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02. ピアリステン帝国

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 四方をを魔国に囲まれた国、ピアリステン帝国。

 魔国の中にポツンと存在するその国は、何千年も前に異世界から転生してきたという勇者が建国した国だ。


 魔国にも人間は暮らしていたが、人間は角も牙も魔法も持たない存在と一部では蔑まれていた。
 
 いい? ここで大事なのは、一部では、ということ。

 ほとんどの人間は、魔族と共存して暮らしていた。



 そこに突然現れた異世界の勇者。名は……何と言ったか忘れてしまったわ。

 彼は、魔族や魔物は悪だと言って、人間こそ崇高なる神の子だと人間たちを焚き付けた。
 そして、魔族に不満を持っていた者たちが勇者と結託して国を乗っ取る戦争を始めてしまったのだ。


 人間側の軍勢は魔国軍の十分の一にも満たなかったが、結果は現在の通り、人間側の勝利だった。
 勇者の持っていた、シナリオとかいう何でもありな力で魔国軍を退け、魔国の中心を乗っ取ったのだ。


 そして、特に不満を持っていなかった人間までも引き連れ、ピアリステン帝国を建国した。


 初代勇者は帝国の周りに聖なる結界を張り、魔族や魔物が近づけないようにしたのだ。
 酷い話でしょう? 正当な理由なく反旗を翻して勝手に、ここは俺たちのものだって土地を支配したのだから。


 でも、そんなクソみたいな歴史も帝国では、魔族の支配から人間が独立した素晴らしい帝国史として語り継がれている。


 正直、脚色も甚だしいレベルよ。


 その後帝国では、異世界からの転生者という者たちが代替わりでやってくるようになった。
 彼らに共通するのは、シナリオという力を持っている事。転生者が女なら聖女、男なら勇者と呼ばれた。


 彼らは王族や力ある貴族と婚姻を結び、聖なる結界を維持している……らしいのだ。



 なぜ『らしい』かって? 
 だってそんなものは存在もしなければ、転生者共にそんな力はないからである。


 だって、よく考えたら分かるでしょう?
 こんなちっぽけな、帝国と呼ぶのも烏滸がましいような国、魔法を扱う魔族にかかれば一瞬で滅ぼすことができる。
 それなのに魔族は人間の自治権を認めて、干渉しないようにしている。


 建国から数千年もの間、人間と魔族の間に争いは起こっていない。それは、勇者や聖女がこの国を守っているからではなく、魔族が人間よりも理性的な生き物だったからだ。



 私が復讐を誓う半年前、先代の聖女が老衰により亡くなった。その後すぐに異世界人の召喚の儀が行われた。
 そこで召喚されたのが、ユリアだった。


 黒い髪に黒い瞳、顔は特別に整っているわけではなかったが、スキルの力なのか生まれ持った愛嬌なのか、彼女は瞬く間に周囲の男達を虜にしていった。

 その中には、私の婚約者だった公爵家の嫡男、私の実の弟である王太子、そして騎士団長の息子、宰相の息子、暗殺者……とまあよくもここまでたらし込んだものだと感心してしまう。
 一番驚いたのは私の父もあの女の手に堕ちていたということだ。私の父、つまりは皇帝。

 だけれどそんなものは正直どうでもよかった。男共があの女に尻尾を振ろうが勝手にしていればいいと思っていた。


 しかしその考えがいけなかったのだ。


 私は身に覚えのない罪であっという間に断罪され、皇族籍剥奪の上、死刑を言い渡された。

 正常な人間なら、誰が見ても茶番と分かるあの断罪劇をこれからお見せしようかしら。




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