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29話
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ボロボロの体。服はところどころ裂けており、流れた血で染まっていた。踏まれながらも睨みつける眼光は鋭い。そんな状態のデレアスモスを踏んでいるスピリトは、彼から足を引いた。
立ち上がるデレアスモスだが、フラッとよろけて地面に膝をつく。体を支えるほどの力が残っていないのだろう。
「我を殺すか……」
「はあ、殺すねぇ……」
殺したくても殺せない相手だ。もしこの男を殺せば、俺は生きて帰れない。
スピリトの邪魔をすることは敵に回すことだ。自分のやりたいことを妨害されるのを嫌うあいつ。邪魔をする者をいじめ倒して潰すということは実際にあったことだ。
スピリトの気分次第で相手を追い詰める方法の度合いが変わることはあるが、だいたいが瀕死の状態にされて最終的には細切れにされる。
気まぐれで残酷。俺がスピリトと友人になれたのは、なぜだかよくわからない。ただ気に入ったからだとあいつがいっていた。
気に入られていても切り捨てられる可能性は高い。俺は死ぬわけにはいかないから、あいつの意思に沿わないことをするつもりはない。
「残念だが、俺はお前を殺せないな」
「お主、なにをいってい――」
デレアスモスに近づき、胸ぐらを掴みあげた。少量の魔力を拳に纏わせる。俺は力を込めた拳でぶん殴った。
「うぐっっっ」
くぐもった声を発し、倒れ込んでいるデレアスモスを一瞥した。美人顔に俺の攻撃を 食らったので、顔面が悲惨な状態になっていた。顔が膨れ上がり、口からは血が出ている。
もっと殴ってやりたかった。だが、スピリトのせいでそれはできなくなる。
「デアちゃんの心臓もらっちゃった!」
嬉々とした表情を浮かべるスピリト。俺はそいつの下へ足を運びながら、言う。
「おい、お前何してるんだよ!」
「セツのやりたいことはもう終わったから、転移魔法でデアちゃんの心臓を抜き取っただけだよ? 怒らないでよ~」
突然、背後から大きな音がした。熱い風が届いてくる。そして、何かが焦げる匂い。振り返れば、燃えていくデレアスモスの体。
敵に容赦のないやつだ。俺が見たあいつの最後は、火に包まれていく姿だった。
心臓を取り除かれて生きているはずのないあいつの声を聞いた俺は可笑しいのだろうか。
「次こそは必ず、我が手に……」
俺がもう一度振り返ってみると、そこにあったのは灰だけだった。
次もお前には渡さない。お前は指を咥えて見ていればいいさ。悔しそうな表情を想像するだけでも気持ちいい。
俺は血を浴びているユアの下へ行き、彼女を抱き上げる。「えっ!?」と困惑する声が聞こえるが、無視した。そして、ハラハラと落ちていく雫は見なかったことにする。俺は黙ってユアの側にいればいい。
スピリトは、デレアスモスの脈打つ心臓を眺めながら、俺たちの先頭を歩いていた。
立ち上がるデレアスモスだが、フラッとよろけて地面に膝をつく。体を支えるほどの力が残っていないのだろう。
「我を殺すか……」
「はあ、殺すねぇ……」
殺したくても殺せない相手だ。もしこの男を殺せば、俺は生きて帰れない。
スピリトの邪魔をすることは敵に回すことだ。自分のやりたいことを妨害されるのを嫌うあいつ。邪魔をする者をいじめ倒して潰すということは実際にあったことだ。
スピリトの気分次第で相手を追い詰める方法の度合いが変わることはあるが、だいたいが瀕死の状態にされて最終的には細切れにされる。
気まぐれで残酷。俺がスピリトと友人になれたのは、なぜだかよくわからない。ただ気に入ったからだとあいつがいっていた。
気に入られていても切り捨てられる可能性は高い。俺は死ぬわけにはいかないから、あいつの意思に沿わないことをするつもりはない。
「残念だが、俺はお前を殺せないな」
「お主、なにをいってい――」
デレアスモスに近づき、胸ぐらを掴みあげた。少量の魔力を拳に纏わせる。俺は力を込めた拳でぶん殴った。
「うぐっっっ」
くぐもった声を発し、倒れ込んでいるデレアスモスを一瞥した。美人顔に俺の攻撃を 食らったので、顔面が悲惨な状態になっていた。顔が膨れ上がり、口からは血が出ている。
もっと殴ってやりたかった。だが、スピリトのせいでそれはできなくなる。
「デアちゃんの心臓もらっちゃった!」
嬉々とした表情を浮かべるスピリト。俺はそいつの下へ足を運びながら、言う。
「おい、お前何してるんだよ!」
「セツのやりたいことはもう終わったから、転移魔法でデアちゃんの心臓を抜き取っただけだよ? 怒らないでよ~」
突然、背後から大きな音がした。熱い風が届いてくる。そして、何かが焦げる匂い。振り返れば、燃えていくデレアスモスの体。
敵に容赦のないやつだ。俺が見たあいつの最後は、火に包まれていく姿だった。
心臓を取り除かれて生きているはずのないあいつの声を聞いた俺は可笑しいのだろうか。
「次こそは必ず、我が手に……」
俺がもう一度振り返ってみると、そこにあったのは灰だけだった。
次もお前には渡さない。お前は指を咥えて見ていればいいさ。悔しそうな表情を想像するだけでも気持ちいい。
俺は血を浴びているユアの下へ行き、彼女を抱き上げる。「えっ!?」と困惑する声が聞こえるが、無視した。そして、ハラハラと落ちていく雫は見なかったことにする。俺は黙ってユアの側にいればいい。
スピリトは、デレアスモスの脈打つ心臓を眺めながら、俺たちの先頭を歩いていた。
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