スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪

文字の大きさ
70 / 75

第70話「光芒」

しおりを挟む
 双眸を通して見た景色——それは瓦礫の山だった。
木や岩、瓦などが自然の姿に還り、いびつな形になって辺り一面に散乱していた。
 積み上げられたそれらの隙間から、金色のシャチホコが顎のない格好で、メッキの剥がれた眼で恨めし気にこちらを見つめている。

 ——割れた紅い瞳が覗く。

 その目がなんだか怖くて、パンパカーナは目線をそらした。

 アーミラがまだカタチを保っている瓦を拾い上げてまじまじと見ている。
 エレボスは片膝をつき、暗澹たる表情で地面を凝視したまま、微動だにしない。
耳を澄まさなければ聞こえないような声で囁くように、

「レベッカ......ちくしょう、レベッカ......」

 と反復している。マキナが傍で彼の背を撫でている。
やがて、その囁きも幾人もの声声にかき消されてしまった。
振り向くと、野次馬が群れをなしていることがわかる。
皆警戒しているのか、見えないバリケードに阻まれているかのように、我々と一定の距離を維持したまま、口々に言葉を発している。

「人が急に現れたぞ」「なんだなんだ」「姫様はご無事なのか」「これはなんとひどい有様だ」

 その姫様——十二単牡丹はもう死んだのだ。彼女の魂を黄泉から連れ戻そうとここへ来たのに、
作戦の肝であるレベッカ・トラヴォルジェンテ・イモルタリータは彼奴に殺されてしまった。

 レベッカの顔が脳裏に焼き付いて離れない。

 彼奴の目的は建造物の破壊ではなく、八人の勇者の抹殺だと気付いた。
アーミラのいう通り、行き着く果ては世界の終末なのだろう。
世界を守護する者が消えればきっと、悪辣なる天使のような悪魔は、全生物の鏖殺をはじめる。

なんとしてでも阻止せねばならない。
パンパカーナは顎先に手を添えながら、残骸の山の頂を眺めているエニシに寄る。

「......エニシ」

「ん......。ああ、どうした、パンパカーナ」

 物思いに更けていたいたのだろうか、惚けた声音でエニシは訊いた。

「どうした。ぼうっとして」

「いんや。ちょいとな」

 再び、エニシは頂に目をやった。

「らしくないな」

「そうじゃのお。わしもそう思う」

「不安か」

「違うと言やあ嘘になるわな」

「そうか......。私も、不安だ」

「あののお、パンパカーナ」

 今度は、エニシはパンパカーナと向き合っていう。
 パンパカーナは彼に似つかわしくない毅然の態度にちょっと驚いた。

「ワシとお前さんの思っとる不安には齟齬があると思うで」

「というと?」

 パンパカーナは訊ねる。

「ワシは勇者たちの士気が下がることが不安——というよりは恐ろしい。
怨嗟を糧に情動のまま、彼らが好き勝手に力を振るうことが恐ろしい」

 エニシはキセルを口に咥えると、紫煙を燻らせた。

「まあ、あの人らは仲間の死を誰よりも経験してきたと思うし、取り乱すことはないと踏んでいたんじゃけど、
あの様子を見るに、今回のレベッカ姫の死はよほど堪えたようだ」
 
 パンパカーナはエレボスの方へ目をやる。
彼はおぼつかない足取りで、ようやく立ち上がったところだった。
マキナが彼の不安定な精神状態を気遣っているのか、しきりに話し掛けている。
彼女だって辛いだろうに。——パンパカーナは、マキナの献身的な行為に心から敬服した。

「しかし、このまま停滞しているわけには」

「そうだな。残る二人の勇者を、奴さんが殺してしまわないうちに助け出さんとな」

 そういうと、エニシは口の端をちょっと持ち上げて、いつもの勝気に笑う仕草を見せた。
 彼の言葉の機微を感じ取ったパンパカーナはやおら頷くと、

「ああ。エレボスに伝えてくる」

 といって、エレボスの方へ駆けて行った。

(エニシのやつ、無理して笑ってた。勇者の心配なんてきっと嘘。
本当は私と同じく、彼奴と戦うことをしっかり怖がっているじゃないか)

 パンパカーナは内心そう思いながら、煙草の匂いの混じった空気を深く吸い込んだ。

「エレボス!」

 パンパカーナの声に反応するエレボスの挙動は鈍重に感じられた。

「お前か。どうした」

 覇気のない声音でエレボスはいった。

「早く勇者を助けに行こう。時間がない」

「ああ、分かっている。いま『転移の黒衣』を出してやるから、待ってろ」

 エレボスは首元に巻いた黒いマントを解く。
 手に掴んだまましばし沈黙すると、傍にいるマキナに視線を投げた。

「やっぱり、お前も来るのか」

 憂い顔のエレボスは眉をひそめていう。

「行くに決まっているでしょ。アンタ一人に任せておける事じゃないの」

 腕を組み、眉根を寄せたマキナは憮然という。

「俺は、仲間を失いたくねえんだ」

「アタイだってそうさ。アンタが死ぬなんてゴメンだよ」

「......なあ、お願いだ。一人で、行かせてくれねえか」

 エレボスがそういった瞬間、マキナが平手打ちした音が周囲に響き渡った。
 彼女は激昂していた。肩をいからせ、鼻息を荒くさせていた。

「馬鹿いってんじゃないよ! アタイを魔人から助けてくれたとき、
アンタは『これは貸しだ。俺がピンチのときにでも返してくれ』といった——
その借りを、ここで返すよ。借りっぱなしで死なれたくないの」

 エレボスは赤くなった頬にそっと手を当てると、マントを強く握りしめた。

「......お前も俺も、本当に死ぬかもしれねえんだ」

「アンタのためなら、この命、惜しくはないさ」

「......そっか」

「そうよ」

 エレボスの口許が少し緩んだ。「ありがとう」といった。
 彼はパンパカーナたちに呼びかける。

「おい、お前ら! これから『神秘の国・リセリカ』へ飛ぶ。
もしあの女郎と交戦した場合、お前らを守りながら戦える自信はねえ。
命を賭して戦える覚悟のある奴だけ来い!」

「おう! あるに決まってんだろ」

 エニシが勇ましくいう。

「......大丈夫、最初から、アテにしてない」

 アーミラは嘲るようにいった。

「私たちは確固たる信念でここに立っている。甘く見ないでもらいたい」

 パンパカーナ凜とした表情で、屹然たる態度でいった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

処理中です...