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第10話 撃破
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まずは様子見に、手に持った木の棒を軽くスライムに対して振り下ろす。
すると、ボヨン、という割と強めの反動が返ってきて、俺の体が吹き飛ばされる。
『……《物理耐性1》は伊達じゃないってことか』
そこまで力を入れていなかったとは言え、ゼリーのように簡単に切り裂く、というわけにはいかないのだということをそこで理解する。
足を止めずに再度少しずつ距離を詰めてみると、スライムの体の一部がまるで鞭のように伸び、俺に向かって振り下ろされた。
『……っ!』
横に飛んで避けるが、避けたその場所には少し凹んだ後が残るほどの攻撃であり、普通の人間であれば叩かれた程度で済むかもしれないが、この貧弱なゴブリンの身にとっては結構致命的な一撃になりそうに思えた。
あれを一発でももらうわけにはいかないな……。
そんなことを考えながら、次の出方を見守っていると、
『ゲード! がんばれ! 行けるぞ!」
『ゲードさん、無理しないでくださいね! でも応援してます!』
という声がかなり背後の方から聞こえてくる。
もちろん、それはゲズダズとビガーナのものである。
俺が言った通り、今回のところはやはり見学に徹することにしたようだ。
ただ、思ったより俺がやれているので応援してくれてる感じか。
となると、ここで負けるわけにはいかない。
勝てば、ゴブリンの可能性というか、そういうものを二人にも理解してもらえるかもしれないからだ。
あのまま卑屈な性格のままだと、たとえ《早熟》スキルを持っていなくても全然成長しない、なんていう可能性はあるからな。
女神の話によれば、あくまでもスキルシステムは経験値を効率的に注ぎ込むように出来ているだけで、何もしなくても強くなれるようなものではないからだ。
二匹にはこれから先、しっかりと自分の意思で頑張ってもらわなければならない。
そう思った俺は、改めてスライムに向き合う。
思ったよりも強力な攻撃手段を持っていることが実戦で分かったスライムだが、あれくらいであれば即死することはないだろう。
いざというときは逃げる事もできる。
多少冒険してもいいかもしれない……。
俺は地面を踏み切り、スライムとの距離を詰める。
案の定、スライムの体の一部が伸びてくるが、俺はそれを《見切り》、間一髪で避けた。
そして木の棒の先端をスライムの体、その中に覗く《核》に向けて、力一杯突き込む。
もしかしたらまた跳ね返されるかもしれない、という危惧はあった。
しかし、そうなることはなく、少しの抵抗を感じただけで、木の棒はそのままスライムの体の奥深くへと入り込んでいく。
意外にも軽い手応えだったが、スライムの体の中に入るとやはりそれなりの抵抗は感じた。
力を抜けないと俺は腕に力を込める。
そして、木の棒の先端がスライムの《核》に命中した。
出来ればこの一撃で。
その願いを神が受け入れてくれたのか、木の棒が命中すると同時に《核》にヒビが入り、そしてそのままパリン、と割れたのだった。
俺がその後、木の棒を引き抜き、距離を取ると、今まで不定形ながらも一個の存在として形を保っていたスライムは、ドロドロと崩れていき、そして最後には僅かな内臓と思しき個体物と、それに魔石を残して地面に染み込んでいったのだった。
どうやら、倒せたらしい。
俺がそう思ってホッとすると、
『……おいおいおい! ゲード! やったな!?』
『ゲードさん、すごいです……!!』
そんな声が近づいてきて、俺の肩を叩いた。
ゲズダズとビガーナだ。
二人とも特に戦ってはいないものの、まるで自分のことのように喜んでくれている。
ゴブリンのグループというのはそういうもので、狩りの結果はみんなの結果、というわけだ。
『あぁ。なんとかいけたな。やっぱり、《核》を潰すのが一番簡単っぽいぞ』
『お前、そうはいうけど簡単なことじゃないぞ。スライムの体の中に木の棒を突き込んだって、普通は跳ね返されて終わりだからな』
ゲズダズが呆れたように言う。
ビガーナは不思議そうな顔で、
『確かにそうなんですよね。でも、ゲードさんの攻撃は結構すんなり入っていったというか……綺麗でした。一体どうしてなんでしょう?』
と首を傾げる。
確かに、普通に攻撃したときは跳ね返されてしまったから、今の俺の腕力では木の棒で攻撃したところでスライムは倒せない。
ただ、実際には倒せていて……そこにはしっかりとした理由がある。
もちろん、それはスキルなのだが、二人にそれを説明すべきか、少し迷う。
この二人が言いふらさないかどうか、心配なのだった。
お調子者っぽいゲズダズと、話好きそうなビガーナ。
不安になってしまうメンツだが……。
まぁ、この三人でこれからしばらくやっていくのだ。
二人にはこれから先、どんどん成長していってもらわなければならないし、そのためには俺の力をある程度理解しておいてもらわなければならない。
だから、言うしかない。
しかし、その前に釘はしっかり刺しておく。
『そのことについてなんだが、二人とも、秘密は守れるか?』
『秘密?』
『ええと……?』
二匹が顔を見合わせたので、俺はさらに言う。
『俺たちのグループだけで共有する秘密だ。親兄弟にも、もちろん一族の他の連中にも決して話さない、そんな秘密を持てるかって話だ』
『……そんなヤベェ話なのか?』
ゲズダズがそのお調子者っぽい表情を引っ込めて、真面目な顔で聞いてきたので俺は頷いて答える。
『あぁ。もし秘密を俺の許可なく誰かに明かしたら、そのときは残念だが、俺はお前たち二人を殺さなければならない。それくらいのことなんだ』
『こ、殺すって……え? 本気……ですか?』
ビガーナが震える。
なんだか可哀想になってくるが、これは俺の生命線だ。
だからしっかり理解してもらわなければ俺の方が危ない。
『あぁ、本気だ。だけどな。秘密を守ってくれるなら、俺が確実にお前たち二人を強くしてやれる。一族の誰よりもだ』
これくらいの言葉では、人間の子供だったら殺されるかもしれない恐怖を振り払えないだろう。
しかし、ゲズダズもビガーナも良くも悪くも魔物だ。
理性はあっても、闘争心が人間よりずっと強い。
だからこの提案は魅力的に聞こえたようで、二人とも顔を見合わせて頷いて、
『……もしそれが本当なら……守るぜ。その秘密ってやつを』
『私も守ります! だから強くしてください!』
そう言ったのだった。
すると、ボヨン、という割と強めの反動が返ってきて、俺の体が吹き飛ばされる。
『……《物理耐性1》は伊達じゃないってことか』
そこまで力を入れていなかったとは言え、ゼリーのように簡単に切り裂く、というわけにはいかないのだということをそこで理解する。
足を止めずに再度少しずつ距離を詰めてみると、スライムの体の一部がまるで鞭のように伸び、俺に向かって振り下ろされた。
『……っ!』
横に飛んで避けるが、避けたその場所には少し凹んだ後が残るほどの攻撃であり、普通の人間であれば叩かれた程度で済むかもしれないが、この貧弱なゴブリンの身にとっては結構致命的な一撃になりそうに思えた。
あれを一発でももらうわけにはいかないな……。
そんなことを考えながら、次の出方を見守っていると、
『ゲード! がんばれ! 行けるぞ!」
『ゲードさん、無理しないでくださいね! でも応援してます!』
という声がかなり背後の方から聞こえてくる。
もちろん、それはゲズダズとビガーナのものである。
俺が言った通り、今回のところはやはり見学に徹することにしたようだ。
ただ、思ったより俺がやれているので応援してくれてる感じか。
となると、ここで負けるわけにはいかない。
勝てば、ゴブリンの可能性というか、そういうものを二人にも理解してもらえるかもしれないからだ。
あのまま卑屈な性格のままだと、たとえ《早熟》スキルを持っていなくても全然成長しない、なんていう可能性はあるからな。
女神の話によれば、あくまでもスキルシステムは経験値を効率的に注ぎ込むように出来ているだけで、何もしなくても強くなれるようなものではないからだ。
二匹にはこれから先、しっかりと自分の意思で頑張ってもらわなければならない。
そう思った俺は、改めてスライムに向き合う。
思ったよりも強力な攻撃手段を持っていることが実戦で分かったスライムだが、あれくらいであれば即死することはないだろう。
いざというときは逃げる事もできる。
多少冒険してもいいかもしれない……。
俺は地面を踏み切り、スライムとの距離を詰める。
案の定、スライムの体の一部が伸びてくるが、俺はそれを《見切り》、間一髪で避けた。
そして木の棒の先端をスライムの体、その中に覗く《核》に向けて、力一杯突き込む。
もしかしたらまた跳ね返されるかもしれない、という危惧はあった。
しかし、そうなることはなく、少しの抵抗を感じただけで、木の棒はそのままスライムの体の奥深くへと入り込んでいく。
意外にも軽い手応えだったが、スライムの体の中に入るとやはりそれなりの抵抗は感じた。
力を抜けないと俺は腕に力を込める。
そして、木の棒の先端がスライムの《核》に命中した。
出来ればこの一撃で。
その願いを神が受け入れてくれたのか、木の棒が命中すると同時に《核》にヒビが入り、そしてそのままパリン、と割れたのだった。
俺がその後、木の棒を引き抜き、距離を取ると、今まで不定形ながらも一個の存在として形を保っていたスライムは、ドロドロと崩れていき、そして最後には僅かな内臓と思しき個体物と、それに魔石を残して地面に染み込んでいったのだった。
どうやら、倒せたらしい。
俺がそう思ってホッとすると、
『……おいおいおい! ゲード! やったな!?』
『ゲードさん、すごいです……!!』
そんな声が近づいてきて、俺の肩を叩いた。
ゲズダズとビガーナだ。
二人とも特に戦ってはいないものの、まるで自分のことのように喜んでくれている。
ゴブリンのグループというのはそういうもので、狩りの結果はみんなの結果、というわけだ。
『あぁ。なんとかいけたな。やっぱり、《核》を潰すのが一番簡単っぽいぞ』
『お前、そうはいうけど簡単なことじゃないぞ。スライムの体の中に木の棒を突き込んだって、普通は跳ね返されて終わりだからな』
ゲズダズが呆れたように言う。
ビガーナは不思議そうな顔で、
『確かにそうなんですよね。でも、ゲードさんの攻撃は結構すんなり入っていったというか……綺麗でした。一体どうしてなんでしょう?』
と首を傾げる。
確かに、普通に攻撃したときは跳ね返されてしまったから、今の俺の腕力では木の棒で攻撃したところでスライムは倒せない。
ただ、実際には倒せていて……そこにはしっかりとした理由がある。
もちろん、それはスキルなのだが、二人にそれを説明すべきか、少し迷う。
この二人が言いふらさないかどうか、心配なのだった。
お調子者っぽいゲズダズと、話好きそうなビガーナ。
不安になってしまうメンツだが……。
まぁ、この三人でこれからしばらくやっていくのだ。
二人にはこれから先、どんどん成長していってもらわなければならないし、そのためには俺の力をある程度理解しておいてもらわなければならない。
だから、言うしかない。
しかし、その前に釘はしっかり刺しておく。
『そのことについてなんだが、二人とも、秘密は守れるか?』
『秘密?』
『ええと……?』
二匹が顔を見合わせたので、俺はさらに言う。
『俺たちのグループだけで共有する秘密だ。親兄弟にも、もちろん一族の他の連中にも決して話さない、そんな秘密を持てるかって話だ』
『……そんなヤベェ話なのか?』
ゲズダズがそのお調子者っぽい表情を引っ込めて、真面目な顔で聞いてきたので俺は頷いて答える。
『あぁ。もし秘密を俺の許可なく誰かに明かしたら、そのときは残念だが、俺はお前たち二人を殺さなければならない。それくらいのことなんだ』
『こ、殺すって……え? 本気……ですか?』
ビガーナが震える。
なんだか可哀想になってくるが、これは俺の生命線だ。
だからしっかり理解してもらわなければ俺の方が危ない。
『あぁ、本気だ。だけどな。秘密を守ってくれるなら、俺が確実にお前たち二人を強くしてやれる。一族の誰よりもだ』
これくらいの言葉では、人間の子供だったら殺されるかもしれない恐怖を振り払えないだろう。
しかし、ゲズダズもビガーナも良くも悪くも魔物だ。
理性はあっても、闘争心が人間よりずっと強い。
だからこの提案は魅力的に聞こえたようで、二人とも顔を見合わせて頷いて、
『……もしそれが本当なら……守るぜ。その秘密ってやつを』
『私も守ります! だから強くしてください!』
そう言ったのだった。
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