スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪

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第24話「助けるために」

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 揺らめく灯りに照らされた骸のような顔の影が二つ。そのくっきりとした濃淡は水墨画に似た趣を感じさせた。

「どうした。近うよれ」

骸等はそう言った。
しかし、それはどちらの言葉だったか。老夫か、老婦か。
わからない。俺の脳が考えることを放棄している。
シャム双生児のような、その奇怪な姿に対する畏怖的な感情故か、両の脚は岩と化し、この場から動く事が出来ない。
ひんやりとした空気が渦を巻いている。

「全く。しようのないやつじゃ。どれ」

骸等は、自前の骨と皮で仕上げた指揮棒をスッと振ってみせた。
すると俺は直立不動のまま、信じられない速さで前方に進み始める。
彼らとの距離は10メートルもない。
気がつけば、骸の顔は目と鼻の先にあった。

「うわっ」

俺はとっさに退き、余った勢いで尻餅をつく。

「『うわっ』とは何じゃ。人をまるで化け物みたいに扱いよって、不躾な男じゃ」

老夫の方が長く伸びた白ひげを弄りながら言う。
いや、化け物ですやん。
誰がどう見たって化け物ですけど。
と、言う度胸はさすがに持ち合わせてはいないので胸のタンスの一番下、その辺に奥深くしまっておく。

「あ、あんたが......アロウザール旧元帥か」

俺は震えた声で訊ねる。
骸等は互いに顔を見合わせると、

「お主か?」「お主が?」「お主は?」「お主も?」「お主と?」「我輩が?」

「「ガッハッハッハッハッハッハッ!! ——いかにも。我輩がアロウザール旧元帥である。しかとその目に焼き付けよ」」

と、豪快に言った。
よくわからないやりとりを見せられてあっけにとられる俺。
返答に困るとは、まさにこのことであった。
しばらく黙っていると、アロウザールは揃って苦虫を噛み潰したような顔になり、

「反応が薄いのぉ。やはりこのミテクレが悪いのかもしれん、待っとれ」

そう言うと、両の手で老夫の頭と老婦の頭をくっつけると、やがてそれらは一つの頭に融合した。
美青年だ。ウウェーブの軽くかかった長い白髪、彫りが深く整ったメリハリのある造形。一瞬にして、そこに美青年が現れた。

「これでいいだろう。さて、何用かな? 少年」

アロウザールは低く、官能的な声で言った。

「もう一つ聞いていいか」

「何かね」

「どうして、年齢が0歳なんだ」

俺は触れてはいけない地雷かと思い訊ねようか迷ったが、既に好奇心という名の劇毒に侵されてしまっていた。

「それは我輩が生まれた時から姿形が変わらぬから、そう呼ばれているのだろう。以上だ」

アロウザールは粛粛と言った。

結構適当だな、と思った。
俺は本人であるという確証を得ると、本題を切り出した。

「俺は戸賀勇希。あんたに頼みたいことがあって来た」

「ほう? 頼み、とは」

一拍置いてから、俺は愛の告白をするような気持ちで言う。

「お願いします! 俺に、勇者と同じ鍛錬をしてください」

「まあ大方、そんなことだろうと思っておったわ」

「え」

「まずはお主、『現界型』か、『内包型』か。どちらかね」

俺は『現界型』だと応え、するとどんな形かと問われたので、実際に取り出し、アロウザールに見せてやった。

「ほーう。これはこれは......。お主、これをどのように扱っておったのだ?」

「そりゃあ、刺したり引っこ抜いたりして」

「ふむ。では、能力の把握はしておるか?」

「あー、刺したところから液体が出てくる......とか?」

「よろしい。ふーむ......」

アロウザールは顎に手を当て、瞬きを忙しく数回したところで、

「まあ、半分正解だ。お主は己の能力に関して理解を深める必要があるな。おそらく、闇雲に力を振るっておったと言ったところか」

と、言った。

「うっ......」

「イメージだ。こいつで何をしたいか、標的が何で創られてあるか——知識とイメージ次第で力は大きく変わる——見よ」

アロウザールは硬い地面にスコップを突き刺した。ガッと岩を穿つ音がし、先端が埋もれた状態になっている。

「ちょ、アロウザールさん」

「騒ぐでない。よく見ておけ——」

ゆっくりとスコップを引き抜く。
すると、ドロドロの液体が流れ出てきた。
ほどなくして、細かな砂が勢いよく噴き出してきた。
アロウザールはコツコツと地面を叩き、

「こいつは砂、砂利、凝固剤を固めてできておる。我輩は焦点を絞り、『砂』を地から抜き取ったのだ」

「す、すげえ。そんなことができたのか」

「そうだ。お主は力を使いこなしてはおらん。己を知り、万物を識ることで真価を発揮できるといえよう」

俺は再び、懇切丁寧に頭を下げて頼み込む。

「お願いだ、力の使い方を教えてくれないか」

「お主次第だな。お主は、何か成し遂げたいことでもあるのか」

「俺は——」

握り拳を力一杯つくり、

「俺は、仲間の叶えられなかった夢を叶えてやる。そして、そいつをクソ女王の処から助け出す」

と、アロウザールの眼をしっかりと見て俺は言った。

「ククク......」

アロウザールは下を俯き身体を小刻みに震わせ、やがて、

「——ガッハッハッハッハッハッハッ!! よかろう! そのような理由であれば、我輩も一口乗らせてもらおう!」

と、またしても豪快に言い放った。

「お、教えてくれるのか」

「無論だ。しかし、条件が一つある」

条件。
その言葉を聞き、思わず眉間に力が入る。
どんな要求をされるのか。体の一部を差し出せ、命を捧げろ、血を寄越せ——
などなど、嫌なイメージが絶え間なく湧き上がる。

「——事が終わり次第、我輩を、ここから連れ出せ」

「......はい?」

「二度も言わせるな! 力の使い方を教えてやる。その見返りとして、お主が、我輩をこの常夜の世界から解きはなて」

俺は予想外の要求に鳩が豆鉄砲を食ったような気分だ。気が抜けて、尻餅をつく。
アロウザールは咳払いを一つすると、「約束だぞ」と言った。

「それで、どうすればいいんだ?」

急かすように言う俺。

「まずは3日に渡ってこの世界の知識を学ぶ。その後、4日間でお主自身の身体的力を高めるのだ、その方法は——」

アロウザールが人差し指を徐々に内側に曲げていく。
すると、俺の胸ポケットから銀色の短冊が飛び出してきた。
ヒラヒラと宙を漂い、俺の頭の上に着地した。

「動くな」

俺は動かしかけた腕をピタリと静止させる。

「そのまま動くな。鍛錬はもう、始まっておるぞ」

俺は胡座をかいた状態で、唐突に始まった鍛錬を成し遂げる決意を心の中でする。

(待っていろよ、パンパカーナ)

遠くの方で、パンパカーナが目を覚ました気がした。
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