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第26話 アウターズ
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「ええっと……」
山本一樹は駅前にあるコーヒーチェーンの中に入り、飲み物を注文してからキョロキョロと辺りを見回すと、目的の人物を発見した。
アイスコーヒーを退屈そうに飲みながら、スマホを弄っているその男性は、かなり浮世離れしていて、普通の勤め人であれば間違いなく会社に行っているだろう時間帯に、作務衣姿でバンダナを巻いている。
さらに顔を見れば妙に軽い形をしたサングラスをかけ、整えられた髭が生えているのも見える。
一体どんな職業なのか、ぱっと見では全く想像がつかない。
強いて言うなら、陶芸家か何かか、と言う感じだが、そういった職人が持っているような真面目さのようなものがまるで感じられなかった。
そんな彼は、一樹が視線を向けると同時にそれに気づいたようで、手を掲げて振ってきた。
笑顔だ。
笑うと思った以上に親しみやすい雰囲気になったが、そのことが余計に彼の不審人物感を強くする。
詐欺師か山師か、そんな感じだ。
けれど一樹は彼の正体をよく知っているので、特に警戒することなく、コーヒーを受け取ってそのまま彼の正面の席に座る。
すると作務衣の彼は早速と言った様子で、
「……いやー、悪いね。せっかく休暇中だったのに呼びつけちゃって」
と謝罪をしてきた。
これに一樹は首を横に振って、
「いえ、全然問題ないですよ、社長。兼ねてからの懸案事項がついこないだ片付いたもので、正直長期休暇はもういいんです。あ、でも定期的な休暇は普通にくださいよ」
「え? って言うと、弟さん更生したわけ? 意外だなぁ。だいぶ時間かかるものかと思ってたんだけど。一回グレると戻るのにどうしてもきっかけがいるからねぇ。兄貴にどうこう言われたくらいじゃ戻らないもんじゃん、普通」
「かつて十年ニートしてた人が言うと説得力がありますね……」
「ははは。僕の場合はそれこそ荒療治も荒療治だったからね。今じゃ、親父に感謝してるけど、フツー息子を迷宮に叩き込むかね? 死ぬじゃんね」
笑いながらそんな衝撃のセリフを言っているこの人物は、一樹の直属の上司であり、五大ギルドに数えられる探索者ギルド《アウターズ》の代表取締役社長、清野剛太《せいのごうた》だった。
「社長の親父さん、正直死んでもいいと思ってたんじゃあ……?」
「まぁ、そう言う可能性も少なからずあるよ。当時の僕って本当ただの穀潰しだったからねぇ……。さらに暴れるわ八つ当たりするわ金を奪うわのクズだよ。そりゃそうなるよ」
「社長、更生してよかったですね……」
「本当にね。今は親父ともお袋とも関係は良好さ。当時のこともしっかり謝ったしね。で、僕の方はともかく、カズ君の弟さんの方はどうして更生したの?」
「社長と似たようなもんですよ」
「……え、カズ君、弟さんを殺す気で迷宮に叩き込んだの……? 引くんだけど」
「流石にそんなことはしませんよ! じゃなくて、ですね。なんかコンビニで屯ってたところに突然|《はぐれ》が出現したみたいなんですよ」
「《はぐれ》!? へぇー、そりゃ、不運だったね。あれ、でもそれで生きてる……んだよね? ってことは幸運だったとも言えるかな」
「そうそう、たまたまそこにいた魔物の人に助けられたみたいで。相当な腕の人だったみたいで、それに憧れちゃって即更生ですよ。問題があるとすれば探索者になるって言い始めたことですけど。今頃は多分、近くの役所で初心者講習受けてますよ」
「そりゃいいね! カズ君の弟なら期待できそうじゃない。今度|《アウターズ》に連れてきたら?」
「あいつは喜ぶでしょうけど、最初から甘やかすとまた調子に乗りそうなんで。とりあえずどっかの迷宮の一階層を踏破できるようになるまでは、俺が教えますよ。で、悪くなさそうだなって思えたら連れてくかもしれないんで、その時は社長もみてやってくれると嬉しいです」
「オッケー、オッケー。うちの専務が言うことだからね。そりゃ受け入れるよ。コネ万歳だね!」
「……まぁ、それはともかくとして、今回はどうしたんですか? オークションがどうこうとかって言ってましたけど」
そろそろいいだろう、と一樹が本題について尋ねる。
今回、一樹を呼んだ目的だ。
電話ではオークションの延長で色々あって協会に行くことになったから付き添いに来てくれ、と言われていたが、詳細については会って話すの一点ばりだった。
剛太は頷いて言う。
「あぁ、それなんだけどさ。こないだオークションで魔武器が売ってるの見てね」
「魔武器って、本物ですか?」
迷宮系のネットオークションは偽物が少なくないと知っているからこその言葉だった。
「本物も本物だよ。楓ちゃんに見てもらったからねー」
「楓ちゃんってことは、魔剣ですかね?」
「そうそう。あの子の鑑定、万能鑑定なのに癖が酷いからねぇ。剣とか槍ばっかり見てるからそんなんになるんだよ」
「同じ鑑定で同じレベルでも範囲がずれてくるのは不思議ですよね」
「まだまだスキルは僕らには全然わかってないってことなんだろうね。ま、そのおかげで今回の魔剣はそうだとわかったんだけどさ、これをどうしても落として欲しいって聞かなくて」
「……えっ。ってことは、今回俺、楓ちゃんのわがままで呼ばれたんですか?」
「言いにくいんだけどね。楓ちゃん、どうも今日は用事があるっぽくて、他に暇そうなの君しかね……」
「……はぁ、まぁいいんですけどね。本当に暇だし。ちなみにいくらまで出すつもりですか?」
「楓ちゃんには結構負担かけちゃってるしねー。それに最近、新しい迷宮が多く発見されてきてるし、戦力増強も測りたいから、いっぱいまで頑張るつもり」
「山根さんに怒られますよ」
山根梅子は《アウターズ》の経理を一手に引き受けている女性だ。
財布の紐は恐ろしく硬い。
しかし剛太は言う。
「梅子ちゃんは払うべきものには気持ちよく払ってくれるから大丈夫」
「……それだけその魔剣が有用ってことですか?」
「うん。十層クラスだよ、あれ。僕の奴よりも強力」
「えっ……そんなことあるんですか!?」
なぜと言って、剛太の持つ魔剣は現在、日本最強の品だからだ。
それを超えるとなると、新しく迷宮から産出したとしか考えられない。
「あるんだよねぇ。これだから探索者稼業はやめられないよ。しかも最初五百円で売ってたんだよ? 爆笑ものだね」
「……買っておけばよかった」
「僕もそう思ったんだけど、実は出品はすぐ取り下げられちゃったんだ。だから今回、こうして出てくることになった。本人と交渉できるらしくてね」
「なるほど……直接取引の方がお金になると言う判断なのかな?」
「そういうわけでもないみたいなんだけど、まぁ、細かいところはいいでしょ。取引は今日これから、探索者協会新宿支部で行われるから、早速行こうか」
「分かりました」
そうして立ち上がり、店を出て、協会に向かって歩き出す。
山本一樹は駅前にあるコーヒーチェーンの中に入り、飲み物を注文してからキョロキョロと辺りを見回すと、目的の人物を発見した。
アイスコーヒーを退屈そうに飲みながら、スマホを弄っているその男性は、かなり浮世離れしていて、普通の勤め人であれば間違いなく会社に行っているだろう時間帯に、作務衣姿でバンダナを巻いている。
さらに顔を見れば妙に軽い形をしたサングラスをかけ、整えられた髭が生えているのも見える。
一体どんな職業なのか、ぱっと見では全く想像がつかない。
強いて言うなら、陶芸家か何かか、と言う感じだが、そういった職人が持っているような真面目さのようなものがまるで感じられなかった。
そんな彼は、一樹が視線を向けると同時にそれに気づいたようで、手を掲げて振ってきた。
笑顔だ。
笑うと思った以上に親しみやすい雰囲気になったが、そのことが余計に彼の不審人物感を強くする。
詐欺師か山師か、そんな感じだ。
けれど一樹は彼の正体をよく知っているので、特に警戒することなく、コーヒーを受け取ってそのまま彼の正面の席に座る。
すると作務衣の彼は早速と言った様子で、
「……いやー、悪いね。せっかく休暇中だったのに呼びつけちゃって」
と謝罪をしてきた。
これに一樹は首を横に振って、
「いえ、全然問題ないですよ、社長。兼ねてからの懸案事項がついこないだ片付いたもので、正直長期休暇はもういいんです。あ、でも定期的な休暇は普通にくださいよ」
「え? って言うと、弟さん更生したわけ? 意外だなぁ。だいぶ時間かかるものかと思ってたんだけど。一回グレると戻るのにどうしてもきっかけがいるからねぇ。兄貴にどうこう言われたくらいじゃ戻らないもんじゃん、普通」
「かつて十年ニートしてた人が言うと説得力がありますね……」
「ははは。僕の場合はそれこそ荒療治も荒療治だったからね。今じゃ、親父に感謝してるけど、フツー息子を迷宮に叩き込むかね? 死ぬじゃんね」
笑いながらそんな衝撃のセリフを言っているこの人物は、一樹の直属の上司であり、五大ギルドに数えられる探索者ギルド《アウターズ》の代表取締役社長、清野剛太《せいのごうた》だった。
「社長の親父さん、正直死んでもいいと思ってたんじゃあ……?」
「まぁ、そう言う可能性も少なからずあるよ。当時の僕って本当ただの穀潰しだったからねぇ……。さらに暴れるわ八つ当たりするわ金を奪うわのクズだよ。そりゃそうなるよ」
「社長、更生してよかったですね……」
「本当にね。今は親父ともお袋とも関係は良好さ。当時のこともしっかり謝ったしね。で、僕の方はともかく、カズ君の弟さんの方はどうして更生したの?」
「社長と似たようなもんですよ」
「……え、カズ君、弟さんを殺す気で迷宮に叩き込んだの……? 引くんだけど」
「流石にそんなことはしませんよ! じゃなくて、ですね。なんかコンビニで屯ってたところに突然|《はぐれ》が出現したみたいなんですよ」
「《はぐれ》!? へぇー、そりゃ、不運だったね。あれ、でもそれで生きてる……んだよね? ってことは幸運だったとも言えるかな」
「そうそう、たまたまそこにいた魔物の人に助けられたみたいで。相当な腕の人だったみたいで、それに憧れちゃって即更生ですよ。問題があるとすれば探索者になるって言い始めたことですけど。今頃は多分、近くの役所で初心者講習受けてますよ」
「そりゃいいね! カズ君の弟なら期待できそうじゃない。今度|《アウターズ》に連れてきたら?」
「あいつは喜ぶでしょうけど、最初から甘やかすとまた調子に乗りそうなんで。とりあえずどっかの迷宮の一階層を踏破できるようになるまでは、俺が教えますよ。で、悪くなさそうだなって思えたら連れてくかもしれないんで、その時は社長もみてやってくれると嬉しいです」
「オッケー、オッケー。うちの専務が言うことだからね。そりゃ受け入れるよ。コネ万歳だね!」
「……まぁ、それはともかくとして、今回はどうしたんですか? オークションがどうこうとかって言ってましたけど」
そろそろいいだろう、と一樹が本題について尋ねる。
今回、一樹を呼んだ目的だ。
電話ではオークションの延長で色々あって協会に行くことになったから付き添いに来てくれ、と言われていたが、詳細については会って話すの一点ばりだった。
剛太は頷いて言う。
「あぁ、それなんだけどさ。こないだオークションで魔武器が売ってるの見てね」
「魔武器って、本物ですか?」
迷宮系のネットオークションは偽物が少なくないと知っているからこその言葉だった。
「本物も本物だよ。楓ちゃんに見てもらったからねー」
「楓ちゃんってことは、魔剣ですかね?」
「そうそう。あの子の鑑定、万能鑑定なのに癖が酷いからねぇ。剣とか槍ばっかり見てるからそんなんになるんだよ」
「同じ鑑定で同じレベルでも範囲がずれてくるのは不思議ですよね」
「まだまだスキルは僕らには全然わかってないってことなんだろうね。ま、そのおかげで今回の魔剣はそうだとわかったんだけどさ、これをどうしても落として欲しいって聞かなくて」
「……えっ。ってことは、今回俺、楓ちゃんのわがままで呼ばれたんですか?」
「言いにくいんだけどね。楓ちゃん、どうも今日は用事があるっぽくて、他に暇そうなの君しかね……」
「……はぁ、まぁいいんですけどね。本当に暇だし。ちなみにいくらまで出すつもりですか?」
「楓ちゃんには結構負担かけちゃってるしねー。それに最近、新しい迷宮が多く発見されてきてるし、戦力増強も測りたいから、いっぱいまで頑張るつもり」
「山根さんに怒られますよ」
山根梅子は《アウターズ》の経理を一手に引き受けている女性だ。
財布の紐は恐ろしく硬い。
しかし剛太は言う。
「梅子ちゃんは払うべきものには気持ちよく払ってくれるから大丈夫」
「……それだけその魔剣が有用ってことですか?」
「うん。十層クラスだよ、あれ。僕の奴よりも強力」
「えっ……そんなことあるんですか!?」
なぜと言って、剛太の持つ魔剣は現在、日本最強の品だからだ。
それを超えるとなると、新しく迷宮から産出したとしか考えられない。
「あるんだよねぇ。これだから探索者稼業はやめられないよ。しかも最初五百円で売ってたんだよ? 爆笑ものだね」
「……買っておけばよかった」
「僕もそう思ったんだけど、実は出品はすぐ取り下げられちゃったんだ。だから今回、こうして出てくることになった。本人と交渉できるらしくてね」
「なるほど……直接取引の方がお金になると言う判断なのかな?」
「そういうわけでもないみたいなんだけど、まぁ、細かいところはいいでしょ。取引は今日これから、探索者協会新宿支部で行われるから、早速行こうか」
「分かりました」
そうして立ち上がり、店を出て、協会に向かって歩き出す。
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