるのに十分なものだった。

 これで、何とかなる。
 元の世界に戻ることができる。
 そう思えるくらいに。

 本当にありがたいことだ。

 などと考えながら通りを歩き続けている内に……気付けば夕連亭に到着していた。





「お久しぶりです」

 夕連亭の入り口に見えるのは、懐かしい顔。
 宿の主人ベリルさんだ。

「コーキさん! オルドウに戻っていたのですね?」

「はい。何とか無事にオルドウに戻ることができました」

「重畳ですな」

「ありがとうございます。ベリルさんは、お元気でしたか?」

「はは、私は何も変わってませんよ」

「変わりがないのは何よりですね。それで、ウィルさんは?」

「ウィルですか……まだ戻ってませんが?」

「えっ?」

 カーンゴルムでウィルさんと別れてから相当な日数が経過している。
 なのに、まだ帰ってない?

「何かあったのでしょうか?」

「詳しいことは私にも分かりません。ですが、元気ではいるみたいです」

「というと?」

「ウィルから手紙を貰ったんですよ。そこに、黒都での近況が少し書いてあったものですから」

「ああ」

 なるほど、近況報告があったんだな。

「どうも黒都滞在が長引いているようでして。まあ、そのうち元気に帰ってくるでしょう」

 ここまで滞在が長引くのは、正直気掛かりではある。
 それでも便りがあったのなら、ひとまずは安心してもいいだろう。

「ところで、コーキさんはお食事で?」

「あっ、はい。席は空いてますか?」

「大丈夫ですよ。では、奥の席でお待ちください」



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