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楽園破壊編
歩み寄りました
しおりを挟む思い立ったが吉日──わたしは勇気を振り絞って、魔狼族の子供たちがつくテーブルへと向かった。
すると案の定、わたしの訪れに気付いたガンブが皆を庇うように立ちはだかってきた。
「なにか用か?」
険しい表情で睨みつけてくるガンブ。「ぐるるる……」と喉を鳴らして、今にも噛み付いてきそうな勢いだった。
怒っている顔も、やっぱり可愛い……はっ⁉︎ ダメだだめだ! しっかりするのよ、わたし!
わたしは、なるべく優しい笑顔を作りながら、
「みんな、お腹空いてるでしょう? だからほら、遠慮しなくて食べていいんだよ?」
「ふん、誰が口にするものか。俺たちは、絶対に食べない」
「どうして? 美味しいよ?」
と、わたしはテーブルの上に並んでいた大皿から、料理をひと摘み。それをひょいっと口の中へと放り込み──おう、やっぱりいつ食べても美味しい味付け。料理長、すっかり腕を上げたね。
あまりの美味しさに、わたしはしばし言葉を失い料理の味に舌鼓を打っていた。すると、先ほど料理を食べたそうにしていた子供の一人が、ヨダレを口からだらだらと流しながらわたしのことを見つめてきて──グゥ~……その子のお腹の虫が、鳴った。恥ずかしそうに、俯く肩を縮こませている。その姿は、すごく哀れに思えて仕方がなかった。
「ねぇガンブ、そう意固地にならないでさ、もういいじゃない。みんなが可哀想だよ」
「うるさい! 俺たちは、こんなもの欲しくなんかない!」
「じゃあ、言って。あなたたちの食べたい物。わたしが、つくってあげるからさ」
「つくる、だって? ……ふん、バカバカしい」
「嘘じゃないよ、本当だよ?」
ガンブは、フンと花を鳴らしながら言った。
「じゃあ、シイナの実だ」
「シイナの実?」
「そうだ。俺たちの故郷に生えていた、野生の木の実だ。ほらどうした、つくれるんだろ?」
ガンブは、どうやらわたしがハッタリをかましているのだろうとたかを括っているみたいだった。どうせつくれないだろうから無理難題を吹っかけてきた、そんな様子である。
「できないくせに、勝手なことばかりを言うな。この、嘘つきめ──」
「できるよ。シイナの実って、オレンジ色の皮で、中に甘酸っぱい実がたくさん詰まってる果物のことでしょ?」
わたしがそう言えば、ガンブは目を見開き驚いていた。
「お前が、どうしてシイナの実を、知っている……」
「だって、わたしの故郷にもたくさんなってたから。小さい頃、たくさん食べたもの」
わたしが生まれ育った故郷の村には、それはそれはたくさんの果実の木が植えられていた。なんでも、わたしのご先祖さまに世界を放浪している方がいて、世界各地の珍しい果物の種を持ち帰ってきたのだと、昔お婆ちゃんから聞いたことがある。シイナの実は、その内の一つだ。
でもそうか。あのシイナの実は、ガンブたちの故郷で実っていた果実だったのか……縁とは、つくづく不思議なものだ。
それにわたしも、なんだか久しぶりにシイナの実が食べたくなってきたな。実際につくったことはないけど、見た目や味などは、しっかりと記憶している。
「じゃあ、ちょっと見ててね」
わたしは翳した手のひらに、ゆっくりと魔力を込めていく。シイナの実のことだけを考える。あれがどういう形で、どういう味だったかを思い浮かべ──虹色の光が、わたしの手のひらに集約していく。
そして、
「はい、シイナの実。これで、あってるよね?」
わたしは、創造したシイナの実をガンブへと渡した。ガンブは驚き言葉を失っている様子で、そのシイナの実がをまじまじと見つめていた。
「どうして、シイナの実がここに……」
「創造魔法。これが、わたしの力なの」
「創造魔法? 聞いたことが、ない──」
と、ガンブがぶつぶつと呟き言った、次の瞬間だった。子供たちの一人が突然ガンブの手からシイナの実を奪い取ると、躊躇いもなく齧り付く。
「おい、なにやってんだッ⁉︎」
ガンブが慌てて止めようとするが、その子は一心不乱にシイナの実を食べ続けた。ゴクリと喉へと流し込み、
「……美味しい……美味しいよ……ガンブも、それにみんなも、食べてみなよ……これ、シイナの実だよ……もう二度と、食べられないと思ってたのに……」
「それ、どういうこと?」
わたしが尋ねると、その子は途端にバツな悪そうな顔を浮かべガンブの様子を伺っていたが、結局は話し出した。
「里も森も焼けちゃって、シイナの実は全部なくなっちゃったんだ。昔は、たくさんなってた。春になると、森の一面にシイナの実がなって、綺麗だった」
「そう、なんだ……大変だったんだね」
「……うん。だから、もう一度見れて嬉しいよ。お姉ちゃんは、とってもすごい魔法使いなんだね」
「え、わたしが?」
信じられずに聞き返すと、その子は「うん!」と瞳をキラキラと輝かせて力強く頷いた。
「食べ物を作れる魔法使いなんて、僕はじめて見たよ! すごいなぁ、お姉ちゃん」
「そ、そうかなぁ……」
冒険者たちには無能だって言われた創造魔法がこんな風に褒められるのは、なんだか素直に嬉しいな……もう少し、頑張ってみるか。
「ねぇ、他のみんなは、なにか食べたいものとか、欲しいものはないの?」
わたしは、子供たちを見回して尋ねてみる。どうせなら、みんなが喜びそうな物を作ってあげたかった。ガンブは、いつの間にかいなくなっていた。今なら、みんなが怒られることもないだろう。
「遠慮しなくていいんだよ。わたしにつくれるものだったら、なんだっていいよ」
と、わたしは手のひらにぽいぽいと様々な物を創造させた。それこそ、手品みたく。そんな様子に、子供たちは驚いているようだったが、頬を緩めて楽しそうに笑ってくれたり
やっぱり、子供は笑っているのが一番なのだ。子供の笑顔こそが平和の象徴だって昔誰かが言っていたけど、全くその通りだと思う。
「うわぁああああん! みんなが笑ってくれたよぉおおお!」
「「「ビルマ様⁉︎」」」
それから、子供たちを交えた宴は大いに盛り上がった。子供たちも少しずつ打ち解けてきて、「美味しい美味しい」と料理にも手をつけてくれた
また数日が過ぎて、わたしたちは手分けをして子供たちにディスガイアの暮らしについてを教えることに。島のいろんなところに連れて行ってあげたり、普段行っているお仕事(と言っても釣りとか採取とか大したことではないけど)を見てもらった。みんな、興味津々といった様子だった。
そんな、ある日のことだった。子供たちの一人が、こんなことを言った。
「楽園は、本当にあったんだ……里のみんなも、連れてきたかったなぁ」
しんみりと言ったその子には、かける言葉が見つからない。その胸に負った痛みがどれ程ものなのかも、理解してあげられない。
でも、だからこそ、彼らに寄り添ってあげたいと、わたしは心の底からそう思った。
それは、ガンブにしてもそうだった。
彼だけは、いつも一人。
決してわたしたちの呼びかけには応えず、ずっと一人で行動している。他の子たちも距離をとり始め、いよいよ孤立していたのだった。
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