シンデレラのないしょ話 ~元祖悪役令嬢は王子様に報われない恋をする~

すえつむ はな

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王子様のジェラシー

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「そういえば、王子様」
「なんだい?」

 顔を王子様の正面に向ける。真っすぐに目を見て、真っすぐな気持ちを確かめたい。

「さっきシンデレラが現れた時、『こっちの方が可愛いな。この子に乗り換えたいな』なんて、思いませんでしたか? ……あ、私が傷つくとか考えないで下さいね。正直な気持ちを聞きたいんです」

 何度かパチパチと瞬いた王子様は、ちょっと面食らったような表情だ。
「え、そんなことが気になるの?」

「気になります!今までシンデレラを見て、見とれなかった人なんていません。私のことを『可愛い可愛い』って言っておいて、シンデレラを見た途端、シンデレラに夢中になる男達を見てきました」

「ふ――ん……君のことを可愛いって口説こうとした男がいるんだ……」
 すっと目を細めた王子様は、今まで見たことのない剣呑けんのんな表情を浮かべている。
 え……?ペロー狼や《混沌の森》の男達がピンチ……?

「口説かれたわけじゃないです。一般論的な意味で、お前も可愛いぞって言われただけで……」
「それなら……いいけど……」と口をとがらせる王子様。

 するとフック船長が「ははっ!」と笑い声を上げた。
「ジャボット嬢、王子様はやきもちを焼いているようだぞ」
 しかし王子様が冷たい目で一瞥いちべつすると、すぐに笑いをひっこめる。
「は――、優男やさおとこのくせにおっかない目でにらむなあ」とブツブツつぶやきながら。

「やきもち?」
「………まあ、認めざるを得ないな。僕より先に君に『可愛い』と言った男に、ジェラシーを感じたのは確かだ」

「……!……」

 王子様にやきもちを焼かれるなんて……!
 うれしい。すごくうれしい。うれしい……けど。

「本当に、口説かれたわけじゃないんです。私がシンデレラと自分を比較して卑下するから『そんなことないぞ』ってはげまされただけで」

 ここはちゃんと説明しなきゃ。やきもちなんて、焼く必要ないってことを。

「そうよ、卑下する必要なんてないわよ!」
 声を荒げるシンデレラを、フック船長が抑えた。
「気持ちはわかるが、お前は今口をはさむな」
「は――い」

 はねっかえりなシンデレラの手綱たづなを、上手く引いてくれているようだ。妹の上司として、頼れる人かも知れない。
 それより……

「さきほどの答えを聞かせて下さい。シンデレラを見て、どう思われましたか?」

「どう思ったか……そうだな」
 すぐに頭を切り替えた様子で、私の問いに答えてくれる。

「確かに、きれいな子だと思ったよ。すごく美人だと思った。うん、今も美人だなと思ってる。それに君の言う通り、性格もいいね。明るくてこう、スパッ!としてて。『竹を割ったような』性格。まさにその通りだ」

「それだけですか?」
「それだけ、とは?」

「私じゃなくて、シンデレラと結婚したいとは……思いませんでしたか?」
「いや、特にそうは考えなかったけど……そうだな……う――ん」

 そう言うと王子様は目を閉じて長考ちょうこうに入った。
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