スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪

文字の大きさ
6 / 75

第6話「失敗」

しおりを挟む
  荒野の中心。お互い、相手の出方を窺っている。 

 「トガしゃん」

 え? 今、噛んだよね? こんな時に何で噛んじゃうのかしら? この娘は。
 緊張感ないなぁ! もう!

 コホン、と咳払いをするラルエシミラ。
 顔が赤いですよ。

 「相手に動く様子が見られないので、今のうちに、『十二単牡丹』の能力について説明します。よく聞いてください」
 
 神妙な面持ちに戻る。
 襟を掴む小さな手に、さらに力が入る。

 「十二単牡丹の能力は、触れた相手を『短冊』に変えてしまう『内包型コンプレンシオーネ』の力です。」

 「あの、七夕で願い事を書く紙か? あと、内包型ってなによ?」

 「トガさんの『魂の神器アルマ・アニマ』は、魂を物質に変換して使用する『現界型モンドアトアーレ』。対して、彼女の『魂の神器アルマ・アニマ』は、特殊な力を使用する際、魂を糧とする『内包型コンプレンシオーネ』です。しかも、彼女は『短冊』に書き込むことで......」

 「ちょっと長いわぁ」

 背後から、小鳥のさえずるような声。
 独特の緊張感に身は凍る。
 なぜだ。
 俺たちは一度も、十二単牡丹から目を離してはいないはずだ。
 一体、なぜ。

 「それに、そんなこと知らなくてもええんです。大人しく、ウチに使われなさいな」

 来る。
 直感的にそう判断するが、体は思うように動かない。
 まるで、夢の中で殺人鬼から逃げる時のような......
 足に力が入らない......
 ヤバい、殺られる。

 「逃げてください! トガさん!」
 
 身体は再び宙へ、地面すれすれを滑走する。
 先ほどと違うのは、首元が絞められる感触がないこと
 と
 ラルエシミラの声が、遠ざかって聞こえるということだ。

 「ラルエシミラ!!」

 とっさに、投げられた方向に目を向ける。
 しかし、そこには、豪壮な十二単の少女が1人。
 ヒラリと舞う白銀の紙。
 真紅の瞳が、俺を見ていた。

 「嘘だろ......」

 着地。
 地面を転がり、汚れ1つとして無かった学ランは、砂埃に塗れる。
 背中が痛い、強く打ったようだ。
 俺は武器があることを思い出す。戦わなければ......

 スコップを懐から取り出し、地面に深く突き立てる。
 死にたくない!
 そう念じながら、スコップを引き抜く。

 すると噴き出す、天に昇る水。
 しかし、その規模は小さく、公園の水道を最大に捻った程度だ。
 その水も、やがては静まる。
 俺の周囲にだけ、水たまりができていた。

 「なんだよ......クソしょうもねぇじゃんかよ......使えねぇ......情けねぇ......」

 「何なん? 今の。もしかして、それがお兄さんの『魂の神器アルマ・アニマ』なん?」

 追い打ちをかける十二単牡丹。いつの間にか、目の前に来ていたようだ。
 悔しい。
 俺の所為でラルエシミラを殺してしまった。
 許せない。
 こんな能力しか引き出せない俺を。

 「うーん。こんなもんなら、ウチの十二単の一部にするのはやめとこうかのぉ。見栄えが悪くなりそうやわ」

 何を言っているんだ、こいつ......

 「あぁ、ウチのコレな、全部『短冊』で出来とるんよ。ええでしょ?」

 よく見ると、様々な色の『短冊』が十二単を構成していた。
 それに、少しだけ足が浮いているように見える。

 「お兄さんは...うん、これでええわ。 はい、これ見える?心配せんでもええよ、痛みは一瞬や」

 目の前に文字が見える。
 これは......『爆弾』? 
 短冊に、『爆弾』の2文字が達筆に書かれている。
 おいおい、随分酷い殺し方してくれるじゃんかよ。

 「はい、さいなら〜」

 十二単牡丹の手から短冊が離れようとした、
 その刹那。
 空は、一瞬にして夜へ、太陽は月へと変わった。
 
 「お前......」

 十二単牡丹の手首は、何者かの手によって握られている。
 そいつは全身が黒く、さらにボロボロの黒いマントを羽織っている。
 瞳はパールのように白い。
 髭がうっすら生えている。
 片目には、長く伸びた黒髪がかかっていた。
 
 「さっきから見てたけどさぁ、牡丹ちゃん、やり過ぎじゃないかい? ラルエシミラちゃん、ヤられちゃってるしさぁ......」

 「手を離してくれへんか? エレボス」

 「いーやーだーよ!」

 エレボスという男は、十二単牡丹の手から短冊を奪い取る。
 それを口に放り込むと、ムシャムシャと食べてしまった。

 「ごっそさん! いや〜、マッズイなぁ! これ」
 「チッ!」

 十二単牡丹は、空いている方の手を伸ばす。
 気づいたエレボスは、紙一重でかわした。

 「あっぶねぇ! あ、放っておいてごめんな! 俺、『エレボス・サンダーホース』な! よろしく! まぁ、せっかく来たんだしさ、しばらくゆっくりしていけよ。お詫びに近くの村まで送ってやるからよ! へへっ」

 エレボスは爽やかに笑う。
 まるで、親戚のおじさんのような親しみやすさに、困惑してしまう。
 このおっさん、俺の味方なのか?

 「ほら、牡丹ちゃん、しっしっ! あっち行ってなさい!」

 「......」

 何か言いたげな顔の十二単牡丹は、短冊に何かを書くと、一瞬にして姿を消した。

 「さてと、じゃぁ、この世界の掟を教えてやろう! いいだろ?」

 人差し指を立てながら言うエレボス。

 「1つ、俺たちに逆らうな。以上! それ以外なら何しようと勝手だぞ。よかったな!」

 それだけ?
 俺はそう言いたげな目で見上げる。
 
 「あー、あと、これ。ごめんな」

 白銀に輝く短冊が手渡される。
 恐る恐る受け取り、よく観察する。
 本当に、これがラルエシミラなのか......?

 「村へ行ったら、仲間でも作っとくといい。1人だと寂しいだろう? ほら、こいつ、お前さんの」

 俺の魂の神器アルマ・アニマだ。
 使い物にならなかった、俺の......

 「とりあえず持っとけ! そんじゃ、送ってやるからよ。一瞬だけ暗くなるから、我慢してくれよ!」

 黒い布が被せられ、俺の意識は暗闇に溶けた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...