俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

六十三話

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 とはいえ、俺は試験間近の高校生。
 なんかちょっと、驚くようなことがあったって、へこんでいる場合じゃねえ。
 明日は、英語のみならず古典の小テストもあるし。
 高柳先生の課題だって、山盛りに出てんだからな。
 俺は、コンビニで買ってきたカツサンドを齧りながら、わっせわっせと課題に取り組んだ。
 今晩も、イノリと待ち合わせしてるし。それまでに粗方片付けておきたい。
 いま、寮の部屋には俺ひとり。
 戻ってきたら、俺の机に書置きが置いてあったんだよな。それが、

『吉ちゃん、おかえり。俺は担任の研究室に顔を出して、そのまま演習場に行ってきます。ご飯とお風呂は、待たないでね。 西浦』

 って、西浦先輩からっぽい内容だったんだけど。その下に別の字で、

『俺もメシ食ったら演習場に行く。先に寝とけ』

 って書いてあったわけ。もちろん、佐賀先輩なのはわかるんだけど。
 先輩たち、今日も一緒に訓練するんだなーって思ったら、ちょっとほっこりしちまうよな。
 で、連日の一人部屋に気兼ねなく、課題をやってメシを食って。部屋でシャワーを浴びてさ。
 俺は、九時前に部屋を出たのだった。




「よっしゃ、イノリ! 今日は思いっきりやっちまってくれ!」
「ぶーっ!?」

 部屋に入るなり、勢い込んで言うと、イノリが茶を派手に噴き出した。
 テーブルに広げていた本が緑茶まみれになって。イノリは驚愕の面持ちで、「な、な、」と口をパクパクさせている。

「うおお、本が! タオルタオル」
「あ、ごめん! こんなん、適当でへーきだからっ。――それより、どうしたの? すごい気合だね」

 慌てて駆け寄ると、我に返ったらしくイノリは本を閉じて、バサッと背後に放った。そして、ティッシュでテーブルを拭って、たずねてくる。
 俺はゴミ箱で紙くずを受けつつ、むんと拳を握った。

「ほら、決闘大会まで間もないしさ! そりゃ、気合も入るだろ?」
「それは、そうかもだけど。……?」

 イノリは、ちょっと不思議そうにぽりぽりと頬をかいている。一瞬考えるそぶりを見せたけど、すぐに「わかった」と手を広げてくれた。
 俺はホッとして、笑う。

「ありがとう!」

 ずりずりと、イノリの真ん前にいざり寄った。
 長い両腕で背中を引き寄せられて、ポスっと胸に額が当たる。

「じゃ、頼む――」
「トキちゃん、ちょっとごめん」
「えっ?」

 顔をあげる間もなく、ジャージの上衣の裾に手がかかったかと思うと。グイッ! と思いっきり捲り上げられた。

「うぎゃあ!?」
「あー、やっぱり! トキちゃん、怪我してる!」

 急に素肌が空気にさらされて、奇声を発する。
 イノリは、俺の背中をのぞき込んで声をあげた。

「な、なんで」
「おかしいと思ったんだ。なんか、庇ってるみたいに動いてたし……あ、肩も!」

 イノリは俺の襟を伸ばして、中を覗き込んだ。肩に貼ってあるものを見て、眉を顰める。「これ、何?」と尋ねられて、おろおろ答える。

「それは、熱さまシートかな~」
「なんでー? 医務室には、行かなかったの?」
「それは……」

 その、シャツがボロボロだったから。なんか聞かれたらやだなと思って、行かなかったんだ。
 で、コンビニで買った熱さまシートで、応急手当をしたというか。
 言いあぐねていると、イノリはふうと息を吐いた。
 でっかい手に、シートの上から打ち身にそっと触られて、息を飲む。

「やっぱり、熱を持ってるよ。トキちゃん、ちゃんと手当てしよう? ……ちょっと待ってて」
「えっ」
「すぐ戻るから」

 すっくと立ちあがると、イノリは部屋を出て行ってしまった。
 ぽつんと残されて、俺はもぞもぞと居住まいを正す。
 下手こいた。
 かえって心配かけちまったぞ……。イノリは、昔から俺の不調をすぐに見抜くのに。医務室くらい、ちゃんと行っておくんだった。
 後悔していると、ガチャとドアが開く音がして。イノリが、ひょこっと部屋に入ってくる。

「おまたせー」
「速っ!?」

 ぎょっとして、派手に後ずさる。お待たせも何も、たった二分もたってないぞ。
 イノリは不思議そうに、片手にさげた白い袋を掲げてみせた。

「これ、湿布。医務室でもらってきたー」
「あ、ありがとう。わるい」
「んーん」

 おっとりと首を振って、イノリは袋から湿布を取り出した。受け取ろうとして手を出すと、ニコっと微笑まれる。
 あ、これは。圧がすげえ……!

「じゃあ、手当てするからー。ぜんぶ脱いでもらおうかなー?」


 
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