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第三章 BL小説の存在、世に知られる
110 公爵令嬢の仲間の危機
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こうしてメリーローズたちはすっかり危機的状況を脱したかのように思っていたが、実際にはそうは甘くなかった。
常々シルヴィアは、メリーローズが妄想するときに発するものを「邪気」と表現しているが、その「邪気」は人によって感じ方が違うらしい。
ゆうべはメリーローズの部屋でおしゃべりが盛り上がり、この六人の間では解禁されたBLも、当然話題になった。
話の内容に刺激され、メリーローズが自由に妄想の翼を広げると、ヘザーがくんくんと匂いを嗅ぎだす。
「どうかしたの?」
「はい。不思議なことに、時々メリーローズ様からいい匂いがするのです。バラの香りのような……」
(バラ?)
シルヴィアは首を傾げる。
今日は皆が来ることになっていたので、匂いがきつくなり過ぎないよう、湯あみのときもバラは使っていない。
一方「バラ」と聞いてメリーローズの頭に浮かぶのは、BLだ。
それだけで妄想の世界に羽ばたきたくなってしまう。その時……
「ほら、また!」
シルヴィアがメリーローズから邪気を感じたのと、ヘザーが声をあげたのは同時であった。
(……まさか?)
ヘザーは魔力を持っている。
シルヴィアのように魔力の使い方を教わらずにきてしまったので、自分の力に関してはあまり自覚が持てないようだが、もしかしたら彼女はメリーローズの邪気を「バラの香り」として感じているのかも知れない。
シルヴィアの立てた仮説は、ほぼ当たっていた。
* * *
そして、例の魔力持ちの男――アンガス・マロリー――もまた、学院の中にBLの気配を感じ取ることなる。
あの突然の雨の後、ロナルドとジョンが大司教の元から逃げたので、大司教はアンガス一人を連れて学長室に戻ってきた。
その途中、女子寮の近くを通ったとき、一行は雨を逃れようと走ってきた女子学生とぶつかりそうになる。
それは偶然にもBL本所持の件で、つい最近謹慎が解けたコリーン・ハーバートであった。
「きゃっ! すみません」
「気をつけなさい。賓客が来ておられるのだぞ」
学長に怒鳴られて、雨の中何度も頭を下げたあと、彼女は慌てて寮へと走っていった。
その後ろ姿を見ながら、そして女子寮の方を見ながら、アンガスがポツリとつぶやく。
「なんだか、『変な感じ』がする……」
* * *
「妙な雨でしたな。さきほどまで、あんなに晴れていたのに。……おい! タオルを持ってこい!」
部屋に戻った学長が手を叩くと、ヴァイオラが何枚かタオルをもって入ってきた。
「どうぞ、お使いくださいませ。猊下」
「ああ、ありがとう」
大司教がタオルを受け取ろうとヴァイオラに手を伸ばしたとき、アンガスが再び「変な感じがする……」と呟いた。
「どうしたね? アンガス」
「あ、えーっと……」
アンガスもまた、強い魔力を持つ者として、シルヴィアが言うところの邪気を感じ取っていた。
しかし彼はそれを言語化する能力が著しく低く、「変な感じ」としか言いようがない。
常々シルヴィアは、メリーローズが妄想するときに発するものを「邪気」と表現しているが、その「邪気」は人によって感じ方が違うらしい。
ゆうべはメリーローズの部屋でおしゃべりが盛り上がり、この六人の間では解禁されたBLも、当然話題になった。
話の内容に刺激され、メリーローズが自由に妄想の翼を広げると、ヘザーがくんくんと匂いを嗅ぎだす。
「どうかしたの?」
「はい。不思議なことに、時々メリーローズ様からいい匂いがするのです。バラの香りのような……」
(バラ?)
シルヴィアは首を傾げる。
今日は皆が来ることになっていたので、匂いがきつくなり過ぎないよう、湯あみのときもバラは使っていない。
一方「バラ」と聞いてメリーローズの頭に浮かぶのは、BLだ。
それだけで妄想の世界に羽ばたきたくなってしまう。その時……
「ほら、また!」
シルヴィアがメリーローズから邪気を感じたのと、ヘザーが声をあげたのは同時であった。
(……まさか?)
ヘザーは魔力を持っている。
シルヴィアのように魔力の使い方を教わらずにきてしまったので、自分の力に関してはあまり自覚が持てないようだが、もしかしたら彼女はメリーローズの邪気を「バラの香り」として感じているのかも知れない。
シルヴィアの立てた仮説は、ほぼ当たっていた。
* * *
そして、例の魔力持ちの男――アンガス・マロリー――もまた、学院の中にBLの気配を感じ取ることなる。
あの突然の雨の後、ロナルドとジョンが大司教の元から逃げたので、大司教はアンガス一人を連れて学長室に戻ってきた。
その途中、女子寮の近くを通ったとき、一行は雨を逃れようと走ってきた女子学生とぶつかりそうになる。
それは偶然にもBL本所持の件で、つい最近謹慎が解けたコリーン・ハーバートであった。
「きゃっ! すみません」
「気をつけなさい。賓客が来ておられるのだぞ」
学長に怒鳴られて、雨の中何度も頭を下げたあと、彼女は慌てて寮へと走っていった。
その後ろ姿を見ながら、そして女子寮の方を見ながら、アンガスがポツリとつぶやく。
「なんだか、『変な感じ』がする……」
* * *
「妙な雨でしたな。さきほどまで、あんなに晴れていたのに。……おい! タオルを持ってこい!」
部屋に戻った学長が手を叩くと、ヴァイオラが何枚かタオルをもって入ってきた。
「どうぞ、お使いくださいませ。猊下」
「ああ、ありがとう」
大司教がタオルを受け取ろうとヴァイオラに手を伸ばしたとき、アンガスが再び「変な感じがする……」と呟いた。
「どうしたね? アンガス」
「あ、えーっと……」
アンガスもまた、強い魔力を持つ者として、シルヴィアが言うところの邪気を感じ取っていた。
しかし彼はそれを言語化する能力が著しく低く、「変な感じ」としか言いようがない。
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