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第9話 グループ結成
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残念なことに、と言うべきか。
幸いなことに、と言うべきか。
悩みどころだが、俺個人の感覚からすれば幸いな方だろうな。
と、森の中で俺は後ろからオドオド着いてくる二匹のゴブリンを見ながら思った。
もちろん片方は雌ゴブリン、もう片方は雄ゴブリンで、先ほどグループを組んだ二匹である。
他にメンバーはいないのか?
と誰もが聞きたくなるだろうが、はっきり言おう。
いない。
本来、ゴブリンのグループは四、五人が基本なのだが、俺たちと組もうという奴は一匹も現れなかったためだ。
色々と理由はある。
まず、俺だけなら自分のグループに入れてやるとか、むしろリーダーとしてもっと体格のいいゴブリン四匹を率いてくれてとか、そういう勧誘が絶えなかった。
しかし、俺はその全てを断った。
なぜと言って、そんなことを提案して来る奴ら全員が《早熟》持ちだからだ。
その時点でもうあり得ない。
使い捨ての盾扱いでいいと割り切るのならそれでも受けいれれば良いのかもしれないが、流石にゴブリンとはいえ、同じ一族……つまりは親戚の同年代の子供たちなのである。
そこまで非道な扱いをする気にはならなかった。
そもそも、俺にだいぶ期待しているような表情だったからな、みんな。
この人……人じゃないか。
このゴブリンに着いていけばいい目を見れる!みたいな。
分かりやすい子分根性でゴブリンらしい思慮の浅さを感じないでもなかったが、それでも実際にそう見られてみるとなんだか意外に可愛いものである。
だからこそ、そんな奴らを肉盾には出来ない。
ただ、一緒にグループを組むことも出来ない。
だから断った。
他にはそれこそ、ネゼルとかタキヨンと言った、体格のいいゴブリンが俺を仕切りに勧誘してきたが、その際の文句が『そんなチビども、すぐに死ぬ未来のない奴らなんだから捨て置いて、俺たちと組もうぜ』だったから即座に却下した。
売り言葉に買い言葉で『こいつらは見込みがあるから俺が育ててやるんだ。黙ってろ』とまで言い返してしまい、ネゼルにもタキヨンにも俺は敵視されることになった。
何やってるんだという感じである。
大して賢くもない、しかも子供のゴブリン相手に反射的にキレるなんて。
一応前世、大学生まで生きた人間として自らの理性のなさを反省したくなった。
まぁ、俺自身、なんとなくだがゴブリンの肉体に引きずられてちょっと理性が弱くなっているところもあるなぁと感じないでもないので、全てが俺の短気さに起因する訳ではないはずだ、多分。
『なぁ、ゲード。大丈夫なのか? 本当にあんなこと言ってよ』
オドオドと森の中を棍棒片手に進む雄ゴブリン、ゲズダズが俺にそう言った。
ちなみにゲードとは今世における俺の名前である。
続けて雌ゴブリン、ビガーナが言う。
『そうですよ……ネゼルとタキヨンに、今日の狩りで二人のグループより沢山の獲物を獲ってくる、なんて言って……。そんなの私たちに出来るわけないじゃないですか。今からでも遅くありません。謝りましょうよ……』
情けないことをいう二人に、俺は言う。
『いいんだよ。あんなこという奴らには結果を見せてやった方が早い。俺たち魔物は強いやつに従う本能もあるしさ。自信が全然ないっていうなら、今日のところは二人とも俺の見学でもいいんだ』
『お前、一人でやるつもりかよ!? ネゼルもタキヨンも、魔物を狩ってくるかもしれないんだぜ……あいつら、俺たちの一族じゃ中々ないくらいに力が強いからな。英雄になれるんじゃないかって皆期待してるくらいだ』
『英雄ねぇ……無理じゃないかな』
《早熟》持ちには百パー無理だ。
そう言い切りたい衝動に駆られるが、そこは黙っておく。
そもそも、俺がそう確信しているだけで、ネゼルにしろタキヨンにしろ、未来に展望を持っているだろうからな。
それをいきなり絶つのもひどい話だろう。
そんな俺にゲズダズが呆れた顔で、
『お前なぁ……』
と言ったが、その瞬間、
『あっ!? ふ、二人とも!』
とビガーナが叫ぶ。
一体どうしたのだ、と思って彼女の視線の方向に目をやると、そこには球体が潰されたような形をした、水の塊のような物体がポヨポヨと微妙に動いていた。
中心部には核と思しき物体と、魔石が輝いているのが見える。
『スライムだな……あれならいけるんじゃないかな?』
俺がそう言うと、ゲズダズとビガーナは震えて言う。
『いや、スライムってヤベェだろ。あいつ、酸を飛ばしてくるし、くっついて窒息させようとしてくるし、触れたらそこから溶かそうとしてくるしよ……』
『核を壊せば一発って言いますけど、私たちゴブリンの力じゃそんなこととても……。ゲードさん、逃げましょうよ……もっといいのがいますって。ネズミとか』
情けない台詞である。
スライムなど、どんな世界でも雑魚魔物だろう、というのは言い過ぎか。
不定形で物理無効だからとても強い、という場合もある。
だが、この世界においてはスライムは弱者だ。
なぜわかるかと言えば、俺の《真実の目》にはそのステータスが映っているからだ。
名前:ーー
種族:スライム(通常種)
STR(力):I
VIT(生命力):H
MAG(魔力):H
INT(賢さ):I
RES(魔法抵抗):I
AGI(素早さ):H
DEX(器用さ):G
LUK(運):G
称号:なし
技能:《酸弾1》《消化》《物理耐性1》
ステータスIは流石にどうにでもなるはずだ。
技能の数はゴブリンより多い上、攻撃手段が物理に限られるノーマルゴブリンにとってはかなり相性の悪い相手ではある。
だからこそのゲズダズとビガーナの怯えだ。
ただ、俺にはそれを打ち破るスキルがある。
道を歩く中で俺は尖った木の棒を拾っているのだ。
これを使えば、勝てるはずだ……。
俺は怯えて腰が引けている二匹を後ろに置いたまま、スライムに向かって走り出した。
幸いなことに、と言うべきか。
悩みどころだが、俺個人の感覚からすれば幸いな方だろうな。
と、森の中で俺は後ろからオドオド着いてくる二匹のゴブリンを見ながら思った。
もちろん片方は雌ゴブリン、もう片方は雄ゴブリンで、先ほどグループを組んだ二匹である。
他にメンバーはいないのか?
と誰もが聞きたくなるだろうが、はっきり言おう。
いない。
本来、ゴブリンのグループは四、五人が基本なのだが、俺たちと組もうという奴は一匹も現れなかったためだ。
色々と理由はある。
まず、俺だけなら自分のグループに入れてやるとか、むしろリーダーとしてもっと体格のいいゴブリン四匹を率いてくれてとか、そういう勧誘が絶えなかった。
しかし、俺はその全てを断った。
なぜと言って、そんなことを提案して来る奴ら全員が《早熟》持ちだからだ。
その時点でもうあり得ない。
使い捨ての盾扱いでいいと割り切るのならそれでも受けいれれば良いのかもしれないが、流石にゴブリンとはいえ、同じ一族……つまりは親戚の同年代の子供たちなのである。
そこまで非道な扱いをする気にはならなかった。
そもそも、俺にだいぶ期待しているような表情だったからな、みんな。
この人……人じゃないか。
このゴブリンに着いていけばいい目を見れる!みたいな。
分かりやすい子分根性でゴブリンらしい思慮の浅さを感じないでもなかったが、それでも実際にそう見られてみるとなんだか意外に可愛いものである。
だからこそ、そんな奴らを肉盾には出来ない。
ただ、一緒にグループを組むことも出来ない。
だから断った。
他にはそれこそ、ネゼルとかタキヨンと言った、体格のいいゴブリンが俺を仕切りに勧誘してきたが、その際の文句が『そんなチビども、すぐに死ぬ未来のない奴らなんだから捨て置いて、俺たちと組もうぜ』だったから即座に却下した。
売り言葉に買い言葉で『こいつらは見込みがあるから俺が育ててやるんだ。黙ってろ』とまで言い返してしまい、ネゼルにもタキヨンにも俺は敵視されることになった。
何やってるんだという感じである。
大して賢くもない、しかも子供のゴブリン相手に反射的にキレるなんて。
一応前世、大学生まで生きた人間として自らの理性のなさを反省したくなった。
まぁ、俺自身、なんとなくだがゴブリンの肉体に引きずられてちょっと理性が弱くなっているところもあるなぁと感じないでもないので、全てが俺の短気さに起因する訳ではないはずだ、多分。
『なぁ、ゲード。大丈夫なのか? 本当にあんなこと言ってよ』
オドオドと森の中を棍棒片手に進む雄ゴブリン、ゲズダズが俺にそう言った。
ちなみにゲードとは今世における俺の名前である。
続けて雌ゴブリン、ビガーナが言う。
『そうですよ……ネゼルとタキヨンに、今日の狩りで二人のグループより沢山の獲物を獲ってくる、なんて言って……。そんなの私たちに出来るわけないじゃないですか。今からでも遅くありません。謝りましょうよ……』
情けないことをいう二人に、俺は言う。
『いいんだよ。あんなこという奴らには結果を見せてやった方が早い。俺たち魔物は強いやつに従う本能もあるしさ。自信が全然ないっていうなら、今日のところは二人とも俺の見学でもいいんだ』
『お前、一人でやるつもりかよ!? ネゼルもタキヨンも、魔物を狩ってくるかもしれないんだぜ……あいつら、俺たちの一族じゃ中々ないくらいに力が強いからな。英雄になれるんじゃないかって皆期待してるくらいだ』
『英雄ねぇ……無理じゃないかな』
《早熟》持ちには百パー無理だ。
そう言い切りたい衝動に駆られるが、そこは黙っておく。
そもそも、俺がそう確信しているだけで、ネゼルにしろタキヨンにしろ、未来に展望を持っているだろうからな。
それをいきなり絶つのもひどい話だろう。
そんな俺にゲズダズが呆れた顔で、
『お前なぁ……』
と言ったが、その瞬間、
『あっ!? ふ、二人とも!』
とビガーナが叫ぶ。
一体どうしたのだ、と思って彼女の視線の方向に目をやると、そこには球体が潰されたような形をした、水の塊のような物体がポヨポヨと微妙に動いていた。
中心部には核と思しき物体と、魔石が輝いているのが見える。
『スライムだな……あれならいけるんじゃないかな?』
俺がそう言うと、ゲズダズとビガーナは震えて言う。
『いや、スライムってヤベェだろ。あいつ、酸を飛ばしてくるし、くっついて窒息させようとしてくるし、触れたらそこから溶かそうとしてくるしよ……』
『核を壊せば一発って言いますけど、私たちゴブリンの力じゃそんなこととても……。ゲードさん、逃げましょうよ……もっといいのがいますって。ネズミとか』
情けない台詞である。
スライムなど、どんな世界でも雑魚魔物だろう、というのは言い過ぎか。
不定形で物理無効だからとても強い、という場合もある。
だが、この世界においてはスライムは弱者だ。
なぜわかるかと言えば、俺の《真実の目》にはそのステータスが映っているからだ。
名前:ーー
種族:スライム(通常種)
STR(力):I
VIT(生命力):H
MAG(魔力):H
INT(賢さ):I
RES(魔法抵抗):I
AGI(素早さ):H
DEX(器用さ):G
LUK(運):G
称号:なし
技能:《酸弾1》《消化》《物理耐性1》
ステータスIは流石にどうにでもなるはずだ。
技能の数はゴブリンより多い上、攻撃手段が物理に限られるノーマルゴブリンにとってはかなり相性の悪い相手ではある。
だからこそのゲズダズとビガーナの怯えだ。
ただ、俺にはそれを打ち破るスキルがある。
道を歩く中で俺は尖った木の棒を拾っているのだ。
これを使えば、勝てるはずだ……。
俺は怯えて腰が引けている二匹を後ろに置いたまま、スライムに向かって走り出した。
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