スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪

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第7話「魔傑」

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 暗黒から解き放たれた視界に眩しい光が刺さる。
先ほどまで夜だったはずだ。
しかし、どういうわけか東から昇る太陽が俺を照らしていた。

うす目で景色を確認する。
すると眼前には大きく、底の見えない湖が広がっており、大木がいたるところに生えている。
岸には釣竿らしきものを垂らす少女が1人。

蒼く艶やかな髪に、
ポニーテールが時折吹く風にたなびいている。
肩を露出したシャツに、ホットパンツという格好をしている。
彼女は俺に気がつく様子はなく、
ひたすら竿と格闘しているようである。

「おっ!? むむむ......きたよきたよきたよ〜!!」

真っ白な竿が大きくしなる。
獲物は、少女を水中へ引き摺り込もうと必死だ。
腰を落とし、リールを慎重に巻いていく。
竿の動きと、水面に浮かび上がる黒い影を慎重に見つめる。
背びれが、水面から顔を出した。

「今だよ!!」

巨大な魚が、水しぶきとともに飛び上がった。
10メートルはあるだろうか。
タイミングは完璧。
魚の動きに合わせ、竿を頭の後ろまで思いっきり持ち上げる。
ドスンという音が地面を伝わる。

「いやぁ......粘ること14日! ようやく主を釣り上げられたよ〜! うん! 魚拓は無理そうだよ!」

嬉しそうに頭をかく少女。
あまりの規格外の大きさに、開いた口が塞がらない。

「わっ! 誰よ! 君!」

無意識のうちに声を出していたようだ。
だってしょうがないじゃん、あんなど迫力なもん見せられたらさ、
驚嘆の声も出ますわ。
俺は、怪しいものではないことを証明しようと、
とりあえず自己紹介をしてみる。

「俺は戸賀勇希......です。い、いやぁすごいっすね! あんな大物初めて見ましたわ! 感動した!」

「何者か知らないけどよ〜。まぁ、ありがとよー!」

「ラッパーかお前は」

少女はキョトンとした顔でこっちを見る。
いかん。
つい突っ込んでしまった。
ラルシエミラといた時のノリで言ってしまった......

第2ボタンの空いた隙間から、白銀にきらめく短冊を取り出す。
ラルエシミラ......
かばって死にやがった.......俺を殺したくせに......

「それ何よ? すっごく綺麗だよね〜!」

少女が覗き込んでくる。
やめてくれ、
免疫がないからドキッとしちゃうだろうが。
なんて、そんなことを言える気力はなかった。

「なんかお兄さん元気ないよね? もしかして、お腹空いてる?」

そういえば、なんだか腹が減ってきた。
死んでも腹は減るのか。
そもそも生きているのか、死んでいるのかはっきりしないが。

「うんうん。やっぱお腹空いてるっぽいよね! あのお魚食べながらお話しようよ!」

「え? アレをですか?」

見た目はマンボウそっくりで、正直うまそうには見えない。

「うん! アレよ! きっと美味しいよ!」
「お前は中華娘か」

とりあえず腹が減ってしょうがないので、いただくことにする。
焚き火がたかれ、
少女は手際よく身を切り分け、木の枝に刺す。
そいつをじっくり焼いているのだが、
皮の焦げる匂いがたまりません。
早く食いたくて辛抱たまらん......!

「まだ待っててよ〜」

見透かされた少女にたしなめられ、ぐっと我慢する。

「そうだ! まだ、あたしの名前、教えてあげてなかったよね? あたし、『マーレ・ボルトアンカー』だよ! よろしくね!」

こちらこそよろしく、と俺も挨拶する。
そういえば、聞きたいことが幾つかあるんだった。
チート勇者たちのこと、
現在地や世界の状況、
そして、ラルシエミラを元の戻す方法だ。

「なぁ、マーレ。ちょっと質問していいかな?」

「うん! いいよ〜。あたしが答えられる質問なら大歓迎だよ!」

マーレは無邪気な笑顔で答える。
さて、まずは現在地から聞こうか。

「ここはいったいどこなんだ?」

「ここ? ここは『シッタ・シッタ』って村だけど......トガはどこから来たの?」

どこからだって?
現世? 向こう側の世界? アンダーグラウンド?
そもそもアンダーグラウンドがよくわからん。
クッソ困った。
よし、適当なこと言ってごまかそう。

「あ〜、実はな! 名も無き秘境の、そのまた秘境からやってきたんだよ!」

「あー! だからそんな格好してるんだね! 正装見たいなものだよね?」

とりあえず信用はしてくれたようだ。
アホの子っぽくてよかった。
ふと、マーレの傍に置いてある釣竿に目が止まる。
もしかしてこれは、
魂の神器アルマ・アニマ』か?

「まぁ、そんなもんかな! ところでさ、その釣竿、『魂の神器アルマ・アニマ』ってやつだろ?」
「!!......魂のアルマ......神器アニマ......」
「そうそう! 奇遇だなぁ、俺も持ってるんだよ。ほら、これ」

懐から柄の赤いハンドスコップを取り出す。
お互い共通点があれば、仲良くなるきっかけになる。
なんかの本に書いてあったはずだ。
ナイスだぜ、俺。

「それ......本当に魂の神器アルマ・アニマかよ?」

低く、醒めた声で、マーレは指をさす。

「お、おう。こいつ全然使えないんだけどさ! でも大事なものなん......マーレ?」

急にマーレが立ち上がり、釣竿をこちらに向けて構える。

「あたしのは、魂の神器アルマ・アニマなんかじゃないよ......」

「『なんか』って......ちょっと......」

ビュンビュンと竿が音を立ててしなる。
左右に振り回し、まるで威嚇をしているように見えた。

「これは、『形見』なんだよ......そんなモノと一緒にするな......」

「いや、そんなモノって......ちょっとひどくない......」

空を切る音が言葉をかき消し、竿についた針は大木へ突き刺さる。

「貴様も奴らの一味か!! 何を奪いにきた!! これ以上、何を奪うというのか!!」

怒号が体を貫いた。
大木は地響きを立てて倒れる。
恐ろしいほどの力。
こいつ......釣竿1本で大木を引っ張り倒しやがった。

「殺してあげるよ......! 『テラ』、仇をとってあげるからね」

「待て! 何か勘違いをしてる! 俺は何も奪おうなんて......!」

竿が振られようとしたその刹那、
ここから遠くない場所から、断末魔のような叫び声が聞こえた。
マーレは声のする方向へ顔を向ける。

「『魔傑フリート』......!」

ギリギリと歯ぎしりを立てている。
魔傑?
たしか、ラルエシミラがそんなことを言っていた気がする。

「おい! 『魔傑フリート』って何なんだ!」

「......! 『魔傑フリート』を知らない? ふざけるなよ! 貴様らが生み出したモノだろう!」

「だから違うって! ちょっと落ち着けよ!」

マーレは舌打ちをし、俺を一瞥すると、
声のする方角へ走り出した。
よくわからんが、追いかけて行った方が良さそうだ。
それは、マーレが心配だったわけではない。
得体の知れない恐怖に、1人で耐えられる自信がなかったのだ。

スコップを握りしめると、マーレの背中を見失わぬよう、全力で追いかけた。
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