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第一章 異世界でBL作家誕生
016 公爵令嬢は入学準備中
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学園ものの乙女ゲームは、大抵の場合、主人公が攻略対象たちと出会う場となる「学校」に入学するところからスタートする。
その学校は、高スペックな攻略対象と出会うのに相応しい貴族向けの学院であることが多く、「レジェンダリー・ローズ」もまた同様だ。
そしてまた主人公は、学院で唯一の平民というパターンも多い。
「レジェンダリー・ローズ」の主人公ミュリエルもまた、平民の少女が特別な能力を認められ、王立高等学院――通う学生がほとんど貴族ばかりの最高学府――に進学する設定となっている。
本人は王立の高等学院などに進学するつもりはなかったのだが、大司教と宰相に突然呼び出されて、進学を命じられたのだったと記憶する。
そこで慌てて勉強をしたところ、トップの成績で入学試験に受かったのだそうだ。
「つまり、優秀な方なんですね」
「そうね」
「それにしても、命令しておいて、入学試験を受けさせたのですか」
「まあ、形だけよ。他の貴族の子息や令嬢を納得させるためってところかしら。……よいしょ、と」
そんな会話をしながら、メリーローズはシルヴィアに抑えてもらいつつ、旅行用の大きなトランクを閉める。
「ふう、どうにか入ったわ」
二人は学院の寮に入るために、荷物をまとめているところである。
入学式は、もう来週に迫っていた。
ランズダウン家の邸宅は、高等学院と同様王都にあり、馬車で通おうと思えばできなくもない距離である。
しかしアスファルトではない石畳の道を、ゴムのタイヤがついていない馬車の車輪で長時間ゴトゴトと揺られるのは、自動車での移動の経験を記憶するメリーローズにとって、苦痛以外のなにものでもなかった。
「無理! 絶対無理! 片道一時間、往復で二時間? 毎日こんな揺れる乗り物にガタゴトガタゴト揺られたら、脳みそが崩れた豆腐になっちゃう!」
例によって「トーフ」というシルヴィアの知らない単語が出てきたが、言わんとすることは何となくわかったので、「お嬢様は高等学院に進学する際、学院の寮に入りたいと考えておられるようです」と、ランズダウン侯爵夫妻に報告した。
「高等学院は同じ王都の中だというのに、毎日メリーの顔を見られなくなるなど、なんと寂しいことだ……」
女王の懐刀であり、世間からはキレ者と評されているランズダウン公爵も、家ではただの親バカである。
「仕方ありませんわ。確かに毎日往復で二時間も馬車に揺られるのは、とても辛いですもの。あの子にそんな苦労を、させたくありませんわ」
妻であるジェラルディン公爵夫人に宥められ、渋々了承した。
「私たちの代わりに、メリーローズをどうぞよろしくね」
ジェラルディンから丁寧にお願いをされたシルヴィアは、深々と頭を下げる。
「勿論でございます。誠心誠意、身命を賭しまして、お嬢様をお守りいたします」
それを聞いた公爵は「相変わらず真面目だな」と苦笑したが、シルヴィアにとっては大袈裟なことではない。
何しろメリーローズは現在、一歩間違えれば処刑される危険を孕む仕事をしている。
高等学院の寮は家族の目が行き届きにくくなる分、例のキンバリー・ボイルと連絡をつけやすくなるが、同時にBL小説を発行すればするほど、危険性は高くなるのだ。
シルヴィアにしてみれば、身命を賭してメリーローズを守る、という言葉は、決して大袈裟ではない。
そんなシルヴィアの心配をよそに、キンバリーはちょくちょくメリーローズの小説が売れていると報告しに来て、「先生、どんどん書いてねえ」と発破をかけてくる。
そう言われると、メリーローズはメリーローズでさらに発奮するらしく、「アルたん萌え!」「アルたん萌え!」と妙な歌を歌いながら執筆に精を出す有様だ。
今日も今日とて、あまりに楽しそうにデスクに向かっているので、つい嫌味を言ってしまった。
「好きなことを好き勝手に書いているせいか、ペンがとまりませんね」
すると意外なことに、メリーローズは少ししんみりした顔で「そんなことないわ」と呟いた。
その学校は、高スペックな攻略対象と出会うのに相応しい貴族向けの学院であることが多く、「レジェンダリー・ローズ」もまた同様だ。
そしてまた主人公は、学院で唯一の平民というパターンも多い。
「レジェンダリー・ローズ」の主人公ミュリエルもまた、平民の少女が特別な能力を認められ、王立高等学院――通う学生がほとんど貴族ばかりの最高学府――に進学する設定となっている。
本人は王立の高等学院などに進学するつもりはなかったのだが、大司教と宰相に突然呼び出されて、進学を命じられたのだったと記憶する。
そこで慌てて勉強をしたところ、トップの成績で入学試験に受かったのだそうだ。
「つまり、優秀な方なんですね」
「そうね」
「それにしても、命令しておいて、入学試験を受けさせたのですか」
「まあ、形だけよ。他の貴族の子息や令嬢を納得させるためってところかしら。……よいしょ、と」
そんな会話をしながら、メリーローズはシルヴィアに抑えてもらいつつ、旅行用の大きなトランクを閉める。
「ふう、どうにか入ったわ」
二人は学院の寮に入るために、荷物をまとめているところである。
入学式は、もう来週に迫っていた。
ランズダウン家の邸宅は、高等学院と同様王都にあり、馬車で通おうと思えばできなくもない距離である。
しかしアスファルトではない石畳の道を、ゴムのタイヤがついていない馬車の車輪で長時間ゴトゴトと揺られるのは、自動車での移動の経験を記憶するメリーローズにとって、苦痛以外のなにものでもなかった。
「無理! 絶対無理! 片道一時間、往復で二時間? 毎日こんな揺れる乗り物にガタゴトガタゴト揺られたら、脳みそが崩れた豆腐になっちゃう!」
例によって「トーフ」というシルヴィアの知らない単語が出てきたが、言わんとすることは何となくわかったので、「お嬢様は高等学院に進学する際、学院の寮に入りたいと考えておられるようです」と、ランズダウン侯爵夫妻に報告した。
「高等学院は同じ王都の中だというのに、毎日メリーの顔を見られなくなるなど、なんと寂しいことだ……」
女王の懐刀であり、世間からはキレ者と評されているランズダウン公爵も、家ではただの親バカである。
「仕方ありませんわ。確かに毎日往復で二時間も馬車に揺られるのは、とても辛いですもの。あの子にそんな苦労を、させたくありませんわ」
妻であるジェラルディン公爵夫人に宥められ、渋々了承した。
「私たちの代わりに、メリーローズをどうぞよろしくね」
ジェラルディンから丁寧にお願いをされたシルヴィアは、深々と頭を下げる。
「勿論でございます。誠心誠意、身命を賭しまして、お嬢様をお守りいたします」
それを聞いた公爵は「相変わらず真面目だな」と苦笑したが、シルヴィアにとっては大袈裟なことではない。
何しろメリーローズは現在、一歩間違えれば処刑される危険を孕む仕事をしている。
高等学院の寮は家族の目が行き届きにくくなる分、例のキンバリー・ボイルと連絡をつけやすくなるが、同時にBL小説を発行すればするほど、危険性は高くなるのだ。
シルヴィアにしてみれば、身命を賭してメリーローズを守る、という言葉は、決して大袈裟ではない。
そんなシルヴィアの心配をよそに、キンバリーはちょくちょくメリーローズの小説が売れていると報告しに来て、「先生、どんどん書いてねえ」と発破をかけてくる。
そう言われると、メリーローズはメリーローズでさらに発奮するらしく、「アルたん萌え!」「アルたん萌え!」と妙な歌を歌いながら執筆に精を出す有様だ。
今日も今日とて、あまりに楽しそうにデスクに向かっているので、つい嫌味を言ってしまった。
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