39 / 404
第一章 異世界でBL作家誕生
019 公爵令嬢とメイド、決意を新たにする
しおりを挟む
シルヴィアがランズダウン邸に戻ってくると、メリーローズは落ち込みのあまり何日も寝込んでいるところだった。
メルヴィンからは「そっとしておいてくれ」と声を掛けられる。
「先日、庭でお茶会をした時、世にも不気味な声が聞こえてね。魔物の声じゃないかって大騒ぎになったんだが、そのせいであの通りとても怯えているんだ」
結局、聖堂から司教を呼んでお祓いをしてもらったものの、特に魔物の痕跡は見つからなかったのだという。
そこまでの説明で、シルヴィアはピンときていたが、そのまま何食わぬ顔で頷きながら話を聞いた。
(お茶会の席で、一体何を妄想したんだか……)
* * *
「お嬢様、シルヴィアです。ただいま戻りました」
ノックして部屋に入ると、なるほどメリーローズがベッドの中でぐずぐずしている。
「ううー、ジルヴィアー。わだぐじは情げない女、いえ魔物声の女ー」
「はいはい、おおよそのことはメルヴィン様から聞いて、わかっております。どうせお茶会だというのにBLのことを考えて、邪気を含んだ笑い声でも漏らしたのでしょう?」
「どうじで、何も言っでいないのにぞごまでわがるのー? やっばりジルヴィア、天才ー」
泣きながら抱き着いてくる主人の頭をよしよししながら、シルヴィアはミュリエルに関する報告を始めた。
「……というわけで、ミュリエル嬢に関する村人の評判は上々というところでございます」
「ふーん……」
実家から帰る途中、少し遠回りしてミュリエルの出身地という村(メリーローズが辛うじて覚えていた)に行き、「病気が長引いている祖母のために、奇跡を起こしたという噂の少女を訪ねてきました」という触れ込みで探し回ったのだ。
実のところ既にミュリエルとその一家が、入学式に参加するため王都に来ていることは、確認済である。
うっかり当人やその家族と、鉢合わせしたくなかったことがひとつ。
もうひとつは、第三者からの冷静な評価を集めたかったからだが、それにしても、ミュリエルのことを知る人々からは、判で押したように褒めそやす言葉ばかり出してきたのだった。
「あんな気立てのいい子はいない」とか、「家族思いで優しい娘」とか、「村の仕事も率先して働いてくれる」とか、そういった話ばかりが飛び出してくる。
最後に「彼女が起こした『奇跡』のことだったら、あの方が一番ご存じだよ」と紹介されたのが例の司教で、これまたミュリエルが幼い頃からの話を延々と聞かされてしまい、張りついた笑顔も強張って、顔が筋肉痛になったということである。
「少なくとも、村でのミュリエル嬢に不審な点はないかと」
そう報告を終わらせたシルヴィアに、メリーローズは考え込んだ。
「何か、気になることでも?」
「いえ、ありがとう。ご苦労様。……ただ、生まれてから十五、六年も同じ村に住んでいて、彼女のことを悪く言う人が一人もいないって、少し不自然じゃないかしら? と思ったのよ」
それが主人公補正によるものなのか、何か人心を操る力を持っているのか、外面がものすごくいいのか、はたまた本当に心がきれいなだけなのか。
「そういうものでしょうか?」
シルヴィアにしてみれば、計画的に、より正確で冷静な評価を求めて、家族以外の人間からの評価を聞いてまわったのだが、それでも全く誰からも悪評を聞くことはなかったのだ。
「ミュリエル嬢が、善人だという証拠だと思ったのですが……」
「では聞くけど、あなたはここに来る前、兄弟たちからどんな評価を受けていた?」
それを聞いた途端、シルヴィアの顔が軽く引きつった。
「あ、ごめんなさい! 嫌なことを思い出させて。……あなたの話から、きっと兄弟たちはあなたのことを悪く言っていたのではないかと思ったの。勿論、わたくしはそうは思わないわよ」
「……はい」
「私にとっては、あなたのお父上や兄弟の方が、余程イヤな奴に思えるわ。……ね? 考え方や相性で、他人からの評価なんて良くも悪くも変わると思わない?」
「なるほど」
シルヴィアにも、メリーローズの言わんとする意味がわかってきた。
メルヴィンからは「そっとしておいてくれ」と声を掛けられる。
「先日、庭でお茶会をした時、世にも不気味な声が聞こえてね。魔物の声じゃないかって大騒ぎになったんだが、そのせいであの通りとても怯えているんだ」
結局、聖堂から司教を呼んでお祓いをしてもらったものの、特に魔物の痕跡は見つからなかったのだという。
そこまでの説明で、シルヴィアはピンときていたが、そのまま何食わぬ顔で頷きながら話を聞いた。
(お茶会の席で、一体何を妄想したんだか……)
* * *
「お嬢様、シルヴィアです。ただいま戻りました」
ノックして部屋に入ると、なるほどメリーローズがベッドの中でぐずぐずしている。
「ううー、ジルヴィアー。わだぐじは情げない女、いえ魔物声の女ー」
「はいはい、おおよそのことはメルヴィン様から聞いて、わかっております。どうせお茶会だというのにBLのことを考えて、邪気を含んだ笑い声でも漏らしたのでしょう?」
「どうじで、何も言っでいないのにぞごまでわがるのー? やっばりジルヴィア、天才ー」
泣きながら抱き着いてくる主人の頭をよしよししながら、シルヴィアはミュリエルに関する報告を始めた。
「……というわけで、ミュリエル嬢に関する村人の評判は上々というところでございます」
「ふーん……」
実家から帰る途中、少し遠回りしてミュリエルの出身地という村(メリーローズが辛うじて覚えていた)に行き、「病気が長引いている祖母のために、奇跡を起こしたという噂の少女を訪ねてきました」という触れ込みで探し回ったのだ。
実のところ既にミュリエルとその一家が、入学式に参加するため王都に来ていることは、確認済である。
うっかり当人やその家族と、鉢合わせしたくなかったことがひとつ。
もうひとつは、第三者からの冷静な評価を集めたかったからだが、それにしても、ミュリエルのことを知る人々からは、判で押したように褒めそやす言葉ばかり出してきたのだった。
「あんな気立てのいい子はいない」とか、「家族思いで優しい娘」とか、「村の仕事も率先して働いてくれる」とか、そういった話ばかりが飛び出してくる。
最後に「彼女が起こした『奇跡』のことだったら、あの方が一番ご存じだよ」と紹介されたのが例の司教で、これまたミュリエルが幼い頃からの話を延々と聞かされてしまい、張りついた笑顔も強張って、顔が筋肉痛になったということである。
「少なくとも、村でのミュリエル嬢に不審な点はないかと」
そう報告を終わらせたシルヴィアに、メリーローズは考え込んだ。
「何か、気になることでも?」
「いえ、ありがとう。ご苦労様。……ただ、生まれてから十五、六年も同じ村に住んでいて、彼女のことを悪く言う人が一人もいないって、少し不自然じゃないかしら? と思ったのよ」
それが主人公補正によるものなのか、何か人心を操る力を持っているのか、外面がものすごくいいのか、はたまた本当に心がきれいなだけなのか。
「そういうものでしょうか?」
シルヴィアにしてみれば、計画的に、より正確で冷静な評価を求めて、家族以外の人間からの評価を聞いてまわったのだが、それでも全く誰からも悪評を聞くことはなかったのだ。
「ミュリエル嬢が、善人だという証拠だと思ったのですが……」
「では聞くけど、あなたはここに来る前、兄弟たちからどんな評価を受けていた?」
それを聞いた途端、シルヴィアの顔が軽く引きつった。
「あ、ごめんなさい! 嫌なことを思い出させて。……あなたの話から、きっと兄弟たちはあなたのことを悪く言っていたのではないかと思ったの。勿論、わたくしはそうは思わないわよ」
「……はい」
「私にとっては、あなたのお父上や兄弟の方が、余程イヤな奴に思えるわ。……ね? 考え方や相性で、他人からの評価なんて良くも悪くも変わると思わない?」
「なるほど」
シルヴィアにも、メリーローズの言わんとする意味がわかってきた。
3
あなたにおすすめの小説
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい
藤原遊
ファンタジー
悪役令嬢×婚約者の策略ラブコメディ!
「アイリス・ルクレール、その波乱の乙女ゲーム人生――」
社交界の華として名を馳せた公爵令嬢アイリスは、気がつくと自分が“乙女ゲーム”の悪役令嬢に転生していることに気づく。しかし破滅フラグなんて大した問題ではない。なぜなら――彼女には全力で溺愛してくれる最強の味方、「お父様」がいるのだから!
婚約者である王太子レオナードとともに、盗賊団の陰謀や宮廷の策略を華麗に乗り越える一方で、かつて傲慢だと思われた行動が実は周囲を守るためだったことが明らかに……?その冷静さと知恵に、王太子も惹かれていき、次第にアイリスを「婚約者以上の存在」として意識し始める。
しかし、アイリスにはまだ知らない事実が。前世で推しだった“お父様”が、実は娘の危機に備えて影で私兵を動かしていた――なんて話、聞いていませんけど!?
さらに、無邪気な辺境伯の従兄弟や王宮の騎士たちが彼女に振り回される日々が続く中、悪役令嬢としての名を返上し、「新たな人生」を掴むための物語が進んでいく。
「悪役令嬢の未来は破滅しかない」そんな言葉を真っ向から覆す、策略と愛の物語。痛快で心温まる新しい悪役令嬢ストーリーをお楽しみください。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる