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第19話 お願い
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「……そういう事だったか。昨日助けてくれたゴブリンの人っていうのが、貴方だったわけだ」
事情を一通り説明した俺に、しみじみと言った様子でうなずいた、ケン君のお兄さん、カズ兄だった。
ちなみに、二人の本名は、山本一樹君と、山本健二郎らしい。
長男次男で、一と二を入れるあたり、現代においては若干古風めな名付けかもしれないな。
そして、女の子二人は、金髪ロングの方、ミサちゃんが岡田美沙、茶髪ポニーテールの方が結城莉乃という名前だという。
ケン君とミサちゃん、リノちゃんの三人は幼なじみで、お兄さんのカズ兄は七歳離れているため昔は監督役としてよく一緒に行動していたというが、今ではカズ兄の方は仕事の方が忙しく、ケン君たち三人組にはあまり気を払えていなかったらしい。
結果として、ケン君を発端に気付いたら三人とも不良になっていたらしい。
しかもカズ兄は、基本的に家を出て一人暮らしをしていて、最近、ケン君の様子を見た彼らの両親がカズ兄に頼み込んで戻ってきたのだという。
なるほど、確かに、この公園は俺の縄張りとして半年以上使っているが、ここでカズ兄が訓練している姿はここ何週間で何度か見たくらいだ。
もちろん、あんまり気に留めず話しかけたりもしなかったが、なんとなく記憶に残っていたのは、カズ兄の実力が俺から見ても中々だったからだ。
そんな彼に、俺は言う。
「ソンナニ大層ナコトヲシタワケジャナインダケドネ」
「いやいや、コボルトの《はぐれ》が出たんだろ? こいつらだけじゃ、まず全員殺されてただろ。実際、見ててどう思った?」
その質問をカズ兄がした時の、ケン君たちの様子と言ったら、みんな情けない顔をしていた。
自分たちの汚点というか、恥ずかしいところをそれを知っている人に暴露される気分なのだろう。
ただ、ここに至って俺にはケン君たちのそういう羞恥心に配慮してやる理由もない。
それに、カズ兄は彼らを辱めたいわけではなく、先ほどの話の続き……無茶して魔物といきなり戦うことの恐ろしさを、俺との会話で遠回しに伝えたいのだと思った。
視線が、なんとなく懇願するような感じだからな。
俺は彼の願いに寄り添うことにして、答える。
「マァ、ソレハ否メナカッタトハ思ウ。アノ《ハグレ》個体ハカナリ完成シテイタカラ」
「やっぱりそうか……でも、完成って?」
首を傾げたカズ兄に少し不思議に思ったが、おそらくケン君たちに聞かせるためだろうと思って俺は続けた。
「イワユル《ハグレ》個体ハ、迷宮ガ迷宮外ニ排出スル魔物ダケド、迷宮ノ発達段階ニヨッテ強サガ異ナルカラ。昨日ノ奴……アノコボルトハ、二十層程度ニ至ッタ迷宮ノモノダッタ。モットランクノ高イ魔物ダッタラ完成ニハ至ッテナカッタダロウケド、ケン君タチハ運ガ悪カッタト思ウヨ」
そこまで言ったところで、カズ兄がケン君たちの方を向いて言う。
「……だとさ。ほら、お前たちがどれだけ危険な状況だったか、この人の話を聞いて分かっただろ?」
これにケン君が怯えたようにうなずいて、
「あ、あぁ……」
と答えたが、それに続けて、
「でもよ、それを簡単に倒しちまったその……外部さんって、やっぱ、腕利きの探索者、なんだよな?」
これに、
「うちも気になる!」
「私も私も!」
と、ミサちゃんとリノちゃんも無邪気に続けた。
こうして話してみると、不良少年三人組はやはり、あんまり悪い感じじゃないな。
まぁ、昨日だって俺に詰め寄ってはきたが、結局暴力は振るわなかったし……雰囲気とか見た目が主の不良をしていた感じなのだろうか。
腕っぷしも正直大したことなさそうだし、その感じが濃厚だな。
そんなことを思いながら、苦笑しつつ彼らの言葉に答える。
「俺ハ探索者ナンカジャナイヨ。ソッチデ活躍シテル知人モイルケド、国ニ食ワセテモラッテルダケノ立場サ」
これに驚いたように尋ねてきたのは、カズ兄だった。
「えっ、コボルトとはいえ、一撃でただの釘バットで倒せるような腕前を持ってて、か?」
「マァ、ネ。デモコボルト位、カズ兄サンモ一撃デイケルデショ?」
「カズ兄さんって。まぁいいけどさ。確かに、俺も迷宮の浅い層で出るコボルトならいけると思うが……」
そこで言葉を止めたのは、《はぐれ》個体は難しい、と言う言葉を飲み込んだからだろう。
ケン君たちがいるからな。
あんまり魔物退治が簡単だ、と取られるような話はすべきじゃなという判断だろう。
「ダカラ、俺ハ大シタコトナインダ。サテ、ソロソロ俺ハイクヨ。アッ、ソノ前ニ一ツ、ケン君ニオ願イガアルンダケド」
「えっ、なんだなんだ!?」
嬉しそうにそう言ったのは、魔物を倒した実力がありそうな人に頼み事をされそうだからだろうな。
しかし、俺のお願いは、大したものではない。
それどころか、俺の保身のため一辺倒のもので……。
「昨日、釘バット持ッテ帰ッチャッタジャン? アレ、クレナイカト思ッテ」
「え? そ、そんなコトか……はぁ。別にいいけどよ……あっ、じゃあ俺からも頼み、いいかな……?」
ちょっと嫌な予感がしたが、交換条件としてしまった方が後々ちゃぶ台返しされる可能性が下がるかも、とこれまた自己保身的なことを思った俺は、つい、ケン君に尋ねてしまう。
「ナンダ? 聞ケルコトナラ聞クケド」
「あの、俺たち、今度探索者になろうって話してて……出来れば、こう、魔物と戦うコツとかあったら、教えてくれねぇかと思って……」
「あっそれいい! お願い、外部さんっ!」
「出来ればお願いしたいです。最低限のことだけでも知っておかないと、この二人、すぐ死んじゃいそうで、怖くて……」
ミサちゃんとリノちゃんも続けて言う。
俺はカズ兄の方に視線を向けたが、彼は少し考えるような表情をしてから、俺に言った。
「……もしも時間があったら、でいい。少しだけ見てやってくれないか。俺が基本は見るつもりだけど、これでもそこそこ探索者としての仕事が入ってる身でさ。つきっきりは難しくて。ちょっとだけでも他にこいつらの暴走を止めてくれる人がいたらありがたい……あぁ、もちろん、報酬は俺の方で出すよ。こいつら無一文に近いだろうし」
事情を一通り説明した俺に、しみじみと言った様子でうなずいた、ケン君のお兄さん、カズ兄だった。
ちなみに、二人の本名は、山本一樹君と、山本健二郎らしい。
長男次男で、一と二を入れるあたり、現代においては若干古風めな名付けかもしれないな。
そして、女の子二人は、金髪ロングの方、ミサちゃんが岡田美沙、茶髪ポニーテールの方が結城莉乃という名前だという。
ケン君とミサちゃん、リノちゃんの三人は幼なじみで、お兄さんのカズ兄は七歳離れているため昔は監督役としてよく一緒に行動していたというが、今ではカズ兄の方は仕事の方が忙しく、ケン君たち三人組にはあまり気を払えていなかったらしい。
結果として、ケン君を発端に気付いたら三人とも不良になっていたらしい。
しかもカズ兄は、基本的に家を出て一人暮らしをしていて、最近、ケン君の様子を見た彼らの両親がカズ兄に頼み込んで戻ってきたのだという。
なるほど、確かに、この公園は俺の縄張りとして半年以上使っているが、ここでカズ兄が訓練している姿はここ何週間で何度か見たくらいだ。
もちろん、あんまり気に留めず話しかけたりもしなかったが、なんとなく記憶に残っていたのは、カズ兄の実力が俺から見ても中々だったからだ。
そんな彼に、俺は言う。
「ソンナニ大層ナコトヲシタワケジャナインダケドネ」
「いやいや、コボルトの《はぐれ》が出たんだろ? こいつらだけじゃ、まず全員殺されてただろ。実際、見ててどう思った?」
その質問をカズ兄がした時の、ケン君たちの様子と言ったら、みんな情けない顔をしていた。
自分たちの汚点というか、恥ずかしいところをそれを知っている人に暴露される気分なのだろう。
ただ、ここに至って俺にはケン君たちのそういう羞恥心に配慮してやる理由もない。
それに、カズ兄は彼らを辱めたいわけではなく、先ほどの話の続き……無茶して魔物といきなり戦うことの恐ろしさを、俺との会話で遠回しに伝えたいのだと思った。
視線が、なんとなく懇願するような感じだからな。
俺は彼の願いに寄り添うことにして、答える。
「マァ、ソレハ否メナカッタトハ思ウ。アノ《ハグレ》個体ハカナリ完成シテイタカラ」
「やっぱりそうか……でも、完成って?」
首を傾げたカズ兄に少し不思議に思ったが、おそらくケン君たちに聞かせるためだろうと思って俺は続けた。
「イワユル《ハグレ》個体ハ、迷宮ガ迷宮外ニ排出スル魔物ダケド、迷宮ノ発達段階ニヨッテ強サガ異ナルカラ。昨日ノ奴……アノコボルトハ、二十層程度ニ至ッタ迷宮ノモノダッタ。モットランクノ高イ魔物ダッタラ完成ニハ至ッテナカッタダロウケド、ケン君タチハ運ガ悪カッタト思ウヨ」
そこまで言ったところで、カズ兄がケン君たちの方を向いて言う。
「……だとさ。ほら、お前たちがどれだけ危険な状況だったか、この人の話を聞いて分かっただろ?」
これにケン君が怯えたようにうなずいて、
「あ、あぁ……」
と答えたが、それに続けて、
「でもよ、それを簡単に倒しちまったその……外部さんって、やっぱ、腕利きの探索者、なんだよな?」
これに、
「うちも気になる!」
「私も私も!」
と、ミサちゃんとリノちゃんも無邪気に続けた。
こうして話してみると、不良少年三人組はやはり、あんまり悪い感じじゃないな。
まぁ、昨日だって俺に詰め寄ってはきたが、結局暴力は振るわなかったし……雰囲気とか見た目が主の不良をしていた感じなのだろうか。
腕っぷしも正直大したことなさそうだし、その感じが濃厚だな。
そんなことを思いながら、苦笑しつつ彼らの言葉に答える。
「俺ハ探索者ナンカジャナイヨ。ソッチデ活躍シテル知人モイルケド、国ニ食ワセテモラッテルダケノ立場サ」
これに驚いたように尋ねてきたのは、カズ兄だった。
「えっ、コボルトとはいえ、一撃でただの釘バットで倒せるような腕前を持ってて、か?」
「マァ、ネ。デモコボルト位、カズ兄サンモ一撃デイケルデショ?」
「カズ兄さんって。まぁいいけどさ。確かに、俺も迷宮の浅い層で出るコボルトならいけると思うが……」
そこで言葉を止めたのは、《はぐれ》個体は難しい、と言う言葉を飲み込んだからだろう。
ケン君たちがいるからな。
あんまり魔物退治が簡単だ、と取られるような話はすべきじゃなという判断だろう。
「ダカラ、俺ハ大シタコトナインダ。サテ、ソロソロ俺ハイクヨ。アッ、ソノ前ニ一ツ、ケン君ニオ願イガアルンダケド」
「えっ、なんだなんだ!?」
嬉しそうにそう言ったのは、魔物を倒した実力がありそうな人に頼み事をされそうだからだろうな。
しかし、俺のお願いは、大したものではない。
それどころか、俺の保身のため一辺倒のもので……。
「昨日、釘バット持ッテ帰ッチャッタジャン? アレ、クレナイカト思ッテ」
「え? そ、そんなコトか……はぁ。別にいいけどよ……あっ、じゃあ俺からも頼み、いいかな……?」
ちょっと嫌な予感がしたが、交換条件としてしまった方が後々ちゃぶ台返しされる可能性が下がるかも、とこれまた自己保身的なことを思った俺は、つい、ケン君に尋ねてしまう。
「ナンダ? 聞ケルコトナラ聞クケド」
「あの、俺たち、今度探索者になろうって話してて……出来れば、こう、魔物と戦うコツとかあったら、教えてくれねぇかと思って……」
「あっそれいい! お願い、外部さんっ!」
「出来ればお願いしたいです。最低限のことだけでも知っておかないと、この二人、すぐ死んじゃいそうで、怖くて……」
ミサちゃんとリノちゃんも続けて言う。
俺はカズ兄の方に視線を向けたが、彼は少し考えるような表情をしてから、俺に言った。
「……もしも時間があったら、でいい。少しだけ見てやってくれないか。俺が基本は見るつもりだけど、これでもそこそこ探索者としての仕事が入ってる身でさ。つきっきりは難しくて。ちょっとだけでも他にこいつらの暴走を止めてくれる人がいたらありがたい……あぁ、もちろん、報酬は俺の方で出すよ。こいつら無一文に近いだろうし」
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