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第八章~遥かな扉~
四百八十三話
「わーい、成己の部屋久しぶりだー! サボ之介、元気にしてたかっ」
「ふふ、綾人ってば」
楽しそうに、サボちゃんに話しかけている綾人に、ぼくもくすくす笑う。以前、おうちに滞在してたとき、サボちゃんのことを可愛がってくれていた綾人。お部屋に来るたび、こうして話しかけてくれたのが、懐かしい。
――それに……こんなに嬉しそうにしてくれるのが、嬉しいなぁ。
ぼくも、すっごく嬉しいからね!
お茶とお菓子をたくさん、ローテーブルに並べて、おしゃべりするスタンバイをする。綾人は、クッションを並べて、背もたれを作ってくれた。
「成己、しんどかったら言うんだぞ。番になりたてんときは、無理は禁物だからな?」
「ありがとう、綾人っ。優しいね」
「へへ、よせやい」
優しい友達の肩に、ぽんと頭をもたせ掛ける。綾人は照れたように、鼻の下を指で擦った。こういうやり取り、久しぶりで楽しいな。
ぼくは、陰りのない笑みを浮かべた横顔を、見上げた。
「……」
なんて切り出そうかな、と逡巡する。
「いやあ、成己と宏章さんがなあ……ラブラブだったから、驚かんけど……」
笑いながら菓子箱を探っている綾人に、ぼくはそっと居住まいを正す。嬉しいけど――まずけじめとして、パーティのことを謝らなきゃ。
「あのね、綾人。パーティのことなんやけど――むぐ」
「はいはい、謝らんでよし。めでたいことなんだから」
口に、もぎゅっとどら焼きを詰め込まれちゃう。びっくりして、目を白黒させていると、綾人は優しく窘めてくれる。
「水くさいってば! オレ、すっげー嬉しいんだぞ。成己が幸せそうで……それに、会えなかったも何も、今、こうして会えてるじゃん!」
「綾人……」
お日様みたいな笑顔に、胸が熱くなった。
大切な友達からの祝福が、めっちゃ嬉しくて、有難くて――じわ、と涙が滲んでしまう。慌てて俯くと、今度こそティッシュで頬を拭われた。
「相変わらず、涙もろいんだからなあ」
「ごめん……嬉しくって。ありがとうね、綾人」
「どーいたしまして!」
明るい笑顔に、心のつっかえが下りていく。ぼくは今度こそ、にっこりと笑った。
それからね。
甘いお菓子を食べながら、ぼく達はたくさんおしゃべりをしたん。
番になったいきさつを、綾人に恐々と聞かれたので、ぼくは「急にヒートが来たけど、望み合ってのこと」と伝えた。城山邸であったくだりは、伏せて。
番になれたことが、ぼくにとって幸せな記憶やから。
――ぜんぶを話して……わざわざ、心配させることないもんね。
そう心の中で呟いていると……綾人は、ほっとしたように胸を撫でおろしていた。
「そっかあ。オレはてっきり、宏章さんが我慢の限界だー! ってなったんかなって……」
「え? どうして?」
「出た、無自覚! 宏章さんの成己への執着、はんぱねえじゃん!? お前にくっついてたら、レーザーみたいな目で見てくるし。成己は気づいてないっぽかったから、宏章さんがいつドカーンって来るかと……!」
「えーっ、そうやったん?」
ぼくは、震えあがる綾人の様子に、びっくりした。あの大人な宏ちゃんが……と思って、首をかしげてしまう。すると、綾人が自分の首をトン、と叩いた。
「成己も、わかったんじゃね……あんとき、さ」
「……!」
ぼくは、綾人の言葉にハッと目を見ひらく。
スカーフ越しに、項に触れる。そうしたら、項を噛まれた時の記憶が、ぶわあって舞い戻って来たんよ。
バラバラになりそうな痛みの中、宏ちゃんに抱き留められたときのこと――。
『――成己、愛してる』
大好きな人の甘い囁きが耳に蘇ってきて、顔から火が出そうになった。
「あはは、わかった顔してるー!」
「もう、綾人……からかうんやからーっ」
してやったりの笑みを浮かべる綾人に、ぼくは真っ赤になってぽかぽかと腕を振った。でも、照れてるだけなんがバレバレで、綾人はにやにや笑いをおさめへん。
「なあ。成己も、宏章さんのこと好きだよな?」
「……っ」
確かめるように尋ねられ、ぼくは目を丸くする。その声に、からかいと……ほんのちょっと、心配が滲んでるのを感じたから。
――そっか。ぼくと、宏ちゃんの結婚のいきさつをしってくれてるから……心配してくれてたんやね。
ぼくは、本日何度目かの涙を堪え、にっこり笑った。
「うん。ぼく、宏ちゃんのことが大好きっ」
やっと、心に戻ってきた大切な初恋を打ち明けると――綾人は、お日様の笑顔になってくれた。
「良かったな、成己ー!」
「わああっ?」
がばっと抱きつかれて、悲鳴を上げる。床の上でじたばたと子犬のように転がって、笑いあった。なんだか嬉しくって、くすぐったくて……笑わずにいられへんかったの。
「……ありがとう、綾人」
「へ? なにが?」
ひいひい笑いながら、目尻の涙を拭っている綾人に、ほほ笑む。
大好きな人のことを、大好きって言えるのって嬉しいんやね。
「ふふ、綾人ってば」
楽しそうに、サボちゃんに話しかけている綾人に、ぼくもくすくす笑う。以前、おうちに滞在してたとき、サボちゃんのことを可愛がってくれていた綾人。お部屋に来るたび、こうして話しかけてくれたのが、懐かしい。
――それに……こんなに嬉しそうにしてくれるのが、嬉しいなぁ。
ぼくも、すっごく嬉しいからね!
お茶とお菓子をたくさん、ローテーブルに並べて、おしゃべりするスタンバイをする。綾人は、クッションを並べて、背もたれを作ってくれた。
「成己、しんどかったら言うんだぞ。番になりたてんときは、無理は禁物だからな?」
「ありがとう、綾人っ。優しいね」
「へへ、よせやい」
優しい友達の肩に、ぽんと頭をもたせ掛ける。綾人は照れたように、鼻の下を指で擦った。こういうやり取り、久しぶりで楽しいな。
ぼくは、陰りのない笑みを浮かべた横顔を、見上げた。
「……」
なんて切り出そうかな、と逡巡する。
「いやあ、成己と宏章さんがなあ……ラブラブだったから、驚かんけど……」
笑いながら菓子箱を探っている綾人に、ぼくはそっと居住まいを正す。嬉しいけど――まずけじめとして、パーティのことを謝らなきゃ。
「あのね、綾人。パーティのことなんやけど――むぐ」
「はいはい、謝らんでよし。めでたいことなんだから」
口に、もぎゅっとどら焼きを詰め込まれちゃう。びっくりして、目を白黒させていると、綾人は優しく窘めてくれる。
「水くさいってば! オレ、すっげー嬉しいんだぞ。成己が幸せそうで……それに、会えなかったも何も、今、こうして会えてるじゃん!」
「綾人……」
お日様みたいな笑顔に、胸が熱くなった。
大切な友達からの祝福が、めっちゃ嬉しくて、有難くて――じわ、と涙が滲んでしまう。慌てて俯くと、今度こそティッシュで頬を拭われた。
「相変わらず、涙もろいんだからなあ」
「ごめん……嬉しくって。ありがとうね、綾人」
「どーいたしまして!」
明るい笑顔に、心のつっかえが下りていく。ぼくは今度こそ、にっこりと笑った。
それからね。
甘いお菓子を食べながら、ぼく達はたくさんおしゃべりをしたん。
番になったいきさつを、綾人に恐々と聞かれたので、ぼくは「急にヒートが来たけど、望み合ってのこと」と伝えた。城山邸であったくだりは、伏せて。
番になれたことが、ぼくにとって幸せな記憶やから。
――ぜんぶを話して……わざわざ、心配させることないもんね。
そう心の中で呟いていると……綾人は、ほっとしたように胸を撫でおろしていた。
「そっかあ。オレはてっきり、宏章さんが我慢の限界だー! ってなったんかなって……」
「え? どうして?」
「出た、無自覚! 宏章さんの成己への執着、はんぱねえじゃん!? お前にくっついてたら、レーザーみたいな目で見てくるし。成己は気づいてないっぽかったから、宏章さんがいつドカーンって来るかと……!」
「えーっ、そうやったん?」
ぼくは、震えあがる綾人の様子に、びっくりした。あの大人な宏ちゃんが……と思って、首をかしげてしまう。すると、綾人が自分の首をトン、と叩いた。
「成己も、わかったんじゃね……あんとき、さ」
「……!」
ぼくは、綾人の言葉にハッと目を見ひらく。
スカーフ越しに、項に触れる。そうしたら、項を噛まれた時の記憶が、ぶわあって舞い戻って来たんよ。
バラバラになりそうな痛みの中、宏ちゃんに抱き留められたときのこと――。
『――成己、愛してる』
大好きな人の甘い囁きが耳に蘇ってきて、顔から火が出そうになった。
「あはは、わかった顔してるー!」
「もう、綾人……からかうんやからーっ」
してやったりの笑みを浮かべる綾人に、ぼくは真っ赤になってぽかぽかと腕を振った。でも、照れてるだけなんがバレバレで、綾人はにやにや笑いをおさめへん。
「なあ。成己も、宏章さんのこと好きだよな?」
「……っ」
確かめるように尋ねられ、ぼくは目を丸くする。その声に、からかいと……ほんのちょっと、心配が滲んでるのを感じたから。
――そっか。ぼくと、宏ちゃんの結婚のいきさつをしってくれてるから……心配してくれてたんやね。
ぼくは、本日何度目かの涙を堪え、にっこり笑った。
「うん。ぼく、宏ちゃんのことが大好きっ」
やっと、心に戻ってきた大切な初恋を打ち明けると――綾人は、お日様の笑顔になってくれた。
「良かったな、成己ー!」
「わああっ?」
がばっと抱きつかれて、悲鳴を上げる。床の上でじたばたと子犬のように転がって、笑いあった。なんだか嬉しくって、くすぐったくて……笑わずにいられへんかったの。
「……ありがとう、綾人」
「へ? なにが?」
ひいひい笑いながら、目尻の涙を拭っている綾人に、ほほ笑む。
大好きな人のことを、大好きって言えるのって嬉しいんやね。
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