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舞踏会前夜
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ところで、王子様が美青年なのには訳がある。もちろん童話に出てくるヒロインのお相手なのだから、見目のよい青年でなければならない。でも、主人公のシンデレラと違って王子役を公募することはほとんどない。
私たちの世界では一つのお話が大団円を迎えた後でも、正確には物語は終了しない。本当に物語が終わるのは、主人公が死ぬ時。なぜなら童話の最後は「こうして〇〇は幸せに暮らしましたとさ」とか「末永く幸せにくらしました」で〆られるからだ。
主人公が“幸せな一生”を終えると、やっと一つのお話が終わり、次の世代の物語に向けて準備が始まる。
王家を基準にいうと大体二世代から三世代で一つの「シンデレラ」の物語が催される感じだ。うっかりシンデレラが長生きすると、四世代に渡ってお話がない場合もある。物語が演じられる時代というのは、ある意味“お祭り”なのだ。
ともかく、そんな風に二世代から三世代くらいに一度、その世代で一番の美人を花嫁に迎え入れ続けた結果、王家は代々美貌の家系となった。
だからお話が催される時の王子は、そのままシンデレラのお相手に相応しい美少年だし、お話のない世代も総じて美形が揃っている。パレードの時の国王陛下も、ダンディーな髭をたくわえたイケオジだったっけ。
お話のある“お祭り”世代に王家で男の子が生まれなかった場合には王子役を公募するが、どちらにしろ美少年が選ばれるので、美少年王子と美少女シンデレラのカップルが出来上がるわけだ。
今の世代の国王ご夫妻には、丁度上手い具合に王子様が一人、しかもシンデレラのお相手にぴったりの美形。
この物語を読んでいるよい子達は、美しい挿し絵にさぞうっとりしていることだろう。
そんな私達世代の“お祭り”が、もうすぐ終ろうとしている。
人によっては生きている時代が一度もお祭りに重ならない人もいるのに、主人公達と同世代にお祭りがあってしかもその中心近くにいられる私は、他人から見ればだいぶ恵まれていることになるんだろうな。
前はそんな自分の状況を受け入れることが出来なかった。意地悪な義姉、というレッテルがいつもまとわりついてくるのも辛かった。
少し前までは、そんな自分の心のうちを誰にもわかってもらえないという、どこか拗ねた気分で心が占められていたが、ここ最近他の立場の人達と交流するうちに、考え方も変わっていった。
名無しの人達は名無しの人達で、それぞれ思うところはある。考えてみれば当たり前だ。
そしてそんな時、ふとこの間のシンデレラの声が蘇る。
「つまんな――い」
私は長い間シンデレラは幸せだと思ってきた。疑いもしなかった。
本当のところはどうなんだろう。妹はいつも楽しそうに笑っていて、辛そうな顔も悲しそうな顔も見たことがない。あ、怒った顔はよく見るっけ。
「シンデレラ、幸せなのかな……?」
気が付くと、声に出していた。頭を振ってその考えを追い出す。ついこの間ちゃんと確かめたことじゃないの。
「ねえ、シンデレラ」
「なに?」
「あなた、幸せ?」
「もちろん! お父様も、お母さまも、勿論お姉さまも、あと執事さんとメイドさん達も、皆大好き!」
なんの曇りもない花のような笑顔で「幸せだ」と答えたのだ。
それでも、時にふと不安になる。そんな時は祈らずにはいられない。神様のいない、この童話の世界だけど。
シンデレラがこの先も幸せでいられますように。王子様と幸せになれますように。
そうしていよいよ、舞踏会当日がやってきた。
私たちの世界では一つのお話が大団円を迎えた後でも、正確には物語は終了しない。本当に物語が終わるのは、主人公が死ぬ時。なぜなら童話の最後は「こうして〇〇は幸せに暮らしましたとさ」とか「末永く幸せにくらしました」で〆られるからだ。
主人公が“幸せな一生”を終えると、やっと一つのお話が終わり、次の世代の物語に向けて準備が始まる。
王家を基準にいうと大体二世代から三世代で一つの「シンデレラ」の物語が催される感じだ。うっかりシンデレラが長生きすると、四世代に渡ってお話がない場合もある。物語が演じられる時代というのは、ある意味“お祭り”なのだ。
ともかく、そんな風に二世代から三世代くらいに一度、その世代で一番の美人を花嫁に迎え入れ続けた結果、王家は代々美貌の家系となった。
だからお話が催される時の王子は、そのままシンデレラのお相手に相応しい美少年だし、お話のない世代も総じて美形が揃っている。パレードの時の国王陛下も、ダンディーな髭をたくわえたイケオジだったっけ。
お話のある“お祭り”世代に王家で男の子が生まれなかった場合には王子役を公募するが、どちらにしろ美少年が選ばれるので、美少年王子と美少女シンデレラのカップルが出来上がるわけだ。
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この物語を読んでいるよい子達は、美しい挿し絵にさぞうっとりしていることだろう。
そんな私達世代の“お祭り”が、もうすぐ終ろうとしている。
人によっては生きている時代が一度もお祭りに重ならない人もいるのに、主人公達と同世代にお祭りがあってしかもその中心近くにいられる私は、他人から見ればだいぶ恵まれていることになるんだろうな。
前はそんな自分の状況を受け入れることが出来なかった。意地悪な義姉、というレッテルがいつもまとわりついてくるのも辛かった。
少し前までは、そんな自分の心のうちを誰にもわかってもらえないという、どこか拗ねた気分で心が占められていたが、ここ最近他の立場の人達と交流するうちに、考え方も変わっていった。
名無しの人達は名無しの人達で、それぞれ思うところはある。考えてみれば当たり前だ。
そしてそんな時、ふとこの間のシンデレラの声が蘇る。
「つまんな――い」
私は長い間シンデレラは幸せだと思ってきた。疑いもしなかった。
本当のところはどうなんだろう。妹はいつも楽しそうに笑っていて、辛そうな顔も悲しそうな顔も見たことがない。あ、怒った顔はよく見るっけ。
「シンデレラ、幸せなのかな……?」
気が付くと、声に出していた。頭を振ってその考えを追い出す。ついこの間ちゃんと確かめたことじゃないの。
「ねえ、シンデレラ」
「なに?」
「あなた、幸せ?」
「もちろん! お父様も、お母さまも、勿論お姉さまも、あと執事さんとメイドさん達も、皆大好き!」
なんの曇りもない花のような笑顔で「幸せだ」と答えたのだ。
それでも、時にふと不安になる。そんな時は祈らずにはいられない。神様のいない、この童話の世界だけど。
シンデレラがこの先も幸せでいられますように。王子様と幸せになれますように。
そうしていよいよ、舞踏会当日がやってきた。
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