エンドロール〜BLゲームの悪役モブに設定された俺の好きな子の話〜

高穂もか

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第一章 おけつの危機を回避したい

四十二話 

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「はあ、はあ……」
 
 廊下の突き当りに出て、足を止める。ドコドコと早鐘を打つ心臓を、宥めるように撫でた。
 人気のない廊下には、どっかのクラスの出し物らしいダン箱が積まれとる。
 とっさに走って、えらい遠くまで来てしもたで……。
 
「えっ、なんで逃げてんねんろ」
 
 はっ、と我に返る。
 優姫くんやったら、知らん仲やないのに。普通に「なに喋ってんの~?」って、合流したらよかったやんか。
 そうや! 今からでも戻って、おれも一緒に話して――
 
「あ、あれ……?」
 
 そう、思うのに。
 足が……地面に張り付いたみたいになって、よう動かん。
 おれは、へなへなとその場に座り込んだ。
 さっきの光景思い出して、ギューって目をつぶった。胸のうちで変な声がして、ぐるぐる回っとる。
 
――優姫くんとは、おれが仲良しやのに。晴海、おれと一緒におらんときでも、優姫くんと仲良く話すんや……。
 
「って、当たり前や! 晴海、人見知りとちゃうもん。それに、優姫くんは可愛いし、優しいし。晴海かて、仲良くしたいに決まってるやろっ」
 
 ぶんぶん、と激しく頭を振る。
 おれ、何考えてんのやろ。晴海が誰と仲良くしても、そんなん自由やし!
……そう言い聞かすのに、胸がもやもやして気持ち悪い。
 何これ。
 今のおれ、いや。
 友達同士が仲良くなって、なんで喜ばへんの。
 抱えた膝にオデコ埋めて、ずーんと落ち込んでまう。

「……はぁ」

 ポン。

 唐突に肩を叩かれて、のろのろと顔を上げる。
 
「!」
「もうじき授業が始まりますよ。こんな場所で何をしてるんですか?」
 
 眼鏡が、逆光でキランと光る。

――さ、榊原……! 

 おれは、一瞬にして青ざめた。バネ仕掛けの人形みたいに、ビョインと立ち上がる。
 
「あっ、もう行くとこですっ。ごめんなさい!」
「待ちなさい」
「ひっ!?」

 すれ違いざま、二の腕をがしりと捕まえられた。
 てか、行け言うたり、待て言うたり。森のくまさんかい! 

「わあっ?」

 足の間に片膝を突っ込まれ、猛烈に押し出しをくらい――あっという間に壁際に追い詰められてまう。
 なにこの早業? 頭一つ高いとこにある榊原の顔を、おれは呆然と見上げた。
 
「今日は、有村くんは一緒じゃないんですね」
「ハ、ハイ。イエ」
「どっちです? ……小耳に挟んだのですがね、愛野くんと和解したとか。おめでとうございます」
「え、あ。ありがとうございます……?」
 
 何を言いたいの?
 おどおどと見上げたら、榊原は唇をやんわりとしならせた。と、冷たい氷のような手が、脇腹をすー……っと撫で上げていく。
 
「ぎゃ!?」
 
 ぞろっ、と全身に鳥肌が立った。突っぱねようと振り回した手を、窓に押し付けられる。
 
「ちょっ?!」
「細いですね。ちゃんと食べられてますか? まだ何か、悩みでもあるのでは――」
「い、いいいえ!」
 
 ひいい~! キショイよぉ! 
 高そうな香水の匂いが、鼻の中に押し迫ってくる。

「ほんまに、何もないんですぅっ!」

 耐えきれず、叫んだとき。

「シゲルッ!」

 バタバタ……と忙しい足音と共に、晴海が駆け寄ってきた。おれは、地獄に仏を見た心地で叫ぶ。

「晴海っ!」

 晴海は榊原をべりっとひき剥がして、おれを背中に庇ってくれた。白いシャツが眩しい。

「あんた、何してるんすか!?」
「ふっ。ただの世間話です。あまり束縛が酷いと嫌われますよ、有村くん?」
「なっ?!」

 晴海は絶句する。
 生徒相手に何言うてんねん。晴海のシャツにぎゅっとしがみついて、睨みつける。
 榊原は、肩を竦めた。

「では、私は会議がありますので。君たちも、授業に行きなさい」

 やりたい放題して、榊原は去っていった。
 晴海は、おれの両肩を掴んで、せき込むように聞いてくる。

「シゲルッ、大丈夫か? 酷いことされてへんか?」
「う、うん。何もないで」
「そうか……よかった」

 大きい息を吐いて、晴海はおれの肩にオデコをくっつけた。
 とくん、と胸の奥が揺れて、あったかくなる。

「晴海、ありがとうな。来てくれて……」
「なに、当たり前やろ。でも、なんで急に走ってったんや?」
「えっ?」

 真っ黒い目にじっと見られて、狼狽える。

「気づいてたん?!」
「いや、俺は知らんかってんけど」
「僕が気づいたの」
「!」

 突如、澄んだ声が割って入る。
 見れば、優姫くんが苦笑していた。追っかけて、きてくれてたんや……。
 きゅ、と晴海のシャツを握る。

「今井くんがさ、泣きそうな顔で走って行っちゃったから。ひょっとして、何か誤解させちゃったかもって思って」
「な、泣きそう!?」

 おれ、そんな顔してたん……?!
 慈しみのこもった笑顔を向けられて、全身に汗が噴き出る。
 晴海が、心配そうに眉を下げた。

「泣きそうて。なんかあったんか?」
「え、ええと。そのぉ」

 どう言うたもんか困ってたら、優姫くんが呆れ顔になる。

「鈍いなあ、有村くん。恋人が他のネコと喋ってたら、やきもちやくでしょ」
「へ?」

 晴海は、一拍遅れてブハッとふき出した。

「いやいや。そりゃないですわ! なあ、シゲル?」

 笑顔で振り返った晴海が、目を丸くする。――たぶん、おれが真っ赤やから。自分でも驚くくらい、顔あっついんやもん……!

「え、シゲ……?」

 晴海が、ぱっと目元を赤らめる。
 おれは、半泣きで手を振り上げた。

「晴海のアホーっ!」

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