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最終章 BLよ、永遠なれ
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一方ランズダウン公爵邸にも、裁判所に向かう馬車が迎えに来ていた。
聖堂治安維持隊に軟禁されてから、外に出たのは何日ぶりか。
ランズダウン公爵は思い出そうとするが、もう何十年以上も経っているかのような感覚に陥る。
今公爵たちは、聖堂治安維持隊に手配された馬車に乗せられ、メリーローズの裁判の傍聴席へと連れていかれるところであった。
少なくともランズダウン公爵には、出席を拒否する権限は与えられていない。
「お前は、家で待っていてもいいのだぞ」
一緒に馬車に乗り込もうとする妻に、そう声を掛ける。
「いいえ。わたくしも参ります」
(普段はフワフワしている印象の女だが……)
公爵は妻の手を取り、馬車に乗り込むのを支えながら彼女の顔を見た。
(こうと決めたら梃子でも動こうといない。……メリーもジェラルディンに似たのか)
妻の方が肝が据わっているのかも知れない。
自分の方こそ、娘の判決や処刑に対し、何の覚悟も持てなかった。
ゆうべもそうだ。
宰相にして、長年の盟友キャスパー・ヒューストンが尋ねてきたときのことを思い返す……
* * *
「夜分に済まない」
「いや、来てくれてありがとう」
「単刀直入に言う。私が明日の裁判官に決まった」
「……えっ?」
ローデイル王国では、裁判官という専門職は存在しない。
裁判で判事を務めるための資格はあるが、その資格保持者が持ち回りで判事を務めることになっている。
ヒューストン宰相もまた、裁判官としての資格保持者であった。
「君が娘の裁判を受け持つとはな」
「リントンの嫌がらせだ。いや、ブロムリーかな」
ブロムリー公爵邸では、出来うる限りの慇懃な態度を取っていたヒューストン宰相だったが、今その仮面を完全に外していた。
「しかし、同じ判決内容になったとしても、他の者が言い渡すよりましだろうと思い、引き受けた」
「ヒューストン……」
ランズダウン公爵が応接室に招き入れようとしても、ヒューストン宰相は玄関ロビーから動こうとしない。
「ひとこと、『君の娘だからと言って、手心を加えることはしない』。そう、言いに来た」
「しかし……」
「なぜだ、ランズダウン。私は君の娘には期待していた。品行方正で誇り高く頭脳明晰、貴婦人の鑑とさえ言われていた彼女が、なぜこのようなことをしでかしたのだ。場合によっては、ヴィセント王太子殿下の妃にとも考えていたのに……」
「確かに、娘がみすみす禁忌に染まるのを止められなかった、親としての責任は痛感している。だが……」
「明日の裁判は、あまり期待しないで欲しい」
「待ってくれ! 話を聞いてくれ! あれにはあれの事情があったんだ! 実は、ぜ……前世? の記憶が蘇って……」
「わけのわからないことを私に言って、引き留めようとしないでくれ。では、失礼する」
それだけ言い放つと、ヒューストン宰相はランズダウン邸を辞去した。
* * *
聖堂治安維持隊に軟禁されてから、外に出たのは何日ぶりか。
ランズダウン公爵は思い出そうとするが、もう何十年以上も経っているかのような感覚に陥る。
今公爵たちは、聖堂治安維持隊に手配された馬車に乗せられ、メリーローズの裁判の傍聴席へと連れていかれるところであった。
少なくともランズダウン公爵には、出席を拒否する権限は与えられていない。
「お前は、家で待っていてもいいのだぞ」
一緒に馬車に乗り込もうとする妻に、そう声を掛ける。
「いいえ。わたくしも参ります」
(普段はフワフワしている印象の女だが……)
公爵は妻の手を取り、馬車に乗り込むのを支えながら彼女の顔を見た。
(こうと決めたら梃子でも動こうといない。……メリーもジェラルディンに似たのか)
妻の方が肝が据わっているのかも知れない。
自分の方こそ、娘の判決や処刑に対し、何の覚悟も持てなかった。
ゆうべもそうだ。
宰相にして、長年の盟友キャスパー・ヒューストンが尋ねてきたときのことを思い返す……
* * *
「夜分に済まない」
「いや、来てくれてありがとう」
「単刀直入に言う。私が明日の裁判官に決まった」
「……えっ?」
ローデイル王国では、裁判官という専門職は存在しない。
裁判で判事を務めるための資格はあるが、その資格保持者が持ち回りで判事を務めることになっている。
ヒューストン宰相もまた、裁判官としての資格保持者であった。
「君が娘の裁判を受け持つとはな」
「リントンの嫌がらせだ。いや、ブロムリーかな」
ブロムリー公爵邸では、出来うる限りの慇懃な態度を取っていたヒューストン宰相だったが、今その仮面を完全に外していた。
「しかし、同じ判決内容になったとしても、他の者が言い渡すよりましだろうと思い、引き受けた」
「ヒューストン……」
ランズダウン公爵が応接室に招き入れようとしても、ヒューストン宰相は玄関ロビーから動こうとしない。
「ひとこと、『君の娘だからと言って、手心を加えることはしない』。そう、言いに来た」
「しかし……」
「なぜだ、ランズダウン。私は君の娘には期待していた。品行方正で誇り高く頭脳明晰、貴婦人の鑑とさえ言われていた彼女が、なぜこのようなことをしでかしたのだ。場合によっては、ヴィセント王太子殿下の妃にとも考えていたのに……」
「確かに、娘がみすみす禁忌に染まるのを止められなかった、親としての責任は痛感している。だが……」
「明日の裁判は、あまり期待しないで欲しい」
「待ってくれ! 話を聞いてくれ! あれにはあれの事情があったんだ! 実は、ぜ……前世? の記憶が蘇って……」
「わけのわからないことを私に言って、引き留めようとしないでくれ。では、失礼する」
それだけ言い放つと、ヒューストン宰相はランズダウン邸を辞去した。
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