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第2章 ラクスマリア城とラクシャータ王女の剣
19話 感じる痛み、衝撃
しおりを挟むスキルにのって、俺は空間を駆ける。
[エリアスリーパー]とはそんなスキルで、瞬く間にはアルバートとの距離を詰めて、剣先が届く範囲までの瞬間的移動を可能にした。
すごいな、これ…
自身で発動したスキルなのに、まるで他人の凄みを見ているかのような気分だった。
もちろん気分だったってだけで、実際には俺なわけで、アルテマじゃなくて、俺なんだ。
『この力は誰のもんじゃない、俺のもんなんだ』
体の底から湧き上がる、そんな力。
そんな力を感じて、俺はアルバートへと剣を振るった。
斜めから勢いよく振るった袈裟斬り。
俺は初めて振るった剣にして、初めて刃を向けた瞬間だった。
恐怖はない。あるのはただただ驚愕。
自身の底知れない力に対する、純粋なる驚愕だったのだ。
「…すごいですよ、たけしっ!!」
アルバートは叫んで、くるりとは旋回しながらには俺の剣をいとも容易くは避ける。
その動きはあまりにも自然で、それでいて尋常ではなく、総じて人間の身体的限界をゆうに越えた自然動作。
以上を踏まえて、その動作を可能したものの正体もまたスキルということなのだろうことが見て伺えた。
「ああ…やはり命の駆け引きとはゾクゾクするものです…」
アルバートは恍惚そうな笑みを浮かべはそう言った。
薄気味悪い顔だ、素直にそう思った。
やはり人を殺めるという悪の所業とは、こんなに人を歪めてしまうのだろうか?
元々のアルバート・ジックレイという男を知らないだけに、初めからこんな感じの男だったのか、はたまたアルバートの人格を大きく変えてしまうような何かがあったのか、それは分からない。
ただ過去がどうであれ、今のアルバートは人の形をした化け物だった。人の命を食らい、そこに快楽を満たす悪鬼の姿。
戦意を無力化して捕らえる、というグインの言いつけを俺はもしかしたら破ってしまうかもしれない。
そんな甘い考えではアルバートには勝てない、そんな気がしてならなかった。
実力も、実戦経験も明らかに俺はアルバートに劣っている。唯一勝っているだろう思われる[スキル保有数]だが、うまく扱えているかも怪しい。
今は上手く扱えてるのかも分からず、ただ無作為にはスキルの試行を行なっているに過ぎない。
「どうしました?来ないのですか?」
アルバートはニヤリと口元を歪めて俺に挑発する。
ちくしょう、馬鹿にしやがって…今に見てろ。
『その気持ちの悪い笑顔をなくしてやる。苦悶の表情では命乞いさせてやる…』
そう決意して、俺は次の瞬間にもアルバートに向けて特攻を仕掛けた。
次に扱うスキルを思い浮かべながらには、足にスピードを乗せていく。
そうして頭の中にイメージを湧かせる。
---------------------------
【通常スキル】
・影分身
[概要]
自身の影の分身を発生させるスキル。影に実態はなく、物理的干渉は望めないが、相手を翻弄させることに長けている。分身の数はレベルによって比例する。
----------------------------
次に使うスキル[影分身]。
レベルは1だからあまり期待できないが、それでも試す価値は充分にある。
『いくぞ、アルバート…目に物を見せてやる!』
スキル発動、[影分身]。
スキルを発動した瞬間にも、俺の左右に1つずつの分身が生まれる。計2つの分身と俺で三体。
分身を発生させて、2つの分身を辺り一体に散らした。
どうやら分身は俺の意思通りに動くらしく、思いのままには命令できるようだ。
これらの分身に実態はないということだが、それでもどの俺が本体か分からなくさせる点には見込みがある。
『さぁ、どうするアルバート?』
次第に縮む距離。
縮まって、攻撃可能圏内に至ったーー次の瞬間にも、右横を先行していた分身の一体がアルバートの右脇腹に向けて勢いよく剣を振り抜いた。
剣により横一閃、実際に当たれば致命傷に繋がることは間違いない。
だからこそアルバートはその横一閃を防ぐ必要がある。
例えそれが実態のない俺の分身であろうなかろうと、その事を見抜けない以上は…
「…ふふ、面白い戦法ですが…残念、私には通用しませんよ?」
アルバート、不動。
もちろん俺の分身が放った横一閃とはアルバートの体をスルリと抜けて空を切った。分身の一体は俺の命令を完遂させて、そのまま淡く揺らめく煙のようにはユラユラと消失していく。
『何故バレた?』
分からない。
分からないが、今更どうこう考える余裕などないに等しいのが現状。
俺は残ったもう一体の分身と共に攻撃を仕掛けた。
攻撃のタイミングは同時期に合わせる。
分身は地面を蹴って大きく跳躍、そのままアルバートの頭上から一気に剣を振り降ろす動作を見せるように仕込んである。
俺は地上から、アルバートの正面から向かい出で立ち、そのまま喉元に向けて一直線の突きを繰り出す。
念には念を入れて、自身にスキルを上乗せ。
---------------------------
【通常スキル】
・隼の舞
[概要]
攻撃時、自身の攻撃モーションを倍加するスキル。倍加対象は物理攻撃のみ有効。その倍加率はレベルによって比例する。
----------------------------
要するに、今から俺が繰り出す剣の突きを一突きなら二突き、三突きなら六突きとなる、とのことだ。
今の俺には一回の突きが限界、そしてこれから使用する[隼の舞]のスキルレベルは4だから、合計すると……
うん、分かんね。
『とりあえずかなりスゲーってことで、いくぜ、アルバート…』
分身との連携攻撃。
頭上からは分身によるフェイクの攻撃、地上から実態の俺が放つ刺突、しかもスキル[隼の舞]の補正を加えた倍加の刺突だ。
防ぎきれる筈がない。
てかそうだったらマジで困る。
用いるスキルを存分に使用してんだ、これで勝てなきゃどう勝つんだよ?
分かんねーよそんなの。
だからさ、大人しく倒れてくれよアルバート。
倒れろマジで、潔く命乞いでもしろ。
と、突き出した剣に切なる願いこめた、そんな時。
「…ふふ、だから言ってるでしょう?通用しないって」
そう言って断言するアルバート。
断言して、アルバートは迷う事なく手に持った[アルバートの短剣]を正面に構えてーーー
「本体は地上にいるあなた…違いますか?」
「…ちっ!!」
どうしたバレんだよ!?
アルバートは頭上を無視して、真正面に対峙した俺の繰り出した刺突の連撃を軽々とは避けていく。
まただ、またあの動きだ。
先程俺の袈裟斬りを悠々とは避けた、あの常軌を逸脱した動き。
やはり、スキルか何かなのか?
「…今度は私の番、ですよ…ねッ!!」
[隼の舞]にて倍加した俺の刺突を全て回避して、アルバートは[アルバートの短剣]を俺の顔面に目掛けて振り抜いた。
「うわっ!!」
情けない声を上げて、俺は[アルバートの短剣]を避ける事に成功…というよりも、腰が抜けて、尻餅をついた拍子に偶然に避けれただけ。今のかなりやばかった。間一髪だった…
俺は即座に後ずさりすると、汗ばんで狂った手元を拭って剣を持ち直した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
息が荒い。呼吸が苦しい。
心臓が飛び出そうだ…
しかも頬が痛い、徐に手を頬に当てる。手を当てて、手には真っ赤な血がべっとりと付着していた。どうやら[アルバートの短剣]が頬を掠ったらしい。
鈍痛に疼く頬…くそっ、少し掠った程度なのにこんなにも痛ぇのかよ…
「ふふふ、まだまだ…楽しませて下さいよ、たけし…」
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