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最終章 BLよ、永遠なれ
173 公爵令嬢と、奇跡のバラの祝福
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「はい、なにごとですか」
女王が入り口を見ると、そこには王城の園芸管理官からの使者という男が立っていた。
「王城の庭師だな。こんなところまで、何用であるか?」
ベネディクト王婿の質問に、使者は敬礼をしながら答える。
「王城の『禁断の温室』にて、『奇跡のバラ』が開花いたしました。建国以来の慶事、まことにおめでとうございます」
その通り、大変めでたいことではあるが、「奇跡のバラ」については王室とその側近のみの秘密であった。
バラの存在を知らない傍聴席の人々は、知らせを聞いても首を傾げるだけである。
高等学院の学生たちのほとんども同様だが、アルフレッドから話を聞いていた生徒会メンバーたちだけは大盛り上がりだった。
「ええっ! あの伝説のバラ?」
「奇跡のバラが、今咲くなんて、大精霊様のお導きかしら!」
「すごいですー!」
「アルフレッド、友人に秘密を洩らしていたな?」
ヴィンセント王太子にお叱りを受けたアルフレッドが、小さく舌を出す。
「申し訳ございません、兄上」
(やだ、アルたんったら、舌を出した。初めて見たわー! 可愛いー!)
滅多に見ることのないアルフレッドの「弟」の顔に興奮するメリーローズの後方で、一人の男が絶望していた。
(しまった! 最悪のタイミングだ! こんなはずでは……!)
ブロムリー公爵である。
ブロムリー公爵は大司教と示し合わせ、この裁判の判決が出た直後に「奇跡のバラ」開花の知らせが届くよう、図らっていた。
彼の思惑では、この裁判でランズダウンの娘が有罪判決を受け、場合によってはそのまま刑場に引きずり出されるはずだった。
長い間、王室補佐に携わってきたランズダウン家は没落し、代わりにブロムリー家がその任を受け継いだところで「奇跡のバラ」が咲く。
自分こそ大精霊の祝福を受けた男と、皆に印象づける予定だったのだ。
実は先ほど開花の知らせに来たのは、ブロムリーの息がかかった者であり、その演出のため、裁判が終わった頃合いで法廷に来るよう言いつけてあった。
しかし、ふたを開けてみると、裁判は『同性愛禁止法』が消滅という、予想もつかない形で終了し、ランズダウンの娘は晴れて無罪。
そこに「奇跡のバラ」開花の知らせが来てしまっては、思惑に反し大精霊がランズダウンを祝福する形に見えるだろう。
女王や宰相の様子を見るに、ランズダウンを再び王室補佐に呼び戻すつもりなのは間違いない。
がっくりと膝をついたブロムリー公爵の手に、優しく触れる者がいた。
愛娘のミルドレッドである。
「なにをそんなにがっかりしてるのよ、お父様。ブロムリー家としては別に立ち位置が悪くなったわけでなし、前と変わらないんだから、そーんなに落ち込まないでよね」
昨日まで父に逆らうことなど一度もなく、自分の意見を言ったこともない自慢の娘は、なぜか今や別人。
しかし改めて見回してみると、「奇跡のバラ」に反応しているのは、ごくわずかの人間しかいない。
結局、例のバラは大したものではなかったのだろうと、ブロムリー公爵は考え直した。
(『奇跡のバラ』の話など、大司教が持ってきたもの。あの男もなんだかんだと大騒ぎした挙げ句、何の役にも立たなかった)
「なにが大司教だ。なにが精霊教最高等学院始まって以来の秀才だ。ランズダウンの小娘ごときにしてやられおって、あの役立たず!」
その声はさして大きくはなく、ブロムリー公爵の近くにいた人間にだけ聞こえる程度のものだった。
ブロムリー公爵にとって不幸だったのは、その言葉を聞いた者の中にアンガス・マロリーが含まれていたことである。
「……今、なんと言った?」
女王が入り口を見ると、そこには王城の園芸管理官からの使者という男が立っていた。
「王城の庭師だな。こんなところまで、何用であるか?」
ベネディクト王婿の質問に、使者は敬礼をしながら答える。
「王城の『禁断の温室』にて、『奇跡のバラ』が開花いたしました。建国以来の慶事、まことにおめでとうございます」
その通り、大変めでたいことではあるが、「奇跡のバラ」については王室とその側近のみの秘密であった。
バラの存在を知らない傍聴席の人々は、知らせを聞いても首を傾げるだけである。
高等学院の学生たちのほとんども同様だが、アルフレッドから話を聞いていた生徒会メンバーたちだけは大盛り上がりだった。
「ええっ! あの伝説のバラ?」
「奇跡のバラが、今咲くなんて、大精霊様のお導きかしら!」
「すごいですー!」
「アルフレッド、友人に秘密を洩らしていたな?」
ヴィンセント王太子にお叱りを受けたアルフレッドが、小さく舌を出す。
「申し訳ございません、兄上」
(やだ、アルたんったら、舌を出した。初めて見たわー! 可愛いー!)
滅多に見ることのないアルフレッドの「弟」の顔に興奮するメリーローズの後方で、一人の男が絶望していた。
(しまった! 最悪のタイミングだ! こんなはずでは……!)
ブロムリー公爵である。
ブロムリー公爵は大司教と示し合わせ、この裁判の判決が出た直後に「奇跡のバラ」開花の知らせが届くよう、図らっていた。
彼の思惑では、この裁判でランズダウンの娘が有罪判決を受け、場合によってはそのまま刑場に引きずり出されるはずだった。
長い間、王室補佐に携わってきたランズダウン家は没落し、代わりにブロムリー家がその任を受け継いだところで「奇跡のバラ」が咲く。
自分こそ大精霊の祝福を受けた男と、皆に印象づける予定だったのだ。
実は先ほど開花の知らせに来たのは、ブロムリーの息がかかった者であり、その演出のため、裁判が終わった頃合いで法廷に来るよう言いつけてあった。
しかし、ふたを開けてみると、裁判は『同性愛禁止法』が消滅という、予想もつかない形で終了し、ランズダウンの娘は晴れて無罪。
そこに「奇跡のバラ」開花の知らせが来てしまっては、思惑に反し大精霊がランズダウンを祝福する形に見えるだろう。
女王や宰相の様子を見るに、ランズダウンを再び王室補佐に呼び戻すつもりなのは間違いない。
がっくりと膝をついたブロムリー公爵の手に、優しく触れる者がいた。
愛娘のミルドレッドである。
「なにをそんなにがっかりしてるのよ、お父様。ブロムリー家としては別に立ち位置が悪くなったわけでなし、前と変わらないんだから、そーんなに落ち込まないでよね」
昨日まで父に逆らうことなど一度もなく、自分の意見を言ったこともない自慢の娘は、なぜか今や別人。
しかし改めて見回してみると、「奇跡のバラ」に反応しているのは、ごくわずかの人間しかいない。
結局、例のバラは大したものではなかったのだろうと、ブロムリー公爵は考え直した。
(『奇跡のバラ』の話など、大司教が持ってきたもの。あの男もなんだかんだと大騒ぎした挙げ句、何の役にも立たなかった)
「なにが大司教だ。なにが精霊教最高等学院始まって以来の秀才だ。ランズダウンの小娘ごときにしてやられおって、あの役立たず!」
その声はさして大きくはなく、ブロムリー公爵の近くにいた人間にだけ聞こえる程度のものだった。
ブロムリー公爵にとって不幸だったのは、その言葉を聞いた者の中にアンガス・マロリーが含まれていたことである。
「……今、なんと言った?」
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