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【星の聖女編】

16. 小公爵の決意

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* * * * * *



「ティーナ!!」


 息を切らして汗を垂らしながら神殿に到着したヴォルフガング。聖竜にくるまれて目を閉じるクリスティーナを目にし、すぐに駆け寄った。


「ティーナ! ティーナ、しっかりしてください!」


 呼吸はあるがピクリとも動かないクリスティーナを抱きかかえて、ヴォルフガングは顔色を悪くする。
 その様子を見たオルフェウスがヴォルフガングに声をかけた。


「大丈夫よ。気を失っているだけ」


 頭上から降ってきた声に我に返ったヴォルフガングがオルフェウスの顔を見上げる。


「聖竜オルフェウス……。無礼をお許しください。しかし今は……っ」

「わかっているわ。今はアタシの鱗の魔石で魔力を補給しているからティーナは大丈夫よ」


 そう言われたヴォルフガングは少しだけ安堵したように胸を撫で下ろした。そしてクリスティーナをしっかりと両腕で抱きしめて、オルフェウスに問う。


「聖竜オルフェウス、一体何があったのです?」


 オルフェウスは長い首を動かして背後に浮かぶ女神の星を見る。


「女神の星が破壊されそうになった」

「なんだって……!」

「外部からの攻撃で女神の星に亀裂が入ったの。そのせいでティーナが奉納した魔力が流れ出した。それを止めようとして魔法を使いすぎたのよ」


 オルフェウスから聞いた事実に、ヴォルフガンクは強く頭を打たれたような衝撃が走った。

(あれほど、無理をしてはダメだと……)


 クリスティーナの肩を強く抱いて、眠る彼女の顔を悔しそうに見つめるヴォルフガングにオルフェウスは話を続ける。
 


「美しい歌の魔法だったわ」

「歌……?」

「無詠唱でも魔法が発動できるアンタとは真逆ね」


 愉快そうに目を細めてオルフェウスはそう言った。


(あの時の魔法か……)

 たった一匹のリスを助けるために、誰にも知られてはいけない魔法を使っていた少女の横顔を思い出す。彼女には一体いくつの秘密があり、それをひとりで背負っているのかと思う。そして彼女を守りたいとも。



「さあ、公爵たちが到着したみたいよ。あとはアタシがアルフレッドとふたりで話をするわ。アンタはティーナを連れて帰りなさい」


 オルフェウスにそう言われたヴォルグファングは、クリスティーナを横抱きにして立ち上がり、そのままクリスティーナの額に口付けた。


「なに? アンタ、ガキンチョのくせに一丁前にティーナに惚れてるの?」

「もう二十七になります。あと、昔から私の心を読むのはやめてください」

「アタシからみたらガキンチョよ! それに心なんか読まなくたってアンタのその瞳を見れば誰だって分かるわよ」


 オルフェウスは尾を揺らしながらヴォルフガングにその大きな顔を近づけて言った。



「アタシ、ティーナのお菓子が好きなのよね。しっかりやらないと、アンタをシュネーハルト公爵とは認めないわよ!」


 マシューや母だけでなく、聖竜にも釘を刺されたヴォルフガングは、力強い金色の瞳をオルフェウスに向ける。



「……心得ております」




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