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第二章 ゲーム開始
049 公爵令嬢、(一つだけ)夢破れて……
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他の人の三倍くらいの時間をかけてお祈りを終えたミュリエルを、早速フィルバートが揶揄っていた。
「お前、ずいぶん長かったじゃないか。そんなに精霊様に願いを叶えて欲しいことがたくさんあるのか?」
「私のお願いは、自分のことではありません!」
フィルバートの態度に、さすがのミュリエルも、少し頭にきているようだ。
「でもさ、結局のところ、その『奇跡のバラ』だっけか? それで何をお願いするつもりなんだ?」
「私は知りません。国の偉い方々がそうおっしゃるのだから、私はそれに応えたいだけです」
「いやでも、上の人間が言ったからって、お前がそんなに頑張る必要ないと思うぜ」
フィルバートは、次第に真剣にミュリエルを案じる表情に変わっていく。
「なんかさ、お前『奇跡をおこした』とか『奇跡のバラ』を咲かせるとか、平民の娘にしちゃ、ずいぶん重いものをおっ被せられてるんじゃないか?」
「……そうですね、正直、私にそんなことができるんだろうか? って、不安になることも多いです」
「逃げたいとか、思わないのか?」
その問いに、ミュリエルは考え込んだ。
「逃げるのは、結局できなかったってことがわかってからで、いいのではないかと思います」
「そんな、それじゃお前が追い詰められるだけだろうに」
「でも、私に期待している方がいらっしゃるなら、それに応えたいんです。だって、そういう方はきっと、今とても困っているんじゃないかと思いますから、私に助けることができるかも知れないなら、逃げずに頑張りたいんです」
そう真っ直ぐに答えるミュリエルを、フィルバートがじっと見つめる。
その目に、彼女の言葉に素直に感動している気持ちが表れており、しばしの沈黙の後、少しずつ自分の心の内を話し始めた。
「お前、偉いな。俺なんか、親父の期待に応えるのが辛くて、つい逃げたい、逃げたいって思っちまうのに」
「お父様の期待? エンフィールド商会の会長様の?」
「ああ、俺は親父が期待するような出来のいい息子じゃなくてさ、勉強にしろ何にしろ、全部親父の求める水準に達したことがないんだ」
その言葉にミュリエルが目を丸くする。
「え? 高等学院の生徒会メンバーなのに?」
「親父が望んでいるのは、学年一位だ。おれはせいぜい四位か五位だからな」
「それは、お父様の要求が高すぎます!」
ミュリエルの言葉を、メルヴィンが継いだ。
「その通りだな。フィルバート、お前は十分優秀だぞ。胸を張れ!」
何かというとすぐ拗ねやすいフィルバートが、少し前向きになった瞬間に立ち会い、メリーローズは少し感動していた。
先日のフェリクスの成長といい、青少年が今の自分の殻を脱ぎ捨て、変わろうとする姿は美しい。
うんうんと頷いていると、アデレイドが近づいてきて囁いた。
「フィルバート先輩とミュリエルさん、いい雰囲気ですね。カップル誕生かも知れませんね」
その指摘を受け、さきほどのミュリエルとフィルバートの会話と似たようなものが、フィルバートルートのイベントにあったことを思い出し愕然とした。
シチュエーションが、ゲームでは二人きりの校舎の裏だったのが、今は皆に囲まれた聖堂の中と、あまりに違っていたので気がつかなかったのだ。
(そ、そんな……アルたんの唯一の年下ダーリン候補が……)
ショックで眩暈を起こすメリーローズを、アルフレッドが支える。
「大丈夫かい? どこか具合でも?」
「だ、大丈夫ですわ(でも、アルたんのダーリン候補が、ううう……)」
メリーローズの嘆きの元は、アルフレッドにはわからない。
単に疲れたのだろうと判断され、皆にランチをとることを提案する。
他のメンバーが嬉しそうに賛成して盛り上がる中、メリーローズだけがまるで失恋したかのような気持ちで休日の午後を過ごすこととなった。
「お前、ずいぶん長かったじゃないか。そんなに精霊様に願いを叶えて欲しいことがたくさんあるのか?」
「私のお願いは、自分のことではありません!」
フィルバートの態度に、さすがのミュリエルも、少し頭にきているようだ。
「でもさ、結局のところ、その『奇跡のバラ』だっけか? それで何をお願いするつもりなんだ?」
「私は知りません。国の偉い方々がそうおっしゃるのだから、私はそれに応えたいだけです」
「いやでも、上の人間が言ったからって、お前がそんなに頑張る必要ないと思うぜ」
フィルバートは、次第に真剣にミュリエルを案じる表情に変わっていく。
「なんかさ、お前『奇跡をおこした』とか『奇跡のバラ』を咲かせるとか、平民の娘にしちゃ、ずいぶん重いものをおっ被せられてるんじゃないか?」
「……そうですね、正直、私にそんなことができるんだろうか? って、不安になることも多いです」
「逃げたいとか、思わないのか?」
その問いに、ミュリエルは考え込んだ。
「逃げるのは、結局できなかったってことがわかってからで、いいのではないかと思います」
「そんな、それじゃお前が追い詰められるだけだろうに」
「でも、私に期待している方がいらっしゃるなら、それに応えたいんです。だって、そういう方はきっと、今とても困っているんじゃないかと思いますから、私に助けることができるかも知れないなら、逃げずに頑張りたいんです」
そう真っ直ぐに答えるミュリエルを、フィルバートがじっと見つめる。
その目に、彼女の言葉に素直に感動している気持ちが表れており、しばしの沈黙の後、少しずつ自分の心の内を話し始めた。
「お前、偉いな。俺なんか、親父の期待に応えるのが辛くて、つい逃げたい、逃げたいって思っちまうのに」
「お父様の期待? エンフィールド商会の会長様の?」
「ああ、俺は親父が期待するような出来のいい息子じゃなくてさ、勉強にしろ何にしろ、全部親父の求める水準に達したことがないんだ」
その言葉にミュリエルが目を丸くする。
「え? 高等学院の生徒会メンバーなのに?」
「親父が望んでいるのは、学年一位だ。おれはせいぜい四位か五位だからな」
「それは、お父様の要求が高すぎます!」
ミュリエルの言葉を、メルヴィンが継いだ。
「その通りだな。フィルバート、お前は十分優秀だぞ。胸を張れ!」
何かというとすぐ拗ねやすいフィルバートが、少し前向きになった瞬間に立ち会い、メリーローズは少し感動していた。
先日のフェリクスの成長といい、青少年が今の自分の殻を脱ぎ捨て、変わろうとする姿は美しい。
うんうんと頷いていると、アデレイドが近づいてきて囁いた。
「フィルバート先輩とミュリエルさん、いい雰囲気ですね。カップル誕生かも知れませんね」
その指摘を受け、さきほどのミュリエルとフィルバートの会話と似たようなものが、フィルバートルートのイベントにあったことを思い出し愕然とした。
シチュエーションが、ゲームでは二人きりの校舎の裏だったのが、今は皆に囲まれた聖堂の中と、あまりに違っていたので気がつかなかったのだ。
(そ、そんな……アルたんの唯一の年下ダーリン候補が……)
ショックで眩暈を起こすメリーローズを、アルフレッドが支える。
「大丈夫かい? どこか具合でも?」
「だ、大丈夫ですわ(でも、アルたんのダーリン候補が、ううう……)」
メリーローズの嘆きの元は、アルフレッドにはわからない。
単に疲れたのだろうと判断され、皆にランチをとることを提案する。
他のメンバーが嬉しそうに賛成して盛り上がる中、メリーローズだけがまるで失恋したかのような気持ちで休日の午後を過ごすこととなった。
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