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第25話 とあるギルドにて
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「……ですから、こっちはあの出品が取り下げられたことについて責任を求め……」
都内中心部に存在するとあるビル、その最上階フロアに位置する一室で、一人の青年が電話の向こう側にいるだろう人物にそう言った。
「……はい、はい。ははぁ……細かい事情については聞いてはいけない、と。やっぱり外務省が絡んでいたんじゃないですか。え? 違う? 本人と連絡をとった? それで?」
初めは険悪だったその口調に、少しの驚きと期待が加わる。
どうやら青年にとって、電話の相手の話はいいものだったようだ。
その表情は最終的には笑顔に変わっていた。
「なんだ、そう言うことなら早く言ってくださいよ、博さん。こっちはてっきり何か《処理》したのかと思って勘違いしてたじゃないですか。まさか交渉する権利を頂けるとは……はい、でも、条件が? 他のギルドも権利を……他は、《アウターズ》と《聖女の祈り》? あー、あいつらも目をつけてたんですか。まぁ、やっぱり見た目はアレでしたけど、十層クラスの魔武器ですもんね。分かりました。それは仕方がないと思います。でも、うちが必ず持っていきますけどね!」
相手には見えないだろうに、力を込めて電話を持っていない方の手を握りしめた青年。
そして最後に、
「では、場所と時間が決まり次第、連絡をいただけますとありがたいです。はい、はい……では失礼します」
ガチャリ、と受話器を置いて、青年はくるりと振り返った。
そこにはスーツ姿の若い女性が立っていた。
いわゆる姫カットと呼ばれる髪型をしていて、並の容姿では浮いてしまうように思うが、すらりとした身長と相まってなかなかに様になっている。
しかし、そんな彼女ですらも、対面に立っている今の今まで電話をしていた青年の前では見劣りがした。
具体的には、派手さの面で。
青年は派手だった。
髪の色は自然な日本人であればまず持たない、燃えるような赤髪であるし、それがワックスかパーマでもってライオンのたてがみのように広がっている。
耳にはピアスが三連、口にもいくつかついている上、手元を見れば指輪やアクセサリーがまず目に入る。
けれど服についてはまともで、ブラックスーツに革靴なのだ。
明らかに普通の職業者ではないことが一見してわかるが、じゃあ何かと言われると裏稼業なのだな、と誰もが思ってしまう格好であった。
そんな青年に向かって女性が言う。
「……恭司《きょうじ》さん……そんなにあの釘バットが欲しいんですか?」
岡倉恭司、それが赤髪の彼の名前だ。
しかし、その名前自体よりも有名なのは、彼の肩書きだった。
今や国内に星の数ほど存在する探索者ギルドであるが、その中でも五指に入るギルドのことを五大ギルドと呼ぶ。
恭司はそのうちの一つ《スーサイド・レミング》の総長であった。
通常はギルドマスターと呼ぶべきなのだが、彼は総長と言う肩書きにこだわる。
法律的には代表取締役社長になるから、どちらにしても通称になるのでいいだろう、という理屈だった。
「欲しいに決まってるだろうが。あんなにイカした魔剣、今後手に入る機会がやってくると思うか? 俺も十層には何度も潜ってるが、魔剣の形と言ったら大抵が普通のブロードソードとかだぜ? それを釘バットって……! 俺が手に入れないで誰が手に入れるんだ!」
拳を振り上げて叫ぶ恭司に、女性は呆れた顔で、
「ネタ装備好きもここに極まれりって感じですね。まぁ好きにすればいいと思いますけど。実際有用そうなのは間違い無いですし」
「如月《きさらぎ》、お前の《武具鑑定》で見ても、あれの宿してる魔力は俺の愛剣と変わらないってのは本当なんだよな?」
女性にそう尋ねた恭司。
如月桜花は彼女の名前であるが、恭司が下の名前を呼ぶことはほとんどない。
「変わらないんじゃありません。あの釘バットの方が強いんです。釘バットなのに……。だから私は疑っています」
「釘バットの存在をか?」
「いいえ、そうじゃありません。あの釘バットが迷宮産であることを、です」
「またその話かよ……誰かが作ったって? だがドワーフ連中はほぼ全員国が抑えてるだろうが。うちや他の五大ギルドにいる奴が作ったもんでもねぇしな。そもそも、ドワーフの奴らはあんなの多分作らねぇぜ」
「ええ、だからこそ、そういうスキルを持った誰かが生まれたのでは無いか、と」
この言葉には恭司も少し考える顔をする。
「まぁ、それは流石に否定は出来ねぇけどよ。見つかったら俺たちに情報が来るはずだろ。新人なら協会の方で定期的なスキルチェックは欠かせねぇしな」
「新人じゃなかったら?」
「それこそ考えにくいだろ。そんな有用なスキル身につけたら、とりあえず報告するに決まってるからな。まぁ、他のギルドが秘匿してるってのはないとは言えねぇけど……」
「まぁ……今の段階では確定は出来ませんね。ただ、今の電話を聞く限り釘バットを売り出した《本人》と交渉ができるんですよね?」
「……あぁ、なるほど。聞けばいいか」
「そういうことです」
都内中心部に存在するとあるビル、その最上階フロアに位置する一室で、一人の青年が電話の向こう側にいるだろう人物にそう言った。
「……はい、はい。ははぁ……細かい事情については聞いてはいけない、と。やっぱり外務省が絡んでいたんじゃないですか。え? 違う? 本人と連絡をとった? それで?」
初めは険悪だったその口調に、少しの驚きと期待が加わる。
どうやら青年にとって、電話の相手の話はいいものだったようだ。
その表情は最終的には笑顔に変わっていた。
「なんだ、そう言うことなら早く言ってくださいよ、博さん。こっちはてっきり何か《処理》したのかと思って勘違いしてたじゃないですか。まさか交渉する権利を頂けるとは……はい、でも、条件が? 他のギルドも権利を……他は、《アウターズ》と《聖女の祈り》? あー、あいつらも目をつけてたんですか。まぁ、やっぱり見た目はアレでしたけど、十層クラスの魔武器ですもんね。分かりました。それは仕方がないと思います。でも、うちが必ず持っていきますけどね!」
相手には見えないだろうに、力を込めて電話を持っていない方の手を握りしめた青年。
そして最後に、
「では、場所と時間が決まり次第、連絡をいただけますとありがたいです。はい、はい……では失礼します」
ガチャリ、と受話器を置いて、青年はくるりと振り返った。
そこにはスーツ姿の若い女性が立っていた。
いわゆる姫カットと呼ばれる髪型をしていて、並の容姿では浮いてしまうように思うが、すらりとした身長と相まってなかなかに様になっている。
しかし、そんな彼女ですらも、対面に立っている今の今まで電話をしていた青年の前では見劣りがした。
具体的には、派手さの面で。
青年は派手だった。
髪の色は自然な日本人であればまず持たない、燃えるような赤髪であるし、それがワックスかパーマでもってライオンのたてがみのように広がっている。
耳にはピアスが三連、口にもいくつかついている上、手元を見れば指輪やアクセサリーがまず目に入る。
けれど服についてはまともで、ブラックスーツに革靴なのだ。
明らかに普通の職業者ではないことが一見してわかるが、じゃあ何かと言われると裏稼業なのだな、と誰もが思ってしまう格好であった。
そんな青年に向かって女性が言う。
「……恭司《きょうじ》さん……そんなにあの釘バットが欲しいんですか?」
岡倉恭司、それが赤髪の彼の名前だ。
しかし、その名前自体よりも有名なのは、彼の肩書きだった。
今や国内に星の数ほど存在する探索者ギルドであるが、その中でも五指に入るギルドのことを五大ギルドと呼ぶ。
恭司はそのうちの一つ《スーサイド・レミング》の総長であった。
通常はギルドマスターと呼ぶべきなのだが、彼は総長と言う肩書きにこだわる。
法律的には代表取締役社長になるから、どちらにしても通称になるのでいいだろう、という理屈だった。
「欲しいに決まってるだろうが。あんなにイカした魔剣、今後手に入る機会がやってくると思うか? 俺も十層には何度も潜ってるが、魔剣の形と言ったら大抵が普通のブロードソードとかだぜ? それを釘バットって……! 俺が手に入れないで誰が手に入れるんだ!」
拳を振り上げて叫ぶ恭司に、女性は呆れた顔で、
「ネタ装備好きもここに極まれりって感じですね。まぁ好きにすればいいと思いますけど。実際有用そうなのは間違い無いですし」
「如月《きさらぎ》、お前の《武具鑑定》で見ても、あれの宿してる魔力は俺の愛剣と変わらないってのは本当なんだよな?」
女性にそう尋ねた恭司。
如月桜花は彼女の名前であるが、恭司が下の名前を呼ぶことはほとんどない。
「変わらないんじゃありません。あの釘バットの方が強いんです。釘バットなのに……。だから私は疑っています」
「釘バットの存在をか?」
「いいえ、そうじゃありません。あの釘バットが迷宮産であることを、です」
「またその話かよ……誰かが作ったって? だがドワーフ連中はほぼ全員国が抑えてるだろうが。うちや他の五大ギルドにいる奴が作ったもんでもねぇしな。そもそも、ドワーフの奴らはあんなの多分作らねぇぜ」
「ええ、だからこそ、そういうスキルを持った誰かが生まれたのでは無いか、と」
この言葉には恭司も少し考える顔をする。
「まぁ、それは流石に否定は出来ねぇけどよ。見つかったら俺たちに情報が来るはずだろ。新人なら協会の方で定期的なスキルチェックは欠かせねぇしな」
「新人じゃなかったら?」
「それこそ考えにくいだろ。そんな有用なスキル身につけたら、とりあえず報告するに決まってるからな。まぁ、他のギルドが秘匿してるってのはないとは言えねぇけど……」
「まぁ……今の段階では確定は出来ませんね。ただ、今の電話を聞く限り釘バットを売り出した《本人》と交渉ができるんですよね?」
「……あぁ、なるほど。聞けばいいか」
「そういうことです」
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