【完結】幸せしかないオメガバース

回路メグル

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後日談

東上寺アキヤの幸せ 6

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 その後も……

「近々、本格的に同棲を始めるんですが、朝起きたらミチくんがいるし、夜寝る時もミチくんがいるのに、寝ている場合じゃないですよね」
「そうだな」
「寝不足になりそうなんですが、どうしたらいいですか?」
「俺は短い睡眠でも疲れが取れるように、睡眠の質を高めるサプリメントで補っている。使ってみるか? 分けてやる」
「なるほど、そういう考え方が……ありがとうございます。ぜひお願いします」

 キョウイチさんと再び硬い握手をした。



「あ、ちょっと待て、今モニがかわいい」
「あ、あ、ミチくんも! 一眼レフ持ってくればよかった。最近買ったんですよ。ミチくんを撮るために」
「俺も最近買ったんだ。今度一緒に練習しないか? 有名な写真家に講師を頼んでいるんだ」
「いいんですか? 俺も独学で少しは練習したんですが、ミチくんは一〇〇点満点で言うと一〇〇万点くらい素敵なのに、俺が写真が下手なせいで一〇万点くらいの姿しか残せなくて悔しい思いをしていたんです」
「俺も全く同じだ。俺の写真の腕のせいでモニのかわいさが正確に記録に残らないのは不甲斐なさ過ぎる」
「責任感じますよね」
「あぁ。お互い、番の魅力が正確に撮れるよう頑張ろう」
「はい」

 今度はグータッチを決めた。



「モニは一見甘えん坊なのに、聖母のように面倒見がよく包容力があってすぐに人から好かれるんだが……他人とは一線を引いて踏み込み過ぎないところがある。番としては安心だ」
「なるほどいいですね……ミチくんはオメガらしい愛されキャラで、みんながついつい甘やかしたくなる子なんですが、少し遠慮がちな性格で人に甘え切らないところがあるんです。番としては安心ですね」
「なるほどいいな。しかし……」
「でも……」

「モニは俺には一歩踏み込んできてくれるんだ」
「ミチくんは俺には甘えてくれるんです」

「……最高だな」
「……最高ですね」

 視線を合わせて頷き合うと、今度は真っすぐグータッチをした後、拳のサイドも重ねた。



「別に、モニを愛玩動物と思っているわけではないんだ。ただ、猫耳としっぽがついていると愛らしさが増すから付けて欲しいだけで……」
「わかります。俺も別にミチくんが女の子っぽいとか思っているわけではなく、ミニスカートが似合いそうだからナースとかミニスカポリスを着て欲しいだけで……」
「わかる」

 深く頷き合って、お互いの腕を交差させた。



「そろそろプロポーズをと思っているんだが、例えば公共放送で広告を出して、花火を上げて、全世界にモニは俺のだと言いながらプロポーズしたい気持ちと、二人だけの大事な思い出として二人っきりでしたい気持ちがせめぎ合っている」
「俺もフラッシュモブなんかを使って、感動的な演出をしたいんですが……ミチくんは恥ずかしがり屋なので二人でじっくり丁寧に大切な時間を作ろうと思っています。思い出の場所を増やしたいのでちょっといいホテルのスイートをとりたいんですが、ミチくんは自宅の方がリラックスして過ごせるだろうし……首輪は俺が買いたいけど指輪は二人で選ぶか……ミチくんの誕生日にするのがドラマチックだけど、記念日を増やしたいから何でもない日にするか……なるべくミチくんの好みに合わせてあげたいのでそれとなく探りを入れるのを頑張っています。モニさんの好みはどうですか?」
「それが、モニは楽しみ上手でなんでも面白がってくれるタイプなんだ。モニの素晴らしい長所ではあるが……悩ましい」
「それは困りましたね」

 項垂れるキョウイチさんの肩をそっとたたいた。



「気が早いんですが、結婚式は二人だけで海外のロケーションが良い場所でと思っていたんですよ」
「独占欲の強いアルファはそうしがちだな」
「でも、ミチくんのご両親やご兄弟にお会いしたら、とても素敵な人だったのでぜひ式に参列して欲しいなと思って」
「ほぅ」
「更に今日、モニさんと一緒のミチくんを見てしまったら、お友達にも祝って頂く方がミチくんは幸せかもしれないと思ったんです」
「それは、そうかもしれないな。モニも出席したがりそうだ」
「そうなると、モニさんとヨナさんでしたっけ? 仲の良いお二人は呼ぶとして、番のキョウイチさんも……」
「あぁ、もちろん参列させてもらおう。確かヨナさんも最近パートナーがどうとか……」
「そうなんですか?」
「詳しくは聞いていないが、運命の相手に偶然出会ったとか。明るくてかわいい感じの女性で単純……は失礼か。大型犬のような真っすぐでひとなつっこいタイプで、しっかり者のヨナさんにはピッタリだとモニが嬉しそうに話していた」
「へぇ。めでたいことって続くんですね」
「二十四歳から二十七歳くらいがオメガのフェロモンが安定して強くなる番適齢期だから……なんて言うと夢はないが、何か巡り合わせはあるのかもしれないな」
「喜ばしいことです。ただ、結婚式に呼びたい方がどんどん増えるな……もう一般的な披露宴をする方がいいかもしれませんね」
「俺はするぞ。世間にモニの番は俺だと知らしめたいからな」
「それは大切ですよね。あとはミチくんの気持ち次第か……照屋さんだからなぁ。あと、タキシードと袴とフロックコート、他にもあらゆるタイプの衣装を全部着て欲しくて」
「衣装か。確かにお色直しを十回くらいして欲しいな」
「できれば着物とドレスと……」
「ドレスを入れて良いならAラインにマーメイド、ミニ……」
「カラードレスもいいですね。チャイナドレスやアオザイなんかも……」
「かわいいからかっこいいまで全部着せたい。お色直し十回では足りないな。全部見たい」
「一つか二つ程度に選ぶなんて無理ですよ。もういっそ、ファッションショーを開く方が早い気がしてきましたね」

 二人で同時に悩ましい顔をして、同時に頷いた。



「更に気が早いんですが、将来的に子供は絶対に欲しいですね。ミチくんの遺伝子は次の世代に残さないと勿体ないし」
「そうだな。絶対にモニの遺伝子は残したい」
「来年度から社内の育休制度も充実しますし……あ、もしかして」
「あぁ。当事者意識が芽生えると、気になってな。改正案を出したんだ」
「ありがとうございます! これで俺の宝物をしっかり守ることができます!」
「いや、本当はもっと充実させるつもりだったんだが、弁護士に『やりすぎです。これでは雇用していると言えません』と言われてしまった」
「休めるならいくらでも休みたいですが……改正される制度で十分ですよ。ミチくんと一緒に子育てのスタートをしっかり切れるのが嬉しいです。でも……出産はどうしてもミチくんの体に大きな負担がかかるし……生まれてからの愛情と言うか、子供に対する気持ちが心配なんです」
「あぁ、モニは俺よりも子供を優先するだろうから寂しくなるかもしれないな」
「確かに寂しいですけど、それは良いんですよ。だって、俺との子どもをかわいがる、大切にするミチくんとかめちゃくちゃ嬉しいので」
「まぁ、そうか……」
「心配なのは俺です。今軽く想像しただけでも、ミチくんのことが好きな気持ちが一億だとして、子供を好きな気持ちも絶対に一億なんですよ。だって二人の子どもだから」
「なるほど」
「今、ミチくんが好きという気持ちだけでもものすごく幸せなのに、子供まで好きになったら幸せすぎてやばくないですか? しかも、子供って二人とか三人できるかもしれないんですよ? 幸せが三倍? 四倍? ミチくんに似ていたらめちゃくちゃかわいいし、俺に似ていたらミチくんが俺の子を産んでくれた感が強くて最高にかわいいし、どっちにも似ていなかったら二人の遺伝子がしっかり混ざった感じがしてものすごくかわいいし……どう考えても幸せにしかならないんですよ」
「……確かに!」
「人って、幸せすぎて死ぬとか無いですよね?」
「無いとは思うが……確かに怖いくらいに幸せだな」
「心配ですよね」
「心配だな」

 二人でお互いの肩をそっとたたき合った。



 その後も、二人の乗馬体験が終わるまで惚気と悩み相談を繰り返した。
 初対面のアルファとこんなに話せたのは初めてだ。
 そして、そろそろ二人の乗馬体験が終わるという頃、キョウイチさんが少し緩かった表情を引き締める。

「……俺は、モニと出会うまで人間じゃなかった」
「人間じゃ、ない?」
「あぁ。昔からアルファらしいアルファで、自分以外は劣等種だと思っていた」

 まぁ、キョウイチさんほどの人になると、仕方がないだろう。
 劣等種と言われても、全く悔しくない。

「しかし、モニと出会って気づいたんだ。俺だって完璧じゃなかった。俺にはモニという大切な番が足りなかった」
「あぁ……」

 わかる。
 程度は違うが、俺もそうだった。
 ミチくんと出会うまで、心に穴が開いている状態だった。

「何のために俺が優秀なのか、恵まれた地位なのか……全てモニのためだったんだ」

 あぁ、ほら。まるで自分を見ているようだ。

「モニと出会ってから、やりがいの無かった仕事にやりがいができた。今までつまらなかったものが全部楽しく見えるんだ。美しくないと思っていたものが美しく見えるし、美味くないと思っていたものが美味い」

 キョウイチさんの表情が柔らかいなんてもんじゃない。
 蕩けそうに幸せそうな笑顔だ。

「必要ないと思って作って来なかった友達も、今は欲しくてたまらない。モニが、ミチさんたちと一緒にいる姿が、とても眩しく見えるからだ」
「キョウイチさん……」
「俺は、今少しずつモニのお陰で人間らしくなっている途中だ。まだまだモニいわく『そんなことすると周りの人に嫌われちゃうよ。俺、キョウイチさんがみんなに嫌われるのは嫌だからやめて欲しい』ということも多い。嫌な気持ちにしてしまうかもしれない。だが……」

 遠くのモニさんを見ていたキョウイチさんの視線が俺の方を向く。

「良かったら、友だちになってくれないか」
「キョウイチさん……」

 日本のトップアルファが、俺に頭を下げている。
 普通のアルファなら、ここで感じるのは「優越感」のはずなのに。
 俺は今……

「俺も、程度は違いますけどアルファらしいアルファで、本当はアルファと距離を詰めるのが苦手なんです。でも、初対面でこれだけ腹を割って話せるなんて初めてでビックリしています」

 目の前のキョウイチさんへの感情よりも、ミチくんへの感謝の気持ちでいっぱいだった。

「番ってすごいですね。よろしくお願いします」
「あぁ、番ってすごいな……よろしく」

 こうして「番大好き友達」として仲良くなったキョウイチさんとは、ミチくんがモニさんたちと飲み会をする日に、俺たち二人で飲みに行くというのが定番になった。
 そのお陰で仕事面でも大出世をすることになり「これもミチくんのお陰だ……運命のオメガ、すごすぎる」と数百回目の惚れ直しになるとは、この時はまだ思ってもいなかった。

 ただただ、番に対する惚気をいくらでも言えるアルファ仲間ができたことが嬉しかった。

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