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第一部 決闘大会編
二十一話
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午前六時半、第一グラウンドのサッカーゴール前集合。
場所がこうだから、もちろん、ジャージに着替えてってことなんだろう。
俺は、体操服に着替えて靴ひもを結ぶ。寮の玄関を出て、早朝の爽やかな空気が胸いっぱいに吸い込んだ。
朝練みたいで、なんかいいなあ。簡単に筋を伸ばすと、てってっとジョギング気分で、グラウンドへ向かう。
「おはようございまーす」
集合場所には、補習のメンツと思しき生徒が集まっていた。二人とも見たことない人で、ジャージの色的に一人は先輩みてえ。
葛城先生は、まだ来ていない。近くにいた、同じ一年の肩をつつく。
「おはよ! 葛城先生の補習だよな?」
「えっ……おはよう。う、うん。そうだけど」
「授業、一緒になったことないよな。何組?」
「えっ、僕? ええと、E組の森脇……」
「森脇かー。俺、B組の吉村」
先生も来ないし、しばらく喋った。
森脇は、ちょっとおどおどしてるけど、いい奴っぽい。
なんか、しばらく休んでて授業に出れてなかったらしい。そういや顔色悪いし、体が弱いのかもな。
「ちっ……うるせぇな。朝から……」
と、ゴールポストに凭れてた、二年の先輩が舌打ちする。森脇が、ひゃっと飛び上がって、涙目になる。
やべ。声、でかかったかな。
「すんません」
「すす、すみませ」
「ふん」
頭を下げると、先輩はだるそうにそっぽを向いてしまった。
森脇は、かわいそうなくらい委縮しちゃってる。俺のせいで悪い。ポンとしょげきった肩を叩いた。
「遅くなってすまないな!」
微妙な空気を切り裂くように、葛城先生の声が響く。
肩にかけたジャージをはためかせ、短パンの脚で威風堂々、闊歩してくる。
「おはようございます!」
「うむ、おはよう。全員来ているな。では早速始めるぞ! まずはストレッチだ。片倉、お前が音頭取れ」
「えぇ……、なんで俺が」
「年長だろう。ちょうど前にいるしな。やれ」
「……はぁ」
二年の片倉先輩はため息をつくと、イッチニイッチニとやり始めた。意外と素直な人なんだな。
ストレッチを終え、整列すると、先生がオホンと咳払いをした。
「さて、グラウンドに集まってもらったのは他でもない。魔力コントロールの為に、最も重要なものを実感してもらうためだ。吉村、何かわかるか?」
「外だから、空気っすか?」
「違う。森脇!」
「えっ、ええと。肉体の元素、ですか?」
「そうだ。魔力コントロールは、己が肉体の元素をまず実感することから始まる。そもそも、どこに有るか解らないものを操るなど、出来はしないだろう? 四元素の働きにより、我らの体は動く。運動すると元素が大きく動くから、存在を実感しやすい」
「えっ、すげー!」
そういうもんなんだ。魔力のコントロールってチンプンカンプンだったけど、運動でわかるなら希望が見えてきたぞ。
「というわけで、四元素の働きを実感しながらジョギングだ」
葛城先生は、意気軒高に檄を飛ばしながら、先頭を走る。
次に俺と森脇、最後に片倉先輩が続く。
走るのは好きだ。体がほかほかとあったまってきて楽しい。
「体が温まって来たか?! それは火の元素の働きだ。火の元素は燃焼させ、爆発的なエネルギーを生む――」
葛城先生は、でかい声で説明しながら走る。前から思ってたけど先生って、かなり体育会系だよな。
講義を聞いてるうちに、五周目にさしかかる。
片倉先輩はマイペースに最後尾を走り、森脇はわき腹を押えて辛そうだ。
「森脇、大丈夫か?」
「へ、へへいき……」
森脇は、真っ青な顔でゼイゼイと荒い息を吐いている。マ、マジで平気なのか。
心配になったとき、葛城先生が振り向いた。
「森脇、魔力コントロールをしていいぞ。でも、無理はするな。疲れたら休め」
「は、はい」
森脇は頷くと、口の中で何言か詠じた。
と、青、金、赤、と順繰りに淡い光が現われる。
光に包まれた森脇は、人が変わったように軽快に走り出す。
「うおっ」
森脇は、葛城先生をも追い抜いて行く。足の運びに一切のよどみがねえ。
目を丸くしていると、葛城先生が歩調を緩め、俺の隣に来た。
「魔力コントロールを自在に行うとな。ああやって、肉体を思うように動かせるんだ。疲れないし、莫大なパワーを引き出せる。岩をも砕く膂力を得ることも出来るし、風より早く動くことも可能だ」
「へええ」
「お前たちも、してもいいぞ。走っているうちに、体内の元素の動きがわかってきただろう?」
えっ、マジで? あったかいなあ、くらいしかわかんねえんだけど。
すると、後ろを走ってた片倉先輩が、ぼそぼそと詠じはじめた。その足の先に、ごく淡い金色の光が点る。
ちょっとペースアップして、片倉先輩は走り出す。
葛城先生は頷いて、俺をぐるんと振り返る。
「お前もやってみろ、吉村。我が身に宿る風の元素よ、我が身をはやてのごとくせよ、だ」
「えーと。我が身に宿る風の元素よ、我が身をはやてのごとくせよ」
先生に続いて、詠みあげる。
別にしんどくもないけど、あんま変わってねえ気がする。
先生は、渋い顔で首を振った。
「違う。吉村、もっと体内の風の元素を感じろ。それじゃただの言葉だ」
「うす! 我が身に宿る風の元素よ、我が身を――」
「違う!」
「うす!」
並走する葛城先生に、ビシバシ指導される。
けど、出来ねえ。
走るのは辛くねえんだけど、その元素の存在ってのが皆目わからないわけ。
体を前に動かす物の尻尾を掴むんだって、先生は言うんだけどさ。普通に足は動くし、体はあったかいし、としか思わないのよ。
「違う! それじゃ、ただ走ってるだけだろ!」
「うす!」
結局、朝練の間中つきっきりで見てもらったのに、俺だけ全然できないままだった。
場所がこうだから、もちろん、ジャージに着替えてってことなんだろう。
俺は、体操服に着替えて靴ひもを結ぶ。寮の玄関を出て、早朝の爽やかな空気が胸いっぱいに吸い込んだ。
朝練みたいで、なんかいいなあ。簡単に筋を伸ばすと、てってっとジョギング気分で、グラウンドへ向かう。
「おはようございまーす」
集合場所には、補習のメンツと思しき生徒が集まっていた。二人とも見たことない人で、ジャージの色的に一人は先輩みてえ。
葛城先生は、まだ来ていない。近くにいた、同じ一年の肩をつつく。
「おはよ! 葛城先生の補習だよな?」
「えっ……おはよう。う、うん。そうだけど」
「授業、一緒になったことないよな。何組?」
「えっ、僕? ええと、E組の森脇……」
「森脇かー。俺、B組の吉村」
先生も来ないし、しばらく喋った。
森脇は、ちょっとおどおどしてるけど、いい奴っぽい。
なんか、しばらく休んでて授業に出れてなかったらしい。そういや顔色悪いし、体が弱いのかもな。
「ちっ……うるせぇな。朝から……」
と、ゴールポストに凭れてた、二年の先輩が舌打ちする。森脇が、ひゃっと飛び上がって、涙目になる。
やべ。声、でかかったかな。
「すんません」
「すす、すみませ」
「ふん」
頭を下げると、先輩はだるそうにそっぽを向いてしまった。
森脇は、かわいそうなくらい委縮しちゃってる。俺のせいで悪い。ポンとしょげきった肩を叩いた。
「遅くなってすまないな!」
微妙な空気を切り裂くように、葛城先生の声が響く。
肩にかけたジャージをはためかせ、短パンの脚で威風堂々、闊歩してくる。
「おはようございます!」
「うむ、おはよう。全員来ているな。では早速始めるぞ! まずはストレッチだ。片倉、お前が音頭取れ」
「えぇ……、なんで俺が」
「年長だろう。ちょうど前にいるしな。やれ」
「……はぁ」
二年の片倉先輩はため息をつくと、イッチニイッチニとやり始めた。意外と素直な人なんだな。
ストレッチを終え、整列すると、先生がオホンと咳払いをした。
「さて、グラウンドに集まってもらったのは他でもない。魔力コントロールの為に、最も重要なものを実感してもらうためだ。吉村、何かわかるか?」
「外だから、空気っすか?」
「違う。森脇!」
「えっ、ええと。肉体の元素、ですか?」
「そうだ。魔力コントロールは、己が肉体の元素をまず実感することから始まる。そもそも、どこに有るか解らないものを操るなど、出来はしないだろう? 四元素の働きにより、我らの体は動く。運動すると元素が大きく動くから、存在を実感しやすい」
「えっ、すげー!」
そういうもんなんだ。魔力のコントロールってチンプンカンプンだったけど、運動でわかるなら希望が見えてきたぞ。
「というわけで、四元素の働きを実感しながらジョギングだ」
葛城先生は、意気軒高に檄を飛ばしながら、先頭を走る。
次に俺と森脇、最後に片倉先輩が続く。
走るのは好きだ。体がほかほかとあったまってきて楽しい。
「体が温まって来たか?! それは火の元素の働きだ。火の元素は燃焼させ、爆発的なエネルギーを生む――」
葛城先生は、でかい声で説明しながら走る。前から思ってたけど先生って、かなり体育会系だよな。
講義を聞いてるうちに、五周目にさしかかる。
片倉先輩はマイペースに最後尾を走り、森脇はわき腹を押えて辛そうだ。
「森脇、大丈夫か?」
「へ、へへいき……」
森脇は、真っ青な顔でゼイゼイと荒い息を吐いている。マ、マジで平気なのか。
心配になったとき、葛城先生が振り向いた。
「森脇、魔力コントロールをしていいぞ。でも、無理はするな。疲れたら休め」
「は、はい」
森脇は頷くと、口の中で何言か詠じた。
と、青、金、赤、と順繰りに淡い光が現われる。
光に包まれた森脇は、人が変わったように軽快に走り出す。
「うおっ」
森脇は、葛城先生をも追い抜いて行く。足の運びに一切のよどみがねえ。
目を丸くしていると、葛城先生が歩調を緩め、俺の隣に来た。
「魔力コントロールを自在に行うとな。ああやって、肉体を思うように動かせるんだ。疲れないし、莫大なパワーを引き出せる。岩をも砕く膂力を得ることも出来るし、風より早く動くことも可能だ」
「へええ」
「お前たちも、してもいいぞ。走っているうちに、体内の元素の動きがわかってきただろう?」
えっ、マジで? あったかいなあ、くらいしかわかんねえんだけど。
すると、後ろを走ってた片倉先輩が、ぼそぼそと詠じはじめた。その足の先に、ごく淡い金色の光が点る。
ちょっとペースアップして、片倉先輩は走り出す。
葛城先生は頷いて、俺をぐるんと振り返る。
「お前もやってみろ、吉村。我が身に宿る風の元素よ、我が身をはやてのごとくせよ、だ」
「えーと。我が身に宿る風の元素よ、我が身をはやてのごとくせよ」
先生に続いて、詠みあげる。
別にしんどくもないけど、あんま変わってねえ気がする。
先生は、渋い顔で首を振った。
「違う。吉村、もっと体内の風の元素を感じろ。それじゃただの言葉だ」
「うす! 我が身に宿る風の元素よ、我が身を――」
「違う!」
「うす!」
並走する葛城先生に、ビシバシ指導される。
けど、出来ねえ。
走るのは辛くねえんだけど、その元素の存在ってのが皆目わからないわけ。
体を前に動かす物の尻尾を掴むんだって、先生は言うんだけどさ。普通に足は動くし、体はあったかいし、としか思わないのよ。
「違う! それじゃ、ただ走ってるだけだろ!」
「うす!」
結局、朝練の間中つきっきりで見てもらったのに、俺だけ全然できないままだった。
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