俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百二十七話 

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――チリッ。

「うわ」

 まただ。
 俺は、項をポリポリとかいた。
 朝から、ちょいちょい項がピリピリする。なんか、鋭い視線が突き刺さってるみたいっつーか。けっこう、やな感じなんだよな。
 廊下をてくてく歩きながら、周囲を見回す。休み時間の廊下は、がやがや賑わってる。特に誰もこっちを見てる様子はない。

「気のせいかなあ」

 俺は、首を捻った。





 休み時間を利用して、西浦先輩のクラスへやって来た。
 入り口から、そうっと中を覗き込む。複数のグループが固まって、わいわい談笑してるみたいだった。

「うーむ。ここからじゃ、ちょっとわかりにくいぜ……」
「何やってんの?」

 扉からのぞき込んでいると、肩をポンと叩かれる。振り返ると、にゅん、と猫っぽい顔の先輩が、立っていた。
 俺は、慌てて居住まいを正す。

「真北先輩。こんにちはっす!」
「おう。で、なんか用?」

 真北先輩は、西浦先輩の友達だ。よく西浦先輩に会いに部屋に来てるから、俺も顔見知りだったりする。

「西浦先輩、いますか? 俺、ちょっとお話したいことがありまして……」
「ああね。西浦ならいねえよ。職員室行ったから」
「えっ」
「たぶん、授業まで戻ってこないと思うぜ」
「あっ。……そうなんすか」

 なんと。先輩、いねえのか……。
 残念だけど出直すほかないか――と、思ったとき。
 教室の中から、「あれ?」って。やわらかい、穏やかな声がした。

「吉ちゃん?」

 入り口に姿を見せたのは、西浦先輩だ。
 俺は、ぱっと気分が浮上する。
 ラッキー! 先輩、ちょうど帰って来てたんだ。
 西浦先輩と何か話して、真北先輩が室内へ入れ違いに入ってく。

「真北先輩、ありがとうございましたっ」
「……」
「吉ちゃん、真北がごめんね。……どうしたの?」

 こっちを向いた西浦先輩に、ギクッとする。
 先輩は、痩せたみたいだった。ニッコリ笑ってるけど、顔色もあんまりよくない。

「……あ、えっと。特に用ってわけじゃないんすけど。そうだ、お話したくて!」

 慌てて、パタパタ手を振った。
 しかし、困ったぞ。俺、佐賀先輩と何かあったんですか、とか。先輩がいないと寂しいです、とか。
 正直な気持ちを、そのまま伝えるつもりだったんだけど……。

「そうなんだ。ありがとね、来てくれて」
「いえ、そんな!」
「……どうして鞄持ってるの?」
「間違えて、持ってきちゃって」

 俺は頭をかいて、なははと笑う。
 西浦先輩、なんだかしんどそうだ。とても、当初のプランを実行できる雰囲気じゃない。下手なこと言ったら、もっと追い詰めちゃいそうな気がした。

「吉ちゃん、テストで不安なところない?」
「はい。あ、そういえば姫子先生の試験で、おやつ持参ってほんとですかね?」
「ああ、それはね――」

 で、結局、テストの話とかだけしたんだ。
 仲直りしてもらおうって、勇んできたけど。人の気持ちって、そんな簡単に行かんよな。
 ただ、田中先輩――西浦先輩の親友で、いまお泊りにいってるとこなんだけど。そこでは、不便はないみたい。
 足りないものは無いらしいし、のんびりできてるって。それは良かったよな。
 その分、やつれてるのが気になるけど……。

「田中のことは知ってるよね。吉ちゃんも、良かったら来てね」
「うすっ。ありがとうございます」
 
 田中先輩は、俺も知ってる。カラッとした明るい人だ。
 あの人が先輩のそばにいてくれるなら、心強い。

「それにしても。先輩、すげぇ気にしてるみたいだったな……」

 俺、ちょっと気づいたことがある。
 西浦先輩、ときどき「佐賀は」って言いかけてたんだ。すぐに、言い間違ったみたいに、黙っちゃってたけど。
 だから、佐賀先輩のこと、気にしてるんだってわかった。

「一体、どんな喧嘩したってんだろう……」 
 
 今度は、佐賀先輩に話を聞きにいこう。
 俺は、新たに決意した。

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