ゲイのエッチなお兄さん

回路メグル

文字の大きさ
112 / 190
本編2

【理想】関西弁の楽しいお兄さん【1】

しおりを挟む
 繁華街のはずれにある古い雑居ビルの五階。
 その中でも奥の方にある、一見すると倉庫のドアのような扉を開けた。

――カラン

 ドアに付いた古いカウベルが鳴る。
 中は倉庫ではなくバーだ。
 解りにくい立地に加えて、看板は小さく、ビルの外にもテナント名が出ていない。
 きちんと「解っている」人でないと見つけられない隠れ家のようなバー。
 でも、中に入ると木目調のちょっと昭和っぽいアットホームな雰囲気で、野球帽をかぶった髭熊系のバーのマスターがカウンター越しににこにこと優しい笑顔を向けてくれた。

「いらっしゃい」
「……!」

 いらっしゃい。
 お店に入ったらかけられる妥当な言葉。
 でも今日の「いらっしゃい」は少し違う。

 本場の関西弁の発音の「いらっしゃい」だ。


      ◆


 関西で行われた大きな展示会に俺の勤務するメーカーが出展するため、広報担当の俺も関西入りし、ここ一週間ほど設営や来場者対応、展示会後のあいさつ回りに接待であわただしい日々を過ごしていた。
 そして今日は出張最後の夜。
 やっと確保した自由時間。
 関西に住んでいる友達に会っても良いし、食べてみたかった名物を食べても良いし、名所を巡っても良いし、疲れを癒すスパに行くのも良いし……なんてことはほとんど考えずに、仕事が終わった瞬間ホテルでシャワーを浴びて、スーツのままだけどシャツのボタンは三つ外して、このバーに駆け込んだ。
 
「こんばんは~初めてだけど、大丈夫ですか?」
「うちの店が何の店か解ってるんやったら大歓迎やで」

 髭熊系のマスターがニカっと白い歯を見せて笑う。
 この笑顔……多分、俺がこの店をちゃんと「解って」訪れていると気づいているんだろう。

「この店……」

 L字のカウンターと、狭い二人がけのテーブルが四つ。ごちゃごちゃと昭和レトロとか下町という言葉が似合う看板や置物、古いポスターだらけの店内は一見すると昔ながらの居酒屋かスナックかバーのようだけど……。

「ゲイバーですよね?」
「せやで~! どうぞどうぞ、好きなとこ座って。うちはルールとか堅いこと言わへんから」
「じゃあテキトーに」

 L字のカウンターのちょうど曲がったところに、入り口のドアが見えるように腰掛ける。
 残念ながら店内はまだマスターと俺だけ。
 早くタチの男の子来ないかな~。

「お兄さん、出張かなんかで来たん?」
「関東から出張で。それで、折角こっちに来たなら関西の美味しいモノを堪能したいなと思って」

 熱いおしぼりを手渡してくれたマスターに向けて美味しい物の「物」の部分をちょっと強調してウインクすると、ノリよく大きな口をあけて笑ってくれた。

「ははは! 美味しいモノ! えぇやん! お兄さん気に入ったわ。お兄さんの欲しいモノとはちゃうと思うけど、美味い酒一杯奢ったるから飲んで待っときや。そのうちめ~~~っちゃ美味しいモノが来るからな」
「ありがとうございます」

 素直にお礼を言うと、マスターがカウンターの上に並んだ瓶の中の一本を手に取った。

「日本酒いける? 甘くて美味い地酒やねん」
「甘い日本酒は大好きなんですけど、今日は度数が強いのはちょっと……」
「ほな割ったるわ。ライムと……ちょい炭酸。はい、サムライロック」

 目の前に置かれた透明の液体の入ったロンググラスを受け取って、早速口を付ける。
 
「ん、美味しい。こんなに飲みやすくなるんですね」
「せやろ? これくらいの軽さやったら、勃ち難くなることもないし」

 俺が度数が強いお酒を避けた理由なんてバレバレか。
 マスターが少し下品な笑い方をした時だった。

――カラン

 またカウベルが鳴ってスーツ姿の男の人が入ってきた。

「邪魔すんで」
「邪魔するんやったら帰って」
「ほなさいなら……ってなんでやねん!」

 マスターに声をかけられた男の人は、一瞬帰るそぶりを見せた後、すぐに向き直っていわゆる「ツッコミ」らしい手の動きをした。
 うわ……!
 本場のボケ? ツッコミ? すごくノリがいい!
 男の人は中肉中背で黒ぶちの大きめの眼鏡をかけて、ちょっと長めのスポーツ刈りに顎ヒゲ、色黒でパーツが大きい派手な顔立ち……かっこいいけどもしかしてお笑い芸人? なんて思うのは安直すぎかな?

「もう、マスターなんなん? べったべたの新喜劇ギャグさせて……」
「悪い悪い。ガネさんやったら乗ってくれると思って。ほら、このお客さん関東から出張できてはんねん。関西のノリ見せたいやん?」
「関東から……? ……っ!?」

 ガネさんと呼ばれた男の人がこちらを見たので、よく「エロイ!」といわれるゆるい癖のある黒髪を耳にかける仕草をしながら笑顔を返すと……ガネさんは大きな目を更に大きく見開いて、口元を両手で抑えた。
 リアクションが大きい人だな~。

「え? え? えぇ! めっちゃべっぴんやん!」
「な。べっぴんやんな」
「こんな小汚い店にこんなべっぴんさん勿体ないわ。掃き溜めに鶴どころかゴミ箱にバラやん」
「それ、別に上手いこと言え換えてへんからな?」
「え、じゃあ雑居ビルに女神?」
「ただの事実やん!」

 二人のノリの良い会話が面白くて、口を挟むこともなくただ眺めていると、ガネさんが人の好さそうな笑顔で俺の隣のスツールを引いた。
 近くで見ると、俺と同じ年くらいか少し年上かな?

「いきなりごめんな。引いた? 関西の悪ノリすぎた?」
「関西のノリ、楽しくて良いなと思って観てた。こんなお笑い番組みたいなの、無料で観ちゃっていいのかなって」
「こんなん全然普通やから。関西人の日常会話」
「いや、ここまでコテコテなんはガネさんくらいやで」
「えっと……ガネさん?」

 俺が首をかしげると、ガネさんは背筋を伸ばしてスーツの襟を正す。

「せや、自己紹介まだやったな。 俺はガネ。本当はカネなんやけど、眼鏡やからいつの間にかガネになってもうてん」
「ちゃうやろ。ガヤガヤうるさいからガネやろ」
「ちゃうわ!」

 マスターの意地悪い笑顔のツッコミに、ガネさんも笑いながら返事をする。
 本当にノリがよくて楽しい店だな……

「ふふっ。聞いてた通りだ」
「え? 聞いてた? 何? 何? 俺って関東でも噂になるほどえぇ男?」
「そんなわけないやろ」

 マスターはため息をつくけど……

「うーん。ちょっと、そんなわけあるかも」
「「え?」」





しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...