29 / 34
29話
しおりを挟む
ボロボロの体。服はところどころ裂けており、流れた血で染まっていた。踏まれながらも睨みつける眼光は鋭い。そんな状態のデレアスモスを踏んでいるスピリトは、彼から足を引いた。
立ち上がるデレアスモスだが、フラッとよろけて地面に膝をつく。体を支えるほどの力が残っていないのだろう。
「我を殺すか……」
「はあ、殺すねぇ……」
殺したくても殺せない相手だ。もしこの男を殺せば、俺は生きて帰れない。
スピリトの邪魔をすることは敵に回すことだ。自分のやりたいことを妨害されるのを嫌うあいつ。邪魔をする者をいじめ倒して潰すということは実際にあったことだ。
スピリトの気分次第で相手を追い詰める方法の度合いが変わることはあるが、だいたいが瀕死の状態にされて最終的には細切れにされる。
気まぐれで残酷。俺がスピリトと友人になれたのは、なぜだかよくわからない。ただ気に入ったからだとあいつがいっていた。
気に入られていても切り捨てられる可能性は高い。俺は死ぬわけにはいかないから、あいつの意思に沿わないことをするつもりはない。
「残念だが、俺はお前を殺せないな」
「お主、なにをいってい――」
デレアスモスに近づき、胸ぐらを掴みあげた。少量の魔力を拳に纏わせる。俺は力を込めた拳でぶん殴った。
「うぐっっっ」
くぐもった声を発し、倒れ込んでいるデレアスモスを一瞥した。美人顔に俺の攻撃を 食らったので、顔面が悲惨な状態になっていた。顔が膨れ上がり、口からは血が出ている。
もっと殴ってやりたかった。だが、スピリトのせいでそれはできなくなる。
「デアちゃんの心臓もらっちゃった!」
嬉々とした表情を浮かべるスピリト。俺はそいつの下へ足を運びながら、言う。
「おい、お前何してるんだよ!」
「セツのやりたいことはもう終わったから、転移魔法でデアちゃんの心臓を抜き取っただけだよ? 怒らないでよ~」
突然、背後から大きな音がした。熱い風が届いてくる。そして、何かが焦げる匂い。振り返れば、燃えていくデレアスモスの体。
敵に容赦のないやつだ。俺が見たあいつの最後は、火に包まれていく姿だった。
心臓を取り除かれて生きているはずのないあいつの声を聞いた俺は可笑しいのだろうか。
「次こそは必ず、我が手に……」
俺がもう一度振り返ってみると、そこにあったのは灰だけだった。
次もお前には渡さない。お前は指を咥えて見ていればいいさ。悔しそうな表情を想像するだけでも気持ちいい。
俺は血を浴びているユアの下へ行き、彼女を抱き上げる。「えっ!?」と困惑する声が聞こえるが、無視した。そして、ハラハラと落ちていく雫は見なかったことにする。俺は黙ってユアの側にいればいい。
スピリトは、デレアスモスの脈打つ心臓を眺めながら、俺たちの先頭を歩いていた。
立ち上がるデレアスモスだが、フラッとよろけて地面に膝をつく。体を支えるほどの力が残っていないのだろう。
「我を殺すか……」
「はあ、殺すねぇ……」
殺したくても殺せない相手だ。もしこの男を殺せば、俺は生きて帰れない。
スピリトの邪魔をすることは敵に回すことだ。自分のやりたいことを妨害されるのを嫌うあいつ。邪魔をする者をいじめ倒して潰すということは実際にあったことだ。
スピリトの気分次第で相手を追い詰める方法の度合いが変わることはあるが、だいたいが瀕死の状態にされて最終的には細切れにされる。
気まぐれで残酷。俺がスピリトと友人になれたのは、なぜだかよくわからない。ただ気に入ったからだとあいつがいっていた。
気に入られていても切り捨てられる可能性は高い。俺は死ぬわけにはいかないから、あいつの意思に沿わないことをするつもりはない。
「残念だが、俺はお前を殺せないな」
「お主、なにをいってい――」
デレアスモスに近づき、胸ぐらを掴みあげた。少量の魔力を拳に纏わせる。俺は力を込めた拳でぶん殴った。
「うぐっっっ」
くぐもった声を発し、倒れ込んでいるデレアスモスを一瞥した。美人顔に俺の攻撃を 食らったので、顔面が悲惨な状態になっていた。顔が膨れ上がり、口からは血が出ている。
もっと殴ってやりたかった。だが、スピリトのせいでそれはできなくなる。
「デアちゃんの心臓もらっちゃった!」
嬉々とした表情を浮かべるスピリト。俺はそいつの下へ足を運びながら、言う。
「おい、お前何してるんだよ!」
「セツのやりたいことはもう終わったから、転移魔法でデアちゃんの心臓を抜き取っただけだよ? 怒らないでよ~」
突然、背後から大きな音がした。熱い風が届いてくる。そして、何かが焦げる匂い。振り返れば、燃えていくデレアスモスの体。
敵に容赦のないやつだ。俺が見たあいつの最後は、火に包まれていく姿だった。
心臓を取り除かれて生きているはずのないあいつの声を聞いた俺は可笑しいのだろうか。
「次こそは必ず、我が手に……」
俺がもう一度振り返ってみると、そこにあったのは灰だけだった。
次もお前には渡さない。お前は指を咥えて見ていればいいさ。悔しそうな表情を想像するだけでも気持ちいい。
俺は血を浴びているユアの下へ行き、彼女を抱き上げる。「えっ!?」と困惑する声が聞こえるが、無視した。そして、ハラハラと落ちていく雫は見なかったことにする。俺は黙ってユアの側にいればいい。
スピリトは、デレアスモスの脈打つ心臓を眺めながら、俺たちの先頭を歩いていた。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる