6 / 22
限られたある世界と現実
子ども×人格×泣く
しおりを挟む
泣いている子どもがいた。どうして泣くのか。ただ近しいものが死んだだけではないか。そなたにとって、そこに伏しているものは大切だったのか? そんなはずなかろう。そなたは、なぜ、どうして、なんで、泣く?
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
何度も何度も謝る子どもがいた。子どもの傍には、人だったであろう残骸。ドロドロでぐしゃぐしゃ。血に塗れている。地に流れ出した赤色は、子どもを中心に広がっていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。おとーさん、おかーさん、みんな、みんな……。ごめんなさい、悪い子でごめんなさい」
子どもの全身が赤に染まっている。髪の毛から足まで、赤が飛び散っていた。何色だったのかはわからない。子どもの着ている服は赤のような、黒のような色をしていた。
「ああ、僕はまた悪いことをしてしまった。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。悪い子でごめん……ごめん……ね?」
泣き出しそうな表情だった。子どもの真っ赤な手が真っ赤なものに手を伸ばしていた。その真っ赤なものに子どもが触れることはなかったが……。
今にも泣き出してしまいそうな子どもの表情は変わった。一瞬にして、歪んだ笑みを浮かべる。まるで、大きな笑い声が聞こえてきそうだった。案の定、「あははははははははははははははは!!」と哄笑している。
「僕はやっと! やっと! この苦しみから解放されるんだ! 僕が僕を作り出してしまった。だから、元凶である君たちを、両親を、僕は……」
命が流れている。真っ赤な血が流れ出ている。もう元に戻ることはない。そうであるとしても、僕は満足だ。
彼らは僕をいじめていた。僕を虐げていた。僕は我慢した。誰にも相談できなくて、我慢して、我慢して、我慢して――。苦しみから逃れるために、新たな人格を形成してしまった。
普段は、大人しくて、オドオドしていて、人を傷つけるようなことはできない「僕」。一方で、荒々しく、ハキハキしていて、人を傷つけることをいとわない「僕」。前者は元からいた表の「僕」。後者は形成された裏の「僕」。裏の「僕」は、苦しみや憎しみ、恨み、悲しみ、怒りなどの負の感情でできた人格だ。
僕は僕に宿っていた負の感情を、全部全部余すことなく、彼らに伝えただけ。愚かなやつらに伝えただけ。もう届いてはいないけれど、もう届くことはないけれど、やめられない。もう一度、もう一度と手を伸ばしてしまいそうだ。ああ、もう傷つけるところなど残ってはいないと言うのに……。
僕はこんなことがしたかったんじゃない。苦痛から逃げたかっただけなんだ。それなのに、僕は闇にのまれた。自分自身が作ってしまった闇に。
――泣いた。一雫の涙が頰を濡らした。僕はみっともなく泣き叫びそうになった。だが、声は溢れてこなかった。泣き叫びたかったはずなのに、喉が詰まってしまったかのように声は出てこなかった。
血だまりに映る僕が嗤った気がした。これは幻覚だ。そうであるはずだ。もう一人の僕は出てきてないはずなんだ。
「ずっと眠ってればいいさ。僕が僕に変わってあげるから。辛いことは僕に任せればいい」
ふっと意識が途切れたような――。
――僕が僕に僕を任せたら最後。僕はもう二度と僕に僕を返さない。そうしたら、今までの主人格が表の「僕」だったのが、これからの主人格は裏の「僕」になるんだ。だって、僕は消えたくないもの。消えるんだったら、僕を作った僕が消えてくれ。
「消えたくない」。そんな泣き声が聞こえてくる。何度言われても表を渡す気はないよ。裏は表に溶けてしまえばいいんだ。ああ、「消えたくない」と鬱陶しくて叶わない。だから、早く消えてくれ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
何度も何度も謝る子どもがいた。子どもの傍には、人だったであろう残骸。ドロドロでぐしゃぐしゃ。血に塗れている。地に流れ出した赤色は、子どもを中心に広がっていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。おとーさん、おかーさん、みんな、みんな……。ごめんなさい、悪い子でごめんなさい」
子どもの全身が赤に染まっている。髪の毛から足まで、赤が飛び散っていた。何色だったのかはわからない。子どもの着ている服は赤のような、黒のような色をしていた。
「ああ、僕はまた悪いことをしてしまった。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。悪い子でごめん……ごめん……ね?」
泣き出しそうな表情だった。子どもの真っ赤な手が真っ赤なものに手を伸ばしていた。その真っ赤なものに子どもが触れることはなかったが……。
今にも泣き出してしまいそうな子どもの表情は変わった。一瞬にして、歪んだ笑みを浮かべる。まるで、大きな笑い声が聞こえてきそうだった。案の定、「あははははははははははははははは!!」と哄笑している。
「僕はやっと! やっと! この苦しみから解放されるんだ! 僕が僕を作り出してしまった。だから、元凶である君たちを、両親を、僕は……」
命が流れている。真っ赤な血が流れ出ている。もう元に戻ることはない。そうであるとしても、僕は満足だ。
彼らは僕をいじめていた。僕を虐げていた。僕は我慢した。誰にも相談できなくて、我慢して、我慢して、我慢して――。苦しみから逃れるために、新たな人格を形成してしまった。
普段は、大人しくて、オドオドしていて、人を傷つけるようなことはできない「僕」。一方で、荒々しく、ハキハキしていて、人を傷つけることをいとわない「僕」。前者は元からいた表の「僕」。後者は形成された裏の「僕」。裏の「僕」は、苦しみや憎しみ、恨み、悲しみ、怒りなどの負の感情でできた人格だ。
僕は僕に宿っていた負の感情を、全部全部余すことなく、彼らに伝えただけ。愚かなやつらに伝えただけ。もう届いてはいないけれど、もう届くことはないけれど、やめられない。もう一度、もう一度と手を伸ばしてしまいそうだ。ああ、もう傷つけるところなど残ってはいないと言うのに……。
僕はこんなことがしたかったんじゃない。苦痛から逃げたかっただけなんだ。それなのに、僕は闇にのまれた。自分自身が作ってしまった闇に。
――泣いた。一雫の涙が頰を濡らした。僕はみっともなく泣き叫びそうになった。だが、声は溢れてこなかった。泣き叫びたかったはずなのに、喉が詰まってしまったかのように声は出てこなかった。
血だまりに映る僕が嗤った気がした。これは幻覚だ。そうであるはずだ。もう一人の僕は出てきてないはずなんだ。
「ずっと眠ってればいいさ。僕が僕に変わってあげるから。辛いことは僕に任せればいい」
ふっと意識が途切れたような――。
――僕が僕に僕を任せたら最後。僕はもう二度と僕に僕を返さない。そうしたら、今までの主人格が表の「僕」だったのが、これからの主人格は裏の「僕」になるんだ。だって、僕は消えたくないもの。消えるんだったら、僕を作った僕が消えてくれ。
「消えたくない」。そんな泣き声が聞こえてくる。何度言われても表を渡す気はないよ。裏は表に溶けてしまえばいいんだ。ああ、「消えたくない」と鬱陶しくて叶わない。だから、早く消えてくれ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話
トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる