12 / 34
12話
しおりを挟む
愛姫は特別な血を持っていた。悪魔がその血を飲むことで大きな力を得ることができる。
その身に宿る血の力は、ドーピング剤のようなもの。しかし、その血の力を持つ存在は稀だ。千年に一度現れるか現れないかの逸材。だからこそ、彼女は狙われたのである。
悪魔の王、デレアスモスは再び言う。
「ねぇ、姫君。我と一緒にこないか? その男といるよりも姫君の復讐を早く達成できる」
まるで、彼と一緒に歩むことが当たり前であるかのように話される。
「愛姫って誰のことでしょうか? それに、お父様とお母様を殺した元凶である者に近づく気も一緒に行く気もありません」
貴方が地位の高いものであろうが、悪魔の王であろうが、どうでもいい。お父様とお母様、大切なものを幸せを破壊した貴方を許さない。その気持ちが、胸の内でくすぶっている。
復讐の相手を葬る協力者はいるのだから、その者を裏切る気はない。しかし、ユアは裏切る気がなくても、その者を裏切ってしまうことになる。なぜなら、その者を忘れてしまうことになるのだから。
デレアスモスは、ユアが自身の名前に大きな反応をしなかったことに眉を潜めた。
「そうか。名を奪われたか。余計なことを……」
名を奪われているという事実が気に入らない。誰よりも先に目をつけていたもの掻っ攫われた気分である。非常に不愉快だ。
突然、強風が吹く。そして、その風は鋭い刃になった。誰かを容易に傷つけることができる風の刃。きっと、それを作り出しているのはデレアスモスであろう。
自然に風が鋭い刃になるはずがない。彼が風を操っているとしか考えられないのである。
「格下の分際で、それを手に入れるということが気にくわない。姫君に流れる特別な血を飲んだお主ことも今まで姫君の傍にお主がいたことも、疎ましい。お主の何もかもが、存在そのものが鬱陶しくてかなわん」
デレアスモスは、言いたいことが終わると同時に風の刃をユアに向けた。
「ユア!!」
ユアのことを守るために、彼女の頭に手を添えて、彼女に覆いかぶさるように強く抱きしめた。そのため、彼の攻撃はセツによって防がれる。
彼はユアをセツが守ると分かっていた。だから、ユアに風の刃を向けた。姫君の傍にいる男を傷つけることができればいい。それだけを考えていたのだろう。
「くぅっ!!」
苦しそうにうめき声を上げたセツ。彼の思惑通り、セツは傷ついた。ユアはセツに守られたおかげでどこにも傷はない。
彼女には、何が起こったのかわからなかった。しかし、セツの腕から解放されたことで自分が守られたのだと知る。
風の刃を受け、セツの服は裂かれてボロボロになり、血は下にボタボタと落ちていく。彼女は、血を滴らせている彼をみて、小さな声を上げた。
「なんで――。セツ、どうして――」
彼が傷ついたのは、私のせいだ。守られた。彼の言う通り、私は足手纏いだ。
彼の言うことを守って大人しく屋敷にいれば良かった。彼女の目から透明な雫が落ちる。
「ユア、大丈夫だ」
ユアの頭を軽く撫でて、彼女を安心させる。そして、デレアスモスに向けて言葉を放つ。
「残念でしたね、悪魔の王。もう一度言います。ユアは俺のものです。さっさと、諦めてはいかがですか?」
傷つきながらもハキハキと物申す彼はなんと頼もしいことか。ユアはその彼の姿に、今自分が泣いては駄目だと思ったのだろう。
涙を拭い、倒れそうになった彼を支える。
「諦める? お主の形が残らないくらいに傷つけて、殺し、契約を壊せばいい」
それについて、対策はしてある。実際、悪魔の王である彼はルールを破っているのだ。
そのルールは後に説明しよう。
「本当に残念ですね。その場合は、彼女は俺と一緒に死ぬ運命です」
悪魔の王と呼ばれる彼は、その事実に目を見開く。そして、悔しそうに強く唇を噛んだ。少量の血が滴る。
『強い繋がりは生命さえも脅かす』
姫君の傍にいる男は果てしなく気に食わない奴だ。
その身に宿る血の力は、ドーピング剤のようなもの。しかし、その血の力を持つ存在は稀だ。千年に一度現れるか現れないかの逸材。だからこそ、彼女は狙われたのである。
悪魔の王、デレアスモスは再び言う。
「ねぇ、姫君。我と一緒にこないか? その男といるよりも姫君の復讐を早く達成できる」
まるで、彼と一緒に歩むことが当たり前であるかのように話される。
「愛姫って誰のことでしょうか? それに、お父様とお母様を殺した元凶である者に近づく気も一緒に行く気もありません」
貴方が地位の高いものであろうが、悪魔の王であろうが、どうでもいい。お父様とお母様、大切なものを幸せを破壊した貴方を許さない。その気持ちが、胸の内でくすぶっている。
復讐の相手を葬る協力者はいるのだから、その者を裏切る気はない。しかし、ユアは裏切る気がなくても、その者を裏切ってしまうことになる。なぜなら、その者を忘れてしまうことになるのだから。
デレアスモスは、ユアが自身の名前に大きな反応をしなかったことに眉を潜めた。
「そうか。名を奪われたか。余計なことを……」
名を奪われているという事実が気に入らない。誰よりも先に目をつけていたもの掻っ攫われた気分である。非常に不愉快だ。
突然、強風が吹く。そして、その風は鋭い刃になった。誰かを容易に傷つけることができる風の刃。きっと、それを作り出しているのはデレアスモスであろう。
自然に風が鋭い刃になるはずがない。彼が風を操っているとしか考えられないのである。
「格下の分際で、それを手に入れるということが気にくわない。姫君に流れる特別な血を飲んだお主ことも今まで姫君の傍にお主がいたことも、疎ましい。お主の何もかもが、存在そのものが鬱陶しくてかなわん」
デレアスモスは、言いたいことが終わると同時に風の刃をユアに向けた。
「ユア!!」
ユアのことを守るために、彼女の頭に手を添えて、彼女に覆いかぶさるように強く抱きしめた。そのため、彼の攻撃はセツによって防がれる。
彼はユアをセツが守ると分かっていた。だから、ユアに風の刃を向けた。姫君の傍にいる男を傷つけることができればいい。それだけを考えていたのだろう。
「くぅっ!!」
苦しそうにうめき声を上げたセツ。彼の思惑通り、セツは傷ついた。ユアはセツに守られたおかげでどこにも傷はない。
彼女には、何が起こったのかわからなかった。しかし、セツの腕から解放されたことで自分が守られたのだと知る。
風の刃を受け、セツの服は裂かれてボロボロになり、血は下にボタボタと落ちていく。彼女は、血を滴らせている彼をみて、小さな声を上げた。
「なんで――。セツ、どうして――」
彼が傷ついたのは、私のせいだ。守られた。彼の言う通り、私は足手纏いだ。
彼の言うことを守って大人しく屋敷にいれば良かった。彼女の目から透明な雫が落ちる。
「ユア、大丈夫だ」
ユアの頭を軽く撫でて、彼女を安心させる。そして、デレアスモスに向けて言葉を放つ。
「残念でしたね、悪魔の王。もう一度言います。ユアは俺のものです。さっさと、諦めてはいかがですか?」
傷つきながらもハキハキと物申す彼はなんと頼もしいことか。ユアはその彼の姿に、今自分が泣いては駄目だと思ったのだろう。
涙を拭い、倒れそうになった彼を支える。
「諦める? お主の形が残らないくらいに傷つけて、殺し、契約を壊せばいい」
それについて、対策はしてある。実際、悪魔の王である彼はルールを破っているのだ。
そのルールは後に説明しよう。
「本当に残念ですね。その場合は、彼女は俺と一緒に死ぬ運命です」
悪魔の王と呼ばれる彼は、その事実に目を見開く。そして、悔しそうに強く唇を噛んだ。少量の血が滴る。
『強い繋がりは生命さえも脅かす』
姫君の傍にいる男は果てしなく気に食わない奴だ。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる