30年待たされた異世界転移

明之 想

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第12章 激闘編

余裕


<エリシティア視点>



 恐怖を越えた無念に激情が湧いてくる。
 噛み締めた唇から血が流れ落ちる。
 それでも固まったままの四肢。
 動けない!

「……」

 怪竜が私の前に回り込んできた。

「っ!」

 生臭い舌がザラリと頬に触れる。
 目を開けてられない。

 もう、もう、諦めるしか……。

 と!

 ガギン!

 バケモノの背中から轟音が響いた。

 これは剣撃?
 投剣?

 いったい誰が?

「グルゥ」

 怪竜が私から離れ、後ろに視線を送っている。

「そこまでだぁ、ドラゴン野郎!」

 平原に響く野太い叫声。

「オレが相手してやるぜ!」

 聞き覚えのある。
 懐かしい声だ。

 けど、どうして?
 彼がなぜ?
 これは現実なのか?

 上手く動かぬ上体を必死に捻らせて、後ろに目をやると。

「待たせたなぁ!」

 いる。
 そこに立っている。

「ギリオン、ヴァルター!」

「「ギリオン殿!?」」

「「ヴァルター殿!?」」

 実際に目にしても信じられない。
 ウォーライルたちも同じ思いだろう。
 けれど、これは紛れもない現実だ。

「で、無事なのか、姫さん?」

「……うむ」

 体は動かぬが、幸いなことに大きな傷は負っていない。

「そいつぁ重畳。けどまあ、他はえらいこったなぁ」

 ギリオンの言う通り。
 この場に立っている者は皆無。
 膝をつく者と倒れている者しかいない。

「咆哮の影響だ」

「あっ、さっきのな?」

「ギリオンは動けるのか?」

「おうよ」

 おそらく怪竜の後方にいて距離もあったのだろう。
 とはいえ、大したものだな。

「まったく問題ねえぜ」

 その上、笑みを浮かべる余裕まで……。

「エリシティア様、他の者は?」

 一方、ヴァルターは緊張を隠せていない。

「ウィル様は無事でしょうか?」

 ああ、なるほど。

「彼女は無事だ。今はカロリナと共に道中の村にいるはずだからな」

「この場にはいないと?」

「うむ、少し体調を崩したため強制的に休ませた」

「そうでしたか」

 安心したのだろう、ヴァルターから緊張感が消えていく。

「んで、姫さん、そいつをやればいいんだよな?」

「……できるのか?」

「あったりめえ」

 怪竜を目の前にしても自信が揺るいでいない。

「ってことで、始めるぞ、ヴァルター」

「ああ……エリシティア様、ウォーライル殿、リリニュス殿はここで待機していてください」

「よいのか?」

「ヴァルター殿?」

 と聞く我らに選択肢はない。
 いまだ動けぬのだから。

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