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第12章 激闘編
余裕
<エリシティア視点>
恐怖を越えた無念に激情が湧いてくる。
噛み締めた唇から血が流れ落ちる。
それでも固まったままの四肢。
動けない!
「……」
怪竜が私の前に回り込んできた。
「っ!」
生臭い舌がザラリと頬に触れる。
目を開けてられない。
もう、もう、諦めるしか……。
と!
ガギン!
バケモノの背中から轟音が響いた。
これは剣撃?
投剣?
いったい誰が?
「グルゥ」
怪竜が私から離れ、後ろに視線を送っている。
「そこまでだぁ、ドラゴン野郎!」
平原に響く野太い叫声。
「オレが相手してやるぜ!」
聞き覚えのある。
懐かしい声だ。
けど、どうして?
彼がなぜ?
これは現実なのか?
上手く動かぬ上体を必死に捻らせて、後ろに目をやると。
「待たせたなぁ!」
いる。
そこに立っている。
「ギリオン、ヴァルター!」
「「ギリオン殿!?」」
「「ヴァルター殿!?」」
実際に目にしても信じられない。
ウォーライルたちも同じ思いだろう。
けれど、これは紛れもない現実だ。
「で、無事なのか、姫さん?」
「……うむ」
体は動かぬが、幸いなことに大きな傷は負っていない。
「そいつぁ重畳。けどまあ、他はえらいこったなぁ」
ギリオンの言う通り。
この場に立っている者は皆無。
膝をつく者と倒れている者しかいない。
「咆哮の影響だ」
「あっ、さっきのな?」
「ギリオンは動けるのか?」
「おうよ」
おそらく怪竜の後方にいて距離もあったのだろう。
とはいえ、大したものだな。
「まったく問題ねえぜ」
その上、笑みを浮かべる余裕まで……。
「エリシティア様、他の者は?」
一方、ヴァルターは緊張を隠せていない。
「ウィル様は無事でしょうか?」
ああ、なるほど。
「彼女は無事だ。今はカロリナと共に道中の村にいるはずだからな」
「この場にはいないと?」
「うむ、少し体調を崩したため強制的に休ませた」
「そうでしたか」
安心したのだろう、ヴァルターから緊張感が消えていく。
「んで、姫さん、そいつをやればいいんだよな?」
「……できるのか?」
「あったりめえ」
怪竜を目の前にしても自信が揺るいでいない。
「ってことで、始めるぞ、ヴァルター」
「ああ……エリシティア様、ウォーライル殿、リリニュス殿はここで待機していてください」
「よいのか?」
「ヴァルター殿?」
と聞く我らに選択肢はない。
いまだ動けぬのだから。
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